衝動
母さん
いつもいつも「早く孫の顔が見たい」と口煩くするのを止めてくれないか?
人より遅い俺でも、最近、遂に好きな人が出来た。
四六時中彼女の事を考えている訳ではないが、彼女以外の女の事を考えた事がない。
だけど、知っての通り、俺は彼女に振られた。
俺は彼女が好きだが、彼女は俺にその気がないらしい。
どうやって彼女に好かれるようになれるだろうと、情けなく母さんに相談したな。本当、男として情けない。
そんな俺に、母さんは言ってたな。諦めずに、「粘るように彼女にアピールしