99.真実へと続く道 その1
「クリミナさん。ちょっと聞いてみたいことがあるんですが、いいですか?」
「何かしら?」
「バイゼンさんってどんな人なんですか?」
「・・・その質問って、私がどう思っているかってこと?」
クリミナさんは私の質問に、何か裏があるように思っているらしい。
周りで聞いているブロウさんたちも、訝しげな表情を浮かべて私の方を見ている。
うーん、思い出すのが嫌なほど嫌われているっていうのは伝わってくるんだけど、そういうのを聞いたつもりじゃなかったんだけどなぁ。
「あ、別に変な意味はありません!ただ、私たちはこの町の人じゃないから、どういう経緯でギルド長になったのかなーって」
「ああ、そういう意味ね。でも、大した話は出来ないわよ?」
「それでも構いません」
「私も聞いてみたいな~」
「本当に物好きね。いいわよ、私が知っている範囲でなら教えてあげる」
「お願いします」
「さて、どこから話そうかしら」
「あ、話を始める前に質問したいんですけど」
「なあに?」
「バイゼンさんって、この町の生まれなんですか?」
「あー、なるほど。じゃあ、そこから話した方が良さそうね」
う・・・何だか長話になりそうな予感がする。
あんまり長話になると眠くなりそうだけど、自分で言った手前、『手短に』とか言うと、物凄く失礼だしどうしよう・・・。
「あ、出来れば難しい話は無しの方向でお願いします~」
「あら、詳しく知りたいんじゃないの?」
「そうしたいんですけど、あまり時間をかけ過ぎるのも良くないかな~って」
ミラ、もしかして私の心の内を察して・・・。
「じゃないと、リアが寝落ちちゃうから~」
「だな」
「・・・まぁ、阿呆だからな」
「すやぁ~」
「うーん、それって商人としてどうなのかしら?」
「うぐ・・」
・・・前言撤回。
みんな、私の扱い酷すぎないっ?!
間違ってはいないんだけど、もうちょっとこう、ふんわりフォローしてくれてもいいんじゃない!
「まあ、昔話に時間を掛けられるほど余裕がある訳でも無いのも事実だから、出来るだけ手短にするわ」
「お願いしま~す」
うぅ、何だか当たり前のようにスルーされた気がする。
いいもん!リースさんが今の私の癒しだから!
「単直に言うと、バイゼンは他の町から来た移民よ」
「じゃあ、よその国の人なの~?」
「いいえ、一応バイゼンはこの国の生まれよ。お父さんがギルド長に就任した頃だから、今から13年前くらい前ね」
「ふ~ん。じゃあ、それまではどうしてたのかな~?」
「この町に来る前のことは、詳しく知らないわ。ただ、何人か連れの人と一緒に来たって話よ」
「あれ?バイゼンさんって、一人で来たわけじゃないんだ」
「ええ。この町に来てから『バイゼン商会』って名前で活動していたわ」
「バイゼン商会?俺たちは12年前からここに居るが、そんな名前は聞いたことが無いぞ」
「あー、12年前なら知らないかもね。その頃には経営が悪化してて、従業員もみんないなくなって、ほぼ活動停止してたわ」
「なるほど、それなら納得がいく」
「まあ、それから1年足らずでギルドに倒産手続きに来たんだけどね」
つまり、バイゼンさんは商売のためにこの町に来たけど、失敗しちゃったってことか。
でも、自分のお店が潰れちゃったのに、どうやってギルド長になったんだろ?
「その後ってどうしたんですか?」
「ちょうどその頃、お父さんが新しい商品の開発をしててね、人手が欲しかったのよ」
「それでバイゼンさんを?」
「そう。研究の助手として雇ったのよ」
「その頃からバイゼンさんって、今みたいな感じだったんですか?」
「いいえ、とても真面目で熱心に仕事をしているように見えたわ。お父さんからも『今のまま頑張れば、俺に何かあった時には代わりを任せられそうだ』って言っていたのを覚えているわ」
「へぇ~」
・・・ちょっと意外。
バイゼンさんって、結構努力家だったんだ。
それに、前ギルド長にも信頼されていたみたい。
私たちが最初に会った時に感じたような威圧的な姿と、今の話の中の努力家の姿。
どっちが本当のバイゼンさんなんだろう?
どちらにせよ、恩も信頼もある相手を、わざわざ殺す必要ってあったのかなぁ?
