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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第2節
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11.領主様の屋敷

「やっと着いたぁー!」

「結構遠かったね~」


 村を出てどのくらい経っただろうか。

 街道を歩いているときは、常に小高い丘の上にあるように見えていた領主様の屋敷。

 しかし歩けど歩けど一向に着かず、屋敷に着いたのは正午を少し回ったくらいだった。

 鉄製の柵で囲われた立派なお屋敷だが、入り口は”ウェルカム!”と言わんばかりに全開である。


「近くに来るとかなり大きいねー」

「お掃除は大変そうだねぇ~」

「私は覚えていないんだけど、ミラは領主様に会ったことある?」

「私もぜ~んぜん覚えてないよ~」


 となると、誰か屋敷の人を捉まえて領主様の所に連れて行ってもらうしかなさそうだ。

 使用人が庭作業しているのだろうか、木々の手入れをしている音がする。

 


「あの人に聞いてみようか」

「そうだね~」

「すみませーん、領主様に謁見したいんですが」


 声を掛けられた人物は、麦わら帽子を少し上に逸らしこちらに振り返る。

 長身でさわやかという感じの青年だった。


「おや、珍しい時期にお客さんだねぇ」

「いえいえこちらこそ、忙しい時に申し訳ありません」

「今案内するからちょっと待ってて」


 そう言うと、あっという間に庭道具を片付けてしまった。

 さすが職人さんは違うなぁ。


「では、こちらからどうぞ」

「失礼いたします」

「失礼しま~す」


 大人二人分くらいありそうな大きな扉を開け、中に案内される。

 きれいな赤い絨毯が、様々な部屋へと伸びている。

 私たちはそのまま謁見の間に通された。


「準備をしてきますので、ここで少々お待ちください」


 そういうと、庭師の男は部屋を出て行ってしまった。

 それから少しして、庭師の男が戻ってきた。

 しかも、立派な服を着て。


「どうも、領主のレスターだ。よろしく、お嬢さん方」


 私が庭師と思っていた男性は、領主様だった。

 ふとミラの方を見ると、いつもの笑顔をにこっと返される。


「えっと、ミラは知っていたの?」

「ううん、知らないよ~。でも、なんかこう歩き方とか身のこなしを見てなんとなくかなぁ~?」


 さすが宿屋の娘。人間観察力もハンパない。


「はは、驚いたかい?領主が庭の手入れなんかしてるなんてね」

「ええっと・・・ちょっとですけどね」

「ほんとは専属の使用人はいるんだけども、今日はちょっと外しててね」


 そういえば、ここに案内されたときに、他の使用人らしき人達には出会わなかった。


「しかし、二人とも大きくなったねぇ」


 相手はこちらのことを知っているみたいだが、こちらは事実上の初対面である。

 少々苦笑いが出る。


「と言っても覚えていないだろう?」

「・・すみません」

「はは、問題ない。君がテオとソフィの娘のリアちゃんで、そちらのお嬢さんがローとレイラの娘のミラちゃんかな?」

「はい、その通りですが、どうして分かるんですか?大きくなってからは初対面のはずですが・・」

「二人とも、若い頃の親御さんにそっくりだよ」


 お母さんたちが若い頃のって、いったいこの人は何歳だろう?

 まったく年相応には見えないんだけど・・


「いえいえ~、領主様もまだまだお若いですよ~」

「はは、ありがとう。でも今回はただの挨拶、という訳ではないんだろ?」

「はい、これを父から預かりました」


 バッグからお父さんから預かった書状を取り出して渡す。

 すると、さっきまでの優しい顔つきが一瞬鋭くなり、周囲の空気が張り詰める。

 これが領主様の威厳というやつだろうか。

 ちらと横目でミラの方を見ると、相変わらずのにこにこマイペース顔。

 これが宿屋の娘の品格というやつだろうか。

 思考が迷走しているうちに、領主様が書状を読み終えたようである。


「・・ふぅ、まったくテオも相変わらず無茶苦茶だなぁ」

「あの、私たちの両親のことをよく知っているみたいですけど、親しい知り合いだったりしますか?」

「私がこの領地を治める時まで、同期だったんだよ」

「同期って・・えぇっ!!同い年?!」

「その感じだと君にはまだ教えていないみたいだから、それ以上は何も言えないな」


 私たちの両親と()()

 本当にうちの両親は、昔何をしていたんだろうか。

 深まる謎を考えている間もなく、領主様は話を続ける。


「とりあえず、旅に出ることには許可しよう」

「ありがとうございます」

「しかし今の君たちではこの世界を冒険するには力不足過ぎるだろう。故に条件を出そうと思う」

「えっ?」

「条件は二つ」

「二つ?」

「一つは自分の身を守る術を見つけること。言うまでもなくこの世界には多くの生き物がいる。友好な種族もいれば好戦的な種族もいる。野盗や魔獣の類もいる。だからこれが出来ないようなら旅すること自体を許可できない」


 ミラ自身は村でも結構強い部類に入っているから問題なさそうだけど、私の方が問題だなぁ。


「そしてもう一つは、旅先での生活手段だ。誰かが生活の資金を出してくれるわけではないのは当然だ。旅に出るというのはそういうことだ」


 うぐ、領主様が言うことはもっともだ。

 今持っている路銀がいつまで持つかなんて分からない。


「以上二つの条件を満たせる答えを、十日以内に私に報告せよ。以上!」


 こうして領主様との謁見は終了した。

 期間内はこの屋敷を拠点として使っても良いということだった。

 その後私たちは、屋敷の空いている部屋に案内された。


「すぐに旅に出られると思ったけど、そうはいかないかぁ~」

「でも、領主様の言っていることは間違ってないと思うよ~?」

「ミラは結構強いから、課題の一つはクリアできているようなものだけど、私は両方頑張らないと」

「ん、私?私はどっちも考えてあるよ~?」

「ええーっ?!」


 ミラができる子過ぎるのか、私が甘く考えすぎなのか、いずれにしても足を引っ張っているのは私の方か!


「私も一緒に考えてあげるから、がんばろ?」

「ありがとうミラ~~~!」



 かくして、私たち(主に私だけなんだけど)は旅に出るために領主様の課題をこなすことになった。

 本当に旅立てるのか不安だけど、頑張ろうっ!


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