98.過去からの贈り物
「・・・これ、ただのメモ帳のようね」
私たちは黒い手帳の中身を見て、少しがっかりした。
それは、事件の解決には到底関係無しなさそうな内容だった。
最初のページには、植物の絵と何やらびっしりと書き込まれたメモが見て取れる。
読んでみると、挿絵の横に『◎オーンジュ・ミンティアス』と書かれている。
そのまま下の方に視線を流していくと、味や香り、それと育て方についてかなり詳しく書いてあった。
「どうやら、手掛かりになりそうなものではなさそうだな」
「期待させておいて、これかよ!」
「・・・これで振り出しだな」
「でもこれ、味とか香りが詳しく書いてあるから、料理するときには使えそうだよね~」
みんな、手帳に何か手掛かりがあることを期待していただけに、この結果に納得がいかないようだった。
手掛かりでは無くなった手帳は、みんなの興味の対象から外れてしまった。
リースさんはそもそも興味自体は無さそうで、スヤスヤと寝息を立てている。
うーん、本当に自由な人だ。
クリミナさんもガッカリしてるだろうと思ったが、そういう素振りを見せない。
寧ろ、真剣にメモの内容を見ているようだ。
そして黙り込んだまま、次のページ、そのまた次のページと食い入るように見ている。
私も薬草図鑑では見られないようなことが書いてあるので興味はあるけど、クリミナさんのそれは興味という言葉を通り越して、親しい人からの手紙を読んでいるような表情をしていた。
「・・・やっぱりすごいな、――さんは」
クリミナさんは小さな声でそう呟いた後、少し嬉しそうな表情をした。
そして、そのまま最後のページまで目を通し、パタンと手帳を閉じた。
あれ?最後の方、ちょっとだけおかしいのが混ざっていたような・・・?
「あの、もう一度よく見せてもらってもいいですか?」
「いいけど、何か気になる事でもあった?」
「うん。もしかすると、見間違いかもしれないんだけど」
クリミナさんから手帳を受け取り、気になったページを確認してみる。
絵は草がボーボーに生えた感じだけど、名前が書かれていない。
詳細には『甘味がやや強め』『町で採れる砂糖とは別の甘味』『この町の冒険者なら採取可能』くらいしか書かれていない。
私は、この名の無い草に見覚えがある。
しかも、つい最近のことだ。
「みんな、これを見て!」
「何だ?それには、手掛かりなんて・・・って、おい!何故これが載ってる?!」
「ブロウ兄ちゃん、この草が何なんだ?」
「あ。これ、カリンカリンだね~」
「おい!それって、あの悪魔の砂糖の原料じゃないか!」
リト君はその場に立ち上がり、怒りに顔を赤くする。
「何で・・何でお父さんが、カリンカリンのことを調べてたの?!」
クリミナさんはリト君とは逆に、青ざめてへたり込んでしまった。
だけど、今のクリミナさんの一言で、頭の中でぐちゃぐちゃになっていた思考が纏まり始めた。
4年前に山から帰って来なかった前ギルド長は、砂糖の加工の研究をしていた。
私が山で見つけたクリミナさんの竜鱗のペンダントに、その近くで見つかった偏った情報が書かれている手帳。
そして今、クリミナさんが手帳の主のことを『お父さん』と言ったこと。
クリミナさんのお父さんが、前ギルド長であることはほぼ間違い無いと思う。
そして、クリミナさんはその仇を取るために動いている、と考えるのが一番自然だ。
そう、一番自然なはずなのに、何かが引っ掛かってる。
バイゼンさんがギルド長になるために前ギルド長を殺したなら、その娘のクリミナさんを傍に使えさせるのは何か変だ。
それに、リースから聞いた『実験は十分だ』『近く、我々は国に帰る』という話。
研究をしていたのは前ギルド長で、黒傘の女性とバイゼンさんでは無い。
それに、自分の国なのに『国に帰る』なんて言い方をするのはおかしい。
なら、黒傘の女性が何かの実験をするために、この町に来ていた他国の人間っていう方がよっぽど納得できる。
じゃあ、バイゼンさんもこの国の人間じゃないってこと?
あ・・・でも、この国の人間じゃない人が、急にギルド長になんてなれるのかなぁ?
初対面であんなことを言われたせいで、今でもバイゼンさんのことが苦手だ。
・・・でも、あの時言われたことは決して間違っているとは言えないことだ。
分からない。
私はまだ、バイゼンさんのことをよく分かっていない。
ううん、私が知ろうとしなかっただけだ。
この町でバイゼンさんが、何をして、どういう経緯でギルド長になったのかなんて知らない。
でも、ずっと傍にいたクリミナさんなら、きっと色々知ってるはずだ。
だから聞いてみよう、クリミナさんに。
きっと、最後の欠片はそこにある!




