9.小さな決意
「おはよう」
「おはよう、もうすぐご飯よ」
いつもと同じ朝。
少し違うことといえば、腕に抱いているこの子と、お父さんが見当たらないくらいだ。
「あれ?お父さんは?」
「昨日のことで、朝から集会みたいよ?」
そっか、昨日のことは村のみんなにも伝えにいかなきゃだしね。
お母さんなら薬草に詳しそうだから、あのことちょっと聞いてみよう。
「・・・ねぇ、命を狙われるくらいの価値のある薬草ってあるの?」
「突然どうしたの?」
「いや、ちょっと気になっただけ」
「そう。あるにはあるわよ?」
「あるの?!」
「ええ、『世界樹の葉』っていうのはあるみたいだけど、命を狙われるほどの価値があるかと言われると微妙よねぇ」
「『世界樹』っておとぎ話だけの話じゃないの?」
「色んな文献に『世界樹』は出てくるけども、誰も見たこともないのよねー」
「誰も見たことがないのに記録に残ってるの?何か変な話だね」
「何でも、昔は不老不死とか、死者を蘇らせるなんてのを研究する怪しい人達がいたみたいなのよー」
「『世界樹の葉』ってそんなことができるの!?」
「いいえ、ただの葉っぱにはそんな力は無いわ。ただ、どんな病気や怪我でも全快させるっていう話らしいわ」
「それでも十分すごいと思うんだけど」
「噂や伝説になっているだけど、真偽は不明なのだけどねー」
『世界樹の葉』ですら伝説止まりなのに、それ以上のものが存在するなんてあり得るのかな?
それとも私たちの知らない薬草が、この世界にあるっていうことなんだろうか?
試行を遮るように扉が開く音がする。
「今戻った」
「おかえりなさい」
「お父さん、おかえりなさい」
「少々困ったことになった」
「・・何かあったのね?」
「ああ。すまんがリア、ちょっと外しててくれないか」
「うん、分かった。部屋に戻ってる」
部屋に戻ると、ベットの上に横になった。
あんな顔の二人を見るのは初めてだ。
村の会議で何かあったのは明白だ。
だとすると、昨日の夢も何か意味があるのかなぁ・・・
そんなことを考えていると、視界が徐々に白けてゆく。
ゆっくりと黒い影が迫ってくる。
輪郭からして女性だろうか。
後ろから光が差しているせいか、顔はよく見えない。
「あなたは誰・・?」
―――彼の地
――ー深き森の奥
―――遺跡
―――始まりのあの場所へ
「何?いったい何のこと?」
私の呼びかけに答えず、徐々に離れていく黒い影。
―――あの子を連れて
―――真実は――ー
「まって!」
差し伸べる手は黒い影を捉えられず、空を切る。
戻ってきた視界の前には、真っ白いあの子がいた。
「また、夢・・?」
昨日の夢に、さっきのこと。
いや、ここまでくると誰かからのメッセージだと言われるほうがしっくりくる。
誰かが私を呼んでいると考えるほうが自然だと思う。
さっきの声の主も気になるところだけども、『彼の地』にはまったく見当がつかない。
遺跡のある森なんか、それこそ世界中にありそうなものである。
「あなたは何を知っているの?」
何を聞かれているのか分からないという風に顔をかしげるあの子。
そういえば、名前つけていなかったな。
野生の生き物に名前を付けると、別れるときに辛いからって思っていたし。
もしあの場所を探すことになったら、長旅になるだろう。
いずれにしても、長い付き合いになりそうだ。
名前・・・白っぽいからシロ?って単純すぎるかなぁ。
ふと、お母さんから借りた薬草の図鑑に目がいく。
なんとなく、真ん中から少しだけ後ろのページを開いた。
それはここから遠く離れた異国の植物だった。
平地だけでなく、山の高いところにも気高く咲く一輪の大きな花らしい。
『ワメイ』ってなんだろ?
でも、ちょっとかわいいな。この名前にしよう。
「あなたの名前は、今日から”ユリ”だよ。よろしくね!」
キュイッっと、小さな声でユリは返事をした。
私は小さな決意を胸に、旅に出る決意を固めた。




