22.本当の旅立ち
「以上が私たちの出した答えです」
屋敷での最後の朝食の後、談話室で課題の報告をすることになった。
同時に、私たちが旅に出られるかどうかの審判でもある。
「なるほど、無理に戦おうとせずに逃げる、か」
「はい、私たちは相手を倒すのが目的ではないので、無理に戦う必要が無いと思いました」
「で、その為の道具がこれか」
最初の課題の為に私たちが用意したもの。
煙幕用の薬玉、ネバネバボール、吹矢とそれに使用する痺れ薬、怪我をした時に使う塗薬だ。
「数は十分にあるようだが、旅先ではどうだ?」
「はい、材料はできるだけ一般に広く普及しているものをベースに作っているので、旅先での補充もできます」
「ふむ、なら問題は無さそうだな。最初の課題はいいだろう」
問題のもう一つの方だ。
何せ交易が前提なので、すぐにお金になるものが少なかったからだ。
「香辛料だな。で、その横の薬草類の山はなんだ?」
「その・・香辛料が売れるまでは、需要の高い物を売って繋ぎにしようと思いまして・・」
「そんなことだろうと思っていたよ。それでは不十分だ」
「そんな~」
交易に使う香辛料用にと、ボムペッパーは沢山用意した。
毎日の料理で香辛料として使用している薬草はどうしたのかと言うと、実は薬草類の山がそれなのだ。
香辛料の話があった後にミラに聞きに行ったら、意外な答えが返ってきたのだ。
使っていたのは、どこにでもある普通の薬草や毒消し草などで、分量や使い方を工夫しているだけとのことだった。
仕方が無いの、需要の高い薬草を物量作戦で盛り込んだのだった。
このままでは許可が下りず、旅に出られない。
今はまだ朝だから、これから探せば何か、何かあるはず!
「お待ちください領主様」
「ん、なんだね?」
「私からも課題を提出させていただきますね」
「ミラ・・?」
テーブルの上に並べられたのは、干し肉と毛皮だった。
「魔獣の毛皮は売ればそれなりにお金になる。冒険者の常套手段だ。で、こっちの肉は何だ?」
「これは魔獣の肉で、塩とボムペッパーをベースに数種類の薬草で味を付けたものです」
「ほほう、これは美味しそうだな。だが、まだ食卓には上がったことは無いな」
「ええ、ですからお一ついかがですか?あ、使用した塩の代金は引いておきますよ~」
「・・・はい?」
「く・・くくくくくっ!」
「えーと、どいうことなの?」
「いやあ失敬失敬。さすがは商人の娘と言うべきか?私を相手に商売を始めるなんて」
「ちょ、ちょっとミラ?!」
「はいっ、ミラちゃん特製のピリ辛干し肉だよ~。そのまま噛んで良し、料理に使って良しの優れものだよ~。香辛料をしっかり馴染ませているから、生のままより長持ちで濃厚っ!特別価格で今なら1枚たったの40ジール!」
えーっと、状況が分からないよぅ!
誰か説明して~~!
「いや、ちょっと裏をかかれたよ。ここを出てから何かをするのかと思っていたからね」
「はい、これが私の答えです」
「それだけの度胸と気概があれば困ることは無いな」
「ええ、私たちは二人で一緒に旅をするんですから」
「いいだろう、旅に出ることを許可しよう!」
「や、やったー!」
「やったね~」
こうして無事課題をクリアして旅をする許可を得ることができた。
領主様が書類を作っている間、私たちは部屋の片づけと荷物の準備をする。
部屋から出る時にもう一度中を見回した。
簡素な作りの机と椅子、それにベットだけ。
ここで寝起きして、色んな物を作った。
ミラともいっぱい話をした。
少しの間だったけど、私の小さなアトリエだった場所。
でも、私たちの目的はここに居ることではない。
もっと先の世界の知らない場所なんだ。
行こう、全てを終わらせて笑顔で帰ってくるために!