105.真実へと続く道 その7
「私が聞きたいのは・・・廃人通りの人たちを救う方法です」
自分が無謀な話をしていることは分かっている。
もちろん、バイゼンさんの話を聞いてなかった訳では無い。
最初は、カリンカリンの毒さえなんとか出来れば救えると思っていた。
でも、それは違った。
廃人通りの人たちを救うということは、罪の無い普通の冒険者はもちろんのこと、助かる見込みのない病人や罪を犯した人たちも助けるということだ。
私がやろうとしていることは、ただの高慢なのかもしれない。
「・・・君は、さっきの私の話をちゃんと聞いていたのかね?」
「ええ、ちゃんと聞いていました。それでも私は、みんなを救いたいと思っています」
罪の無い人が犠牲になるのは、間違っていると思う。
罪を犯したなら、生きてちゃんと罪を償ってほしいと願う。
助からない病気だからと見捨てられるのは、寂しくて悲しいことだ。
目の前に助けられそうな命があるのにただ黙って見過ごすなんて、もう絶対イヤだから。
「覚悟はあるようだな。なら、少し意地悪な質問をしよう」
バイゼンさんの言葉に、体がキュッと締まる感じがする。
きっと、最初に会った時以上の嫌な質問だと、体が、心が反応したんだ。
「君の救うという言葉には、終わらせるという意味も含まれているのかな?」
「なっ?!」
「ちょ・・ちょっとそれって、リアに人殺しをさせるって意味じゃないわよね?!」
「・・・さすがにそれは許さないよー?」
「笑えない冗談だな」
「リア姉ちゃんに、なんてことさせようとしてんだ!」
確かに、本当に意地悪な質問だ。
”救う”ことが”助ける”こととは限らない。
安らかに終わりを告げることも、”救う”ことには違いない。
みんながバイゼンさんの質問に反論する中、ギーダさん一人だけが黙っている。
いつもみたいに、こんな面倒な事には関わりたくないって思ってるのかも。
それはそれで、ちょっと寂しいな。
「・・・みんな落ち着け。このお人好しが、そんなことを考えてる訳無いだろう?」
「ギーダさん・・!」
口は相変わらず悪いけど、私のことをそんなに考えて・・・。
「コイツはそこまで考えられるほど、賢くないからな。でなきゃ、もう少し上手く立ち回ってるはずだろ?」
「うっ」
確かにそれは正論だ。
分かってるよ?
分かってるけど改めて他人に言われると、ちょっと胸にチク―ッて刺さるものがあるよねー?
「そ、そうね。確かにリアは、エリスお姉様の教えを受けた割に、ちょっと出来が悪いというか何というか・・」
グサッ。
「そう言えば、洞窟では一人で罠に掛かってはぐれていたな。慎重さというか、注意が足りないかもしれない」
グサグサッ!
「真面目な話しててもよく腹を鳴らしているし、食べること以外はあまり考えてないんじゃないのか?」
グッサーーーーッ!!!
「だね~」
ちょっと、ちょーーーーっとぉ~~~~!
私の味方は誰もいないのーーーーーっ?!
一人ぐらい私のフォローしてもいいんじゃないのーー!!
「うぅ、みんな酷いよぉ~~~!」
『それは自業自得では?』
ズブリ!!
みんなの声がハモり、私に止めを刺した。
もう私、立ち直れないかもしれない・・・。
「で、とりあえず茶番は終わったのかな?」
「はーい、終わりました~」
「茶番って・・・」
ここまでやって茶番だったとか、もう何が何だか分かんないんだけど?!
頭も心も、もう真っ白だよ・・・。
「すまない、少し意地悪な質問だったな。だが、商人ギルド長のワシが助かる見込みが無いと言ったということは、流通している普通の薬品類ではどうしようもない、という意味だ。それは分かるな?」
「はい、分かってます。でも、何か方法が残ってるのなら、やれるだけのことをやりたいんです」
「そうか。で、それは他人の為か?それとも自分の為か?」
提示されたのは簡単な2択の質問だけど、人間という商品を品定めするような厭らしい内容だ。
でも、この質問に対する答えは決まっている。
「私がしようとしていることは、自己満足だってことは分かっています」
「ならば、手を尽くした上で最後を看取る覚悟はある、ということだな?」
「・・・はい。その時はその時です」
「そうか。なら、その信念を貫けるよう努力するんだな」
最悪の事態が起こることが前提の承認。
『商人ならば、リスクも含めて全部受け入れた上でやれ』と言いたいのが、嫌というほど分かる。
・・・やっぱり、私はバイゼンさんが苦手だ。




