5.薬草、迷走、何とかなりそう!?
「だめだぁ、覚えきれない・・・」
勉強不足と感じた私に、お母さんは本を貸してくれた。
それは鈍器ではないかと思うほどの厚みのある――しかし、かなり使い込まれているものだった。
各ページには、薬草の名前や効能・調合例などがイラスト付きでビッチリと書かれている。
やると決めた熱意は本物だが、如何せん、頭のほうが付いてきていない。
いかん、このままでは始まる前に終わってしまう。
「煮詰まってるわねぇ」
今日の仕事を終えたお母さんが居間に戻ってきた。
外はもう日が傾きかけている。
「今日はもうやめて、明日にしたら?」
お母さんの言葉が甘く優しい。
今まで、その優しさの上に胡坐を掻いて何もしてこなかった。
これはツケであると。
「そういう訳にもにもいかないよー」
「やる気は認めるけど、効率の悪いことをやっていても何も変わらないわよ?」
「でも、覚えることがいっぱいあるから、いくら時間があっても足りないよ~」
「ふぅ、ほんと誰に似たのか頑固さんねぇ」
私は昔から覚えることが苦手である。
小さい頃に、村の勉強会に参加させられたことがあったが、内容はほとんど覚えていない。
覚えていることといえば、村周辺のことと、薬の女神メディシア様のことだけだ。
薬屋はもちろん、製薬に関わるアルケミストなどはこの女神様を信仰している。
当然、うちの店にも女神像が祭られている。
「やっぱり無謀なのかなぁー・・・」
「相変わらず勉強は苦手ねぇ」
「せめて取っ掛かりでもあればうまくいきそうなんだけど~~」
やることは分かっている。問題は、それをどうするかが分からない。
頭の中がモヤモヤする。あと一歩なのに!
「リア、うちの家訓覚えてる?」
「家訓・・・」
「そ、頭を使って分からないときは」
『体を使って考えろ!』
二人の声がハモった。
お互い笑顔で見つめ合う。
そうだった。
するべきことは簡単なことだった。
本の中にはいっぱい情報が詰まっている。
でも、現実で体験したことにはそれ以上のものが詰まっている。
だったらすることはただ一つ!
「何か思いついたみたいね」
「うん!ありがとう、お母さん!」
そうと決まれば、準備が必要だ。
何か書き留めるものが欲しい。
「お母さん、わたし!」
「はい、これ」
そういって渡されたのは一冊の本とペン。
本にはタイトルが無い。
「これは?」
「開いてみて」
最初のページをめくると、手書きのイラストとメモが書かれている。
これ・・・薬草?
だけど、お母さんから借りたあの厚い本とは違い、欲しい情報だけ引き抜いたように載っている。
次のページにも、同じようにイラストとメモが書かれている。
こっちは毒消し草のページだ。
その次のページ。
今度は、白紙だ。何も書かれていない。
その先も、そのまた次も白紙のページが続く。
最初のページに戻り、よく見る。
この文字・・・お母さんの?
ふと、本からお母さんの方へと視線を移す。
「それはお母さんが書いたものよ」
「でも、最初の2ページだけ?」
「他に何か気付かない?」
たった2ページだけの記述。それも毎日よく見るもの。
「これ、うちで扱っている商品?」
「そういうこと」
「じゃあ、後ろの白紙のページって・・・」
「はーい、ここでお母さんからのリアちゃんに依頼!頑張ってこれを完成させてねーっ!」
ここまでしてもらって、途中で諦めるなんて絶対にしたくない。
絶対に完成させて見せる、私だけの薬草図鑑を!
「ち・な・みに、頑張って完成させたら特別なご褒美あげちゃうぞ♪」
お母さんのご褒美にハズレなし!特別なんて言われたら、かなり気になる!
これはますます力が入る!
「でね、もう一つお願いなんだけど、近くの森で薬草を摘んできてもらえるかな?」
「うん、行ってくる!」
近くの森――それは、薬草の群生地である。つまりはうちの店の仕入れ先だ。
温和な生き物が多く、子供たちの遊び場にもなっている安全な場所。
店番に立つようになってからは、一度も入っていない。
ついでに昔ミラと一緒に遊んだお花畑も見てこようっと!




