8.不思議な夢
「はぁはぁはぁ・・・誰か助けて!」
目の前に広がる深い白い霧。
その中を私が走っている。
いや何かがおかしい。
窓から見る外の世界のような感じがする。
これは誰かの記憶・・・?
「こっちにいるぞ!逃がすな!」
「この野郎!」
「おい、ばかっ!殺すんじゃないぞ!」
ヒュッ。
後ろから何かが飛んでくる音がする。
同時に視界が低くなる。
何かが掠めたであろう場所に手を当てる。
その手には赤い何か――血が付いている。
再び視界が上がり、景色が流れ始める。
「もう少し・・・!」
霧を抜けて視界が一瞬明るくなる。
そしてゆっくりと風景が輪郭を取り戻していく。
同時に、視界が右へ左へと激しく移動し、どんどん狭くなっていく。
「こ・・じ・・・薬草・・・わた・・い・・・!」
声が途切れ途切れにしか聞き取れない。
そして視界の閉じられる最後に向けられた視線の先には白い花畑があった。
次の瞬間、私のよく知る風景――自室の天井がそこにあった。
「夢・・・にしてはかなりリアルだったなぁ」
夢の中で血がついていたところを触ってみる。
当たり前のことなのだが、傷なんかない。
最後に見た風景が昨日の場所だったとしたら、追われてた子は昨日の白い子?
いやいや、あの感じだと私と同じか少し低いくらいの背丈だろう。
どう見ても大きさが違いすぎる。
昨日の出来事と夢の中がごっちゃになっているだけかもしれない。
それにしても一番気になるのは、『薬草』が何とかっていうところだよなぁ。
でも、ただの薬草のために命が狙われることなんて、そんなことあるのかなぁ?
今日はあの子を森に帰すんだ。
そして今まで通りの生活に戻る。
毎朝起きて、みんなでご飯を食べて、お店の番をして、時々ミラとお話しして・・・
当たり前のことをずっと、おばあちゃんになるまでやるんだ。
だから、今日も起きて一日を始めよう!