16.領主様の課題 その5
「うーん、思ったほど飛ばないなぁ」
いつものように食堂で朝食を済ませた後、吹矢の試し打ちをしようと庭に来ていた。
が、矢の大きさや材料が問題なのか、単に私の吹き方に問題があるのか、思った結果が出ていない。
距離にして、私の大幅10歩分くらいしか飛んでいない。
毒を塗って実用的に刺さる距離となると、もう2・3歩分短くなりそうだ。
「なんか、微妙だねぇ~」
「うん、もっと”ビューン!”って飛んでいくかと思っていたんだけどなぁ」
「じゃあ、やめる~?」
「ん~、実戦でどこまで使えるか次第かなぁ」
「なら今日、草原に行ったときに試してみる?」
「そうしようかな。ミラ、サポートお願いしてもいい?」
「いいよ~」
「じゃあ各自準備して門の前に集合だね」
「了解~」
自室に戻って、残りの矢をバッグに詰めて持っていく。
間違ってミラに当たったら大変なので、今回は毒を使わない。
門の前でミラと合流、領主様に一言伝えて草原に向かった。
領主様からは『実戦は学べることも多いが無茶はしないように』と釘を刺された。
「リア~、こっちにいたよ~」
「分かった!すぐいくー!」
草むらの中には、昨日ミラが戦っていた小型の魔獣がいた。
ミラはすぐに対応できるように、私の少し斜め前に構えている。
吹矢を魔獣目掛けて吹く。
シュッと音を立てて飛んでいく矢。
矢はそのままの角度で、魔獣のお尻近くに刺さった。
「やった、当たった!」
「キュェェェェェッ!!」
魔獣は悲痛な声を上げた後、怒りを顕わにしてこちらに突進してくる。
「来るよ!リアは下がってて!」
「うん、お願い!」
足を少し引いて構え、は魔獣の横腹辺りを一蹴。
断末魔を上げながら宙を飛び、そのまま絶命してしまった。
倒れている魔獣に近寄り、刺さっていた矢を抜いている。
矢の真ん中くらいまで刺さっていたようだ。
しかし、矢は再利用できそうに無い。
やっぱり木だと、強度に問題ありだなぁ。
「あのくらいの距離からなら、何とか使えそうかな」
「そっかー、じゃあ後は練習あるのみだね~」
その後、暫く同じタイプの魔獣での試し打ちをする。
結果は、可もなく不可もなくという感じだった。
「うーん、ほんとに微妙な結果だなぁ」
「そうだね~。動いている子だと、ほとんど当たってなかったもんね~?」
「これだと、奇襲用にしか使えそうにないなぁ」
「別の方法が必要だね~」
「ちょうど残り1本だから、次を最後にしようか?」
「だね~」
近くの茂みがガサガサ動く。
いたいた、じゃあさくっとやろう。
息を吸ってー、吹矢を吹・・・
という瞬間、綿毛が鼻先を掠める。
「ふぇ、クシュン!!」
あっ!と思ったときには矢は発射された後だった。
狙いを外れて魔獣の横の草の中に消える。
その刹那、ボンッ、と軽い爆発音がして、魔獣が軽く吹き飛ぶ。
驚いた魔獣はそのまま逃げてしまった。
「え・・・なに?今何かした?」
「ううん?まだ何もしてないよ~?」
ということは、魔獣が何か魔法でも・・・?
いや、魔獣が魔法なんか使えるなんて聞いたことが無い。
じゃあ、いったい何が起きたんだろう?
矢の消えた茂みの辺りに何かある?
草を掻き分けて爆発のあった辺りを見てみる。
そこには少し焦げた跡があった。
何か赤い物が散らかっている。
触ってみると、ツルツルの面とザラザラの面があり、ザラザラの面が焦げている。
「これ、なんだろ?」
「うう~ん、これってなんか植物っぽくない~?」
「植物ねぇ・・・図鑑にでも載っているかなぁ?」
バッグから図鑑を取り出して探してみる。
”取扱注意品”の判子の付いたページに、似たような植物が載っている。
茎と茎の先に残っていた赤い実を図鑑と見比べてみる。
「多分これじゃないかな?”ボムペッパー”っていうみたい」
「へ~、そうなんだ~?」
「なになに・・・成熟した果実が種をばらまくために爆発する、らしいよ」
「ふーん」
「薬草の群生地に生えることが多いので採集の際は注意すべし、だって」
「んー」
「どうしたのミラ?」
「うん、”ペッパー”って言うくらいだから、料理に使えないのかなーって思ってね~」
「どうかなー、ちょっと見てみる」
再び図鑑に目を通す。
効 能:殺菌作用がある。
採 集:実を触らないように、少し茎を付けた状態で収穫する。
爆発させるためのエネルギーは根から吸収する必要があるため、
根が付いたまま収穫してはいけない。
使用法:実と根、共に乾燥させて粉末にしたものを使用する。
実には独特の辛味があり、保存食作りにも利用される。
根はえぐみが強く食用に向かないが、他の薬草と組み合わせて
簡易煙幕として使用される。
「料理にも使えるって。それと煙幕の材料にもなるみたい!」
「お~、それは是非使ってみたいな~」
「じゃあ、早速集めよう!」
それぞれ、実を取ってから茎と根を収穫する。
茎の使用法は書いていないので用途不明だが、ミラが料理に試してみたいと言うので、ついでに収穫している。
収穫していて気が付いたが、深い草むらの中に多いらしい。
結構危ない場所にいたんだと、改めて考えるとぞっとした。
気を付けよう、暗い夜道と藪の中、だ。
空がオレンジ色に染まるころには、それなりの量を集めることができた。
収穫した実は庭を借りて干すことにした。
天気が良くても2・3日くらいかかるみたいだし、その間は別のことをしよう。
3日目にして課題の一つは中途半端な上に、もう一つは全くの手つかず。
ああ、何かいい案が天から降りてこればいいのに!




