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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第6節
143/159

138.全ては王の掌の上

「試食会も終わったし、お片付けは私がやっておくね~」

「あ、色々作ってもらったし任せっきりも悪いから、私も手伝うよ!」

「い~のい~の。それにほら~、師匠とちゃんとお話をした方がいいんじゃないかな~?」

「あ・・うん、そうだね。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「はいは~い、お任せあれ~」


 ミラは手際よく食器を片付けると、台所の方に消えていった。

 さて、試食会まで無事に終わったということは、この研究ももう終わりということだ。

 師匠が用意してくれた本を見て色々やってみたいことが出来たけど、好き勝手にやるという訳にもいかない。

 だからこれからどうするかは、師匠と話をして決めなくちゃいけないということだ。


「とりあえず研究は一段落しましたね、師匠」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、次にやることを決めないとですね。んーと、畑の見回りは継続するとしてー」

「いや、それはもうしなくてよい」

「え?でも・・・」

「リア、お前はここに何をしに来たのか覚えているか?」

「それは王様から師匠に弟子入りするように言われて」

「そうだな。しかし、儂が弟子入りを許可した時点でその目的は果たされていたのだから、そのまま王の所に帰るという選択肢もあっただろう?」


 確かに師匠の言うことは一理あると思う。

 私の目的がユリと自分の身の解放だけなら、そうした方が良かったのだろう。

 『目的が果たされたので、はいさようなら!』というのがあまりにも失礼すぎるから、という当然の理由もある。だけど、薬草仙人(ハルバリオン)と呼ばれる人がどんな人なのか会ってみたかった、という好奇心の方が勝っていたという理由の方が大きいと思っている。

 それとスウィーティアでの一件で、師匠と弟子という関係に少し憧れのようなものを感じていたからということもある。

 だから王様から話を持ち掛けられた時、これもきっと何かの縁だろうって。

 でも急にこんなことを話すなんて、どうしたんだろう?


「色々理由はあるんですけど、一番の理由は師匠に興味があったからかな」

「興味とな?」

「はい。以前領主様の所に行った時、メディシア様が領主様のお母さんって聞いたんです」

「メディ・・ああ、フローのことか。また随分と懐かしい名前を聞いたものだな」


 師匠は少し遠くの方を見つめると、何かを思い出したかのように少し柔らかな表情になった。

 それは、私と居た時には一度も見せたことの無い表情だ。


「もしかして、フロリアさんとお知り合いでしたか?」

「ああ、王国でアルケミスト長をしていた頃の研究仲間だ」

「そうでしたか。じゃあ、フロリアさんが既に亡くなっていることも知っているんですね」

「勿論だ。その話が出たということは、リアの興味とはアレのことだな?」

「はい。師匠が思っている通り、師匠が『薬草の父』って呼ばれているのを町で聞きました」

「確かに儂のことをそう呼ぶ者がいるということは知っている」

「じゃあ、私が師匠の所に来たのって・・・」

「ふむ、偶然では無く必然だろうな。全ては王の掌の上、というところだろう」


 やっぱりというか、あの王様は全部知っていたってことなんだろう。

 思えば地下牢に入れられた時から、違和感みたいなものを感じていた。

 罪人というにはひどい仕打ちを受けたという覚えも無いし、都合よくアルケミストの試験があったり、さらにそれに落ちることを予想していたように師匠のところへ弟子入りする話が出てきた。

 ユリを私から取り上げたのも、私が逃げ出さないようにするためだろう。

 悔しいけれど師匠の言う通り、私はあの王様の掌の上で踊っていただけなんだ。

 それを知った師匠もきっと、私なんてもう要らないと思っているのかもしれない。

 そう、私なんて―――


「・・・リア、お前が良ければここに残って研究を続ける、という選択肢もあるぞ?」

「え?」


 師匠から出てきた言葉に、一瞬耳を疑ってしまう。

 同時に、心の奥底に小さくて温かな光がふんわりと広がるのを感じた。

 その光に向かって進んでいけば、きっと自分が満足のいく運命を辿ることが出来るだろう。

 だけどそれは、世界のことを諦めるということでもある。

 自分と世界、どちらかを取ってどちらかを捨てなくてはいけない。

 そして捨ててしまった方はもう、二度と取り戻すことは出来ないだろう。

 うぅ、どうしよう、どうしたらいいんだろう!?


「まあ、どうするかはお前自身が決める事だ」


 分かってる、そんなの言わなくたって分かってる!

 でも、でも・・・どうしたらいいか、誰か教えてよっ!


「そう言えば、お前に伝えて無かったことがあるな」

「何を、ですか?」

「師匠が弟子に贈る言葉だ」

「師匠が・・・弟子に言葉を?」


 そういえば前にリースさんが言った言葉、師匠からの教えって言ってたっけ。

 それって前に、師匠が言ってたことかな?


「それってあれですよね、実力があれば差別しないとかっていう」

「いや、それはあのバカ息子、セイブスに贈った言葉だ。そもそも、贈る言葉は弟子一人に一つづつという慣わしだ」

「へー、そうなんだ」


 ということは、リースさん以外の人たちも別の言葉を貰ってるってことなのかな?

 みんながどんな言葉をもらったのか、ちょっと気になる。


「さて贈る言葉だが、言葉はその時に一番必要だと思うものを贈るというのも慣わしだ。一度しか言わないから、よく聞くんだぞ」

「はい、師匠!」


 師匠が私に、どんな言葉を贈ってくれるんだろうか?

 ちょっとわくわくするな!


「コホン。我が弟子アメリア、汝に幸多き言葉を贈る。”信じるべきは人に非ず 信じるべきは神に非ず 信じるべきは己が道のみ”」

「え?」

「以上だ」

「えーっと・・・師匠、それってどういう意味ですか?」

「何かを成す時は人頼みや神頼みでは無く、自分自身の信念を貫いて行え、という意味だ」

「つまり、他人を当てにするなってことですか?」

「そうでは無い。他人の力を借りるのは構わんが、判断は他人に委ねず自分の意思で行え、という意味だ。それが誰も成し得たことの無い事なら尚更だ」

「判断を他人に委ねるな、か。うん、ありがとうございます、師匠!」

「ふふっ、悩みは晴れたようだな」

「はいっ!」


 誰かが決めた道は、迷うことは無いかもしれない。

 でもそれで何かを成したとしても、本当に納得できるものが得られるかは分からない。

 だってそれは、誰かが勝手に決めた誰かの道だから。

 本当に納得できるものが欲しかったら、どんなに辛くて苦しくても、それは自分で選ばなくちゃいけないんだと思う。

 だから私の道は、私が決めなくっちゃ!

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