そもそも、バイゼンさんが前ギルド長を殺したって証拠も無いんだよね。
うーん、何だかよく分からなくなってきた。
「ところで、クリミナさんのお父さんって何の研究をしてたんですか~?」
「詳しいことは何も言って無かったけど、この手帳を見る限り、『ハーブ糖』の研究じゃないかしら」
「そうすると~、カリンカリンもハーブ糖の研究の一環だったってことかな~?」
「・・・認めたくないけど、その可能性はあるわね」
「でも未完成だったよね、あのページ?」
「つまり、研究中に殺されたということか」
「なら、目的は研究ノートの強奪っていうのが妥当な線ね」
「となると、バイゼンと会っていたあの黒傘の女は、共謀者ってことになるな」
「よしっ!じゃあ、後はバイゼンの所に乗り込んで、力づくで吐かせればいいってことだよな?!」
リト君は、やっと尻尾を掴んだとばかりに意気揚々としている。
今の話は辻褄が合っているように感じる。
ものすごく自然な流れなはずなのに、どことなく不自然な感じがする。
例えるならば、毒消し草の中に1本だけ生えている毒草のような小さな違和感だ。
それに、最後の話にちょっと気になることがある。
「ねぇ、目的が研究ノートなら、完成させた手帳を奪った方がいいんじゃないの?」
「1ページぐらい足りなくても、十分だと思ったんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど、今の話だと前ギルド長を殺す理由が分からないよ」
「そんなの、金に目が眩んだからだろ?!あいつは金の為なら何でもするんだ!」
「うまく説明出来ないけど、何か違うような気がするんだ」
「どこがどう違うって言うんだ!違うって言うんなら、何が正しいのか言ってみろよ!」
「う、それは・・・」
「とにかく、折角尻尾を掴んだんだ!誰が何と言おうと俺は行くぞ!」
「あ、待って!」
一度火が付いてしまったリト君を止める術は、今の私には無かった。
リト君は入り口近くにあった少し長めの木の棒を持って、乱暴にドアを開けて外に出てしまった。
ブロウさんたちでも敵わなかった相手に、リト君が敵うはずが無い。
早まったことをする前に止めないと!
「みんなはここに居てくれ。俺が行ってくる」
そう一言告げて、ブロウさんはリト君の後を追って出て行ってしまった。
「あ、私も!」
後を追おうとする私の手を、今度はギーダさんが掴む。
「離して!私も行かなくちゃ!」
「阿呆!お前みたいな弱い奴が行ってどうなる?!ただの足手纏いにしかならんぞ!」
「でも、私があんなことを言わなければ、一人で出ていくことも無かった!」
「落ち着け!アイツは、リトはそんなことを言われたぐらいで止まるようなヤツじゃない」
「じゃあ・・じゃあ、どうしたらいいの?!リト君に何かあったら・・」
「はいは~い、すとっぷ、すと~~っぷ!今は揉めてる場合じゃないよね~?」
「そ、そうだけど!」
「リア、今私たちがするべきことってな~んだ?」
「ちょっと!今はふざけている場合じゃ・・・」
「ちっちっち~。ふざけてないから、ちゃんと答えてね~?」
「う・・」
今、私たちがすること・・・。
ブロウさんは『みんなはここに居てくれ』って言ってたから、私がリト君を追いかけるのは間違っている。
じゃあ、曖昧な理由でバイゼンさんの所に行くこと?
違う、そうじゃない。
今必要なことは、誰もが納得できる事件の解決方法を見つけることだ。
さっきの話では、みんなは納得してたみたいだけど私が納得し切れていなかった。
単に私が町の外の人間だったから、っていう理由だけじゃない。
ん?町の外の人間?
「ねぇ、ミラはさっきの話どう考えてるの?」
「私?うーん、明確な答えは出てないんだよね~」
「それでもいいから聞かせて!」
「じゃあ話すね?さっきの話って一見正しそうに聞こえるんだけど、何か違和感みたいなのがあるんだよね~」
「違和感?さっきの話に、そんなところあったかしら?」
「俺も同感だ。バイゼンの性格なら十分あり得る話だ」
やっぱりそうだ。
よそ者の私たちと、この町の人たち、見てるものが少し違うみたいだ。
いや、正しくは”見たいもの”と言った方がいいのかもしれない。
「・・・もしかして、先入観?」
「先入観?何のこと?」
「とうとう阿呆が吹っ切れたか?」
「あ~、なるほど~」
さっき私たちが出した結論は、全て”バイゼンさんがお金のために前ギルド長を殺した”という前提で話が進んでいた。
つまり、そのどれかが間違っていれば全ての話は繋がらなくなる。
だとすると、私は一つ確認しなくてはいけないことがある。
「クリミナさん。私に最初、『バイゼンさんが前ギルド長を殺した証拠を探して来てくれ』って頼みましたよね?」
「ええそうよ」
「じゃあ、バイゼンさんが前ギルド長を殺した証拠ってありますか?」
「そんなものは無いわ。でも、状況的にそれが一番自然な話じゃないかしら?」
「つまり、証拠は無いってことですよね?」
「そう言ってるでしょ!」
どうやら、思っていた通りだった。
さっきみんなで組み上げた結論は、先入観に歪められたものだった可能性が高い。
辿り着いた結論が間違っているなら、一度バラバラにしてしまおう!
そして、もう一度最初から組み直すんだ!
きっと真実に繋がる道があるはず!




