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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第7節
159/159

154.導く光

『わぁ・・・』


 屋敷に続く小さな雑木林を抜けると、私たちの前に絵本から飛び出してきたような世界が広がった。

 辺りは木漏れ日の暖かな光で満たされ、足元には色とりどりの花々が咲き乱れている。

 まるで、森の一角をくり抜いて作った秘密の花園のようだ。

 この場所、この時間だからこその、限られた光景なんだろう。

 それにしても、ここには始めてきたはずなのに、懐かしいというか、妙に落ち着く感じがするんだよね。

 うーん、何でかなぁ・・・。 


「あ~、ダメだよ~」

「キユィ!」

「なにっ?!」


 いつもとちょっと違うユリの声に、思考が中断する。

 どうやらユリが、花を勝手に食べようとしていたみたいだ。


「もー、お花を勝手に食べちゃ・・・って、あれ?」


 かなり立派な花が咲いてしまっているが、それは紛れもなく薬草だった。

 ここまで育ってしまうと、葉っぱは()()()が強いから、飲み薬としては使えない。

 でも、花だけならお茶に・・・じゃなくて!

 薬草が生えやすい場所というのはあるけど、基本的に強い植物だから、どこに生えていてもおかしくない。

 違和感があるのは、その生え方だ。

 薬草は近くに種が落ちるから、どうしても固まって生えることが多い。

 が、ここの花畑の花は、どれも散らばって咲いているように見える。

 どういう意図があるのかはよく分からないけど、人の手が入っているのは確かだろう。

 改めて辺りにある花を注意深く観察してみると、ほとんどが薬に使える植物の花のようだった。

 もしかして、ここって・・・。


「あら、早かったのね」


 声のした方に振り向くと、アンジェさんの姿があった。

 持っているのは水桶みたいだけど、あの刺さっているものは何だろうか?

 見た感じ、陶器で出来ているみたいだけど。

 

「いえ、今着いたところです」

「そう。本当ならすぐに案内したいんだけど、日課の水やりが今からなの。もう少しだけ待っててくれるかしら?」

「はい、大丈夫ですよ。じゃあ、私たちは邪魔にならない場所に移動しますね」

「入口辺りなら、大丈夫だと思うわ」

「分かりました」

「それに、今日の条件なら、きっといいものが見れると思うわよ」

「いいもの?」

「まあ、それは見てからのお楽しみね」


 何が起こるのかよく分からないけど、とりあえず雑木林の木陰に退避することにした。

 アンジェさんは私たちが移動したのを確認すると、謎の道具を手に取り、それを花畑の方に向かって、勢いよく振り抜いた。

 直後、空中がキラキラと煌めき、そのまま花畑に落ちていった。 


「おおーっ!」

「わぁ~っ!」


 どうやらあの謎の道具は、水を撒くためのものだったらしい。

 アンジェさんは私たちの方に軽く視線を送ると、今度は場所を変えて、同じように水を撒き始めた。

 水を撒くたびに光が増えていき、終には、花畑中が輝きに満ち溢れた。


「どう、気に入ってくれたかしら?」

「はい、とっても素敵でした!」


 私たちの満足そうな表情を見て、アンジェさんもにこりと微笑みを返してくれる。


「じゃあ、時間も良さそうだし、中に入りましょうか」


 アンジェさんが屋敷に向かって歩き出したので、私たちもそれに続いて歩き出す。

 花畑の真ん中くらいに差し掛かると、急に、少し強めの風が吹き抜けていった。

 夜の気配を含んだ風は、地面にあった光を巻き上げ、ふわりと目の前を通り過ぎてゆく。

 一瞬、アンジェさんの後ろ姿が、光の道を進む女神様のように見えた。

 その一瞬に、これから起きるであろう奇跡を、期待せずにはいられなかった。

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