28.交渉
「ええっ、そんなぁ~!」
門で魔獣の一件を知り、ブレンダさんに相談に来ていたところだ。
しかし、『契約を守るのも商人としての義務である』とはねのけられてしまった。
「なら聞くが、その話を聞いた後に出来ることが無いか探したのか?」
「う、それは・・・」
「だったらアタシが答えを変えることは無い。せいぜい期間内に討伐されるのを祈るだけだな。アタシも色々忙しい身だから、用事が無ければ失礼させてもらうよ」
去り行くブレンダさんの後ろ姿に反論する言葉が無い。
拳を強く握りしめても、やはり掛ける言葉は浮かんでこない。
こんなところで立ち止まっていられないのに!
「ギルド長、一ついいですか?」
「・・ミラ?」
「何だ?何かあるなら手短に頼むよ」
ミラの顔を覗くといつもの目では無い。
あー、これ絶対に私が話に入れない予感がする。
「今回の、課題も含めてですが確認しておきたいことがあります」
「・・言ってみろ」
「最近、伐採場近くで洞窟が見つかったそうですね」
「らしいな」
「それと誰かが道具を買い占めているらしく、道具屋が品薄みたいですね」
「冒険者が次の町に行く準備をしているだけじゃないのか?」
「私たちへの注文リスト、道具屋で足りなくなっている物がほとんどでした」
「・・・何が言いたい?」
「そうそう、最近現れた魔獣って例の場所の近くを陣取っているらしいですね?」
ええっ、それ初耳だけどそうなのっ?!
ブレンダさんの目がいつも以上に鋭くなる。
「・・・・・おい、お前たちはどこまで知っている?」
「・・やっぱりそうでしたか」
「ふっ、アタシを相手に鎌をかけるなんて、本当にとんでもない子が来たもんだねぇ」
ああ、また私だけ置いてきぼりな感じになってる。
ちゃんと私の分かるように説明して~!
「ごめん、私にも分かるように説明して?」
「やっぱ鈍いな、こっちの嬢ちゃんは」
「ごめんごめん、今説明するから~」
ミラとブレンダさんから改めて説明を聞く。
最近、村近くの伐採場近くに新しく洞窟が発見された。
そこで冒険者に中を荒らされないように洞窟の近くに見張りを置いた。
いざ探索しようと道具を集めている間に、見張りが魔獣に襲われた。
討伐隊が到着するまでに道具を揃えるため、道具屋が品薄状態に。
そしてその補充と不足分を補うために、私たちのとこに収集の依頼が来た。
と、纏めるとこんな感じらしい。
「まあそんな訳だから、期日内には必ず用意してもらわないといけない。すまないな」
私たちはギルドを後にして、一旦部屋に戻ることにした。
「はぁ~。結局課題は変えられないし、現状ではどうしようも無いことだけが分かったくらいかぁ」
「だね~」
うーん、魔獣を倒さないことには外に出られない。
かと言って魔獣を倒せるような実力なんて全くない。
不足分を道具屋で買おうにも在庫が無い。
さて、どうしたものか・・・
とりあえず気分転換に窓でも開けて空気を入れ替えよう。
窓を開けると、下の方で冒険者らしき人の会話が入り込んでくる。
「外に出られなくても腹は減るんだよなぁ」
「じゃあ持ってる薬草でも売ればいいんじゃないか?」
「いや、薬草なんて店で売ったって今日の飯代にもならねぇよ」
「ならいっそ薬草でも食って腹の足しにしすれば?」
「ああそうだな、何も食わないよりはマシだ」
薬草を持ってるって?
って、食べちゃうの待ってー!
「す、すいませーん!」
思わず窓から身を乗り出して声を掛けてしまった。
「ん、何だぁ?」
「良かったらその薬草売ってくれませんかー?」
冒険者は少し考えている。
「俺たちは今日食う飯代も無いんだ。嬢ちゃんたちが店よりいい値段で買い取ってくれるんならいいぞー」
私たちも毎日のご飯代は必要だ。
でも、こうなったら覚悟を決めるしかない。
「じゃあ、今から下に行って話がしたいので待っててもらえますかー?」
「ああ、分かった」
「ミラ、ちょっと巻き込んじゃうけど協力お願いね」
「モチのロンだよ~」
さて、下に行ったら交渉開始だ。
時間が無いので、手短にミラと落としどころを確認する。
宿屋を出ると声を掛けた冒険者たちが待っていた。
よし、やるぞ!
「お待たせしました」
「おう、せめて飯代になるくらいにはよろしくお願いしたいもんだ」
「数や物によりますが、出来るだけ善処します。早速ですが値段の交渉に移っていいですか?」
「ああ、頼む」
「まず、品物を見せて貰っていいですか?」
冒険者は道具袋の中をゴソゴソと探し、その中から薬草だけを選び取る。
その数は20枚ほど。
「今持っているのはこれで全部だ」
「では拝見させていただきます」
大きさは市販品と同じくらい、少し乱雑に取り扱っていたのか少し欠けている物もある。
これだったら店舗で買い取ってもマイナス査定されるレベルだ。
普通の店なら買取価格の半値の1ジールくらいにしかならないだろう。
「大きさはいいんですが、状態があまり良くないので1ジールくらいですね」
「はぁっ?それじゃ普通に店で売るのと変わらないじゃないか!」
「ええ、あくまで店売りならですけど」
「じゃあ、いくらで買い取ってもらえるんだ?」
「倍の2ジールでどうですか?」
「全部で40ジール、飯代1回分か・・・。なぁ、もうちょっと色を付けられないか?」
案の定といったところだ。
だけどこのくらいは想定済みである。
「45・・いえ、50ジールならどうですか?」
「控えめに食って2食分くらいか。悪く無い、よし売った!」
「毎度ありがとうございます」
冒険者から薬草を受け取り代金を渡す。
「ありがとよ嬢ちゃん!」
そう言うと連れの冒険者にもお金を見せつける。
それをうらやましそうに見つめる連れの冒険者。
「なぁ、、俺の持っている薬草も買い取って貰えないか?」
「はい、同じように査定させていただきます」
連れの冒険者も同様に薬草を見せる。
こっちの人は10枚くらい。
状態は良いものの大きさが一回り小さい。
結局似たような査定結果になったが、納得してくれたようだ。
「ところでこの買取はずっとやっているのか?」
「いいえ、期間と目標の数量があるのでそれまでですね」
「そうか・・・。さすがにそんな都合のいい話は無いよな」
「申し訳ありません」
「いや、変なこと聞いてすまなかった。目標達成できるといいな。じゃあ頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます」
冒険者が去るのを見送ってから私たちは部屋に戻る。
「はぁ~、なんか疲れた~」
「お疲れさま~、さすが薬屋の娘っていう感じの対応だったね~」
「村で普通にやってきたことのはずなのに、ちょっと緊張しちゃったよ~」
「でもこれで目星は付いたね~」
「うん、さっきみたいに町の中にいる冒険者に声を掛けていこう」
「地道にコツコツ大作戦だね~」
「あはは、コツコツなのに大作戦って」
「それでもコツコツがジワジワ効いてくるんだよ~?」
「確かにそうだよね。積み重ねればなんとやらって言うし」
ようやく活路が見えてきた。
さっきみたいに薬草を使ってしまう人が出てきたら、数の確保が難しくなる。
なら行動は早い方がいいに決まっている。
そうと決まれば、早速準備して出発だ!




