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薬草少女は今日も世界を廻す  作者: るなどる
第6節
131/159

126.奇縁な再会

「無理ムリむり~~~っ!!」


 私は今、全力で草原を疾走している。

 理由は私のすぐ後ろ、ブラッディロアーの群れに追いかけられているからだ。

 なぜこうなったかは分からないけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。


『ワゥッワゥッ!!』

「はぁっ、はぁっ・・・あっ!」


 ドサッ!


 朝露を蓄えた草原の草に足を取られ、前のめりに倒れ込んでしまった。

 急いで起き上がろうとするも、足が痛くてうまく立ち上がることが出来ない。

 気が付くと空腹の獣たちは一気に距離を詰め、逃げられないように私を囲い込んでいく。


「い・・イヤ、誰か、誰か助けてーーー!!」


 近くにいるかもしれない誰かに向かって、私は力の限り叫んだ。

 しかし、私の声は空を切って誰にも届かなかった。

 周りを見渡しても、冒険者はおろか盗賊の影すら見えず、獣たちがこちらを美味しそうに見つめている姿しか確認できない。


「食べるのは好きだけど、食べられるのはイヤーーー!!」


 自分の力だけでは、この状況から逃げ出すことは無理だ。

 誰か・・誰か助けてっ!!

 そんな僅かの望みも天には届かず、群れの中の一匹が鋭い牙をギラギラと見せつけ、こちらににじり寄ってきた。 


「う・・・あっ!」


 その獣は私に飛び掛かってきて、仰向けに押し倒してきた。

 抵抗しようにも、腕が前足に押さえつけられていて動くことが出来ない。

 それは明らかに獣の重さよりも大きな力で、まるで岩を乗せられているみたいだ。

 獣は私が動けないのを確認するやいなや、ゆっくりと大きく口を開け、私の頭に狙いを定めた。


「あ、あ・・・いやぁ――――っ!!」


 そのまま真っ直ぐ牙を振り下ろされ、私の目の前に―――



「あーーーーっ・・・・・・って、あれ?」


 目の前に広がったのは獣の胃の中では無く、真っ逆さまな世界だった。

 天井には、白いふわふわしたものが不自然にぶら下がっている。

 少し頭と首が痛いけど、血は出ていないようだ。


「ゆ・・・め?」


 どうやら私は寝返りを打って、ベッドから落ちてしまったらしい。

 天井だと思っていたものは床で、白いふわふわしたものは枕だったようだ。

 そういえば、昨日は王宮に泊まるように言われて、ここで寝たんだっけ。

 この部屋は遠くから来る来賓のための寝室で、今は誰も使っていないとのことだ。

 それと、ちゃんとした来賓がいるときは使用人が付くらしいんだけど、私はそういう人じゃないから関係無いと思う。


「まあ、さっきのを誰かに聞かれていても気恥ずかしいし、良かったかもしれな――」


 コンコンコン!


「今叫び声が聞こえたようですが、何かありましたかっ?!」


 扉を叩く音と同時に少し慌てた様子の女性の声が聞こえてきて、ビクッとする。


「だ、大丈夫です!ちょっと足をぶつけただけですから!」

「ぶつけ・・・?あの、打ち身をしているようでしたら、氷水と布をお持ちしますよ」

「い、いえ!もう治りましたので大丈夫です!」

「そうですか?では、何かご必要でしたらお呼びくださいね」

「はい、ありがとうございます!」


 ・・・ビックリした、まだ心臓がバクバクいってる。

 まさか人が居るなんて、ちょっと油断してた。

 おまけに余計な心配をさせてしまったし、恥ずかしくて出て行きづらい。

 うぅ、仕方が無いから落ち着くまで、準備をしながら今日の予定を確認しよう。


 ええと、まずは王様の所へ挨拶に行って、それから城下町で身支度をする。

 あまり時間は掛けられないから、最低限の食料と薬草を買うだけにしよう。

 買い物が終わったらすぐに町の南門に向かって、真っ直ぐ薬草仙人(ハルバリオン)のおじいちゃんがいる丘に向かう予定だ。

 確か、丘の名前はエバーグリーンで、おじいちゃんの名前はサイラスって言ってたっけな。

 大体の方角は分かるけど、問題は道中で今朝の夢みたいなことが起きないかということだ。

 腕のいい冒険者を雇えればいいんだけど、ゆっくり探している時間が無いのが現状だ。

 うーん、ダメ元で王様に相談してみようかな?

 さて気持ちも落ち着いたし、そろそろ行こうかな。


 私は予定通り王様の所へ挨拶に行って、さっきのことを相談してみた。

 少し考えた後、許可証を持たせた同行者を南門に向かわせるから、そこで落ち合ってくれと言われた。

 誰が来るか分からないけど、何事も言ってみるものだ。

 話が終わった後に少しニヤニヤしていたのが見えたけど、どうすることも出来ないから気にしないことにした。

 そのまま城下町に向かって買い物を終わらせ、真っ直ぐ南門へと向かう。

 門の近くまで来ると、懐かしい顔を見つけたので声を掛けてみた。


「お久しぶりです、ギルさん!」

「お、薬草の嬢ちゃんじゃないか。王都には観光で来たのかい?」

「あー、うー、そのー、訳あってエバーグリーンって丘に行くことになりまして」

「ほう、奇遇だな。俺もそっち側に行く予定だ」

「そうなんですか」

「ああ、それで人を待っているんだ」

「誰かと一緒に行くんですか?」

「うむ。なんでも今朝方足に打ち身をして、直後に驚異的な回復をした女の子らしくてな、その護衛を頼まれたんだ」

「へぇ、足に打ち身を・・・」


 んー、んんー?

 足に打ち身をってどこかで・・・あ。

 それって、もしかしなくてもそうだよね?


「あのぉー、その護衛を頼んだ人って王様だったりしませんかー?」

「ああそうだが、どうして知ってるんだ?」

「ええと・・・多分その女の子って私だと思います」

「そうなのかい?」


 そんなおかしな情報の女の子なんて、町中探し回ってもそうそういないと思う。

 今朝会った時は何も言ってなかったけど、あの含み笑い、全部知ってたんだ!

 むぅー、やっぱ意地が悪いよ、あの王様!


「じゃあ、改めてよろしくな、嬢ちゃん!」

「はい、よろしくお願いします、ギルさん」


 何と、王様が送り出した同行者はギルさんだった!

 不思議だけど、これも何かの縁なんだろう。

 ともあれ、これで道中の魔獣は大丈夫だね!

 よーし、薬草仙人(ハルバリオン)のいる丘目指して、出発だー!

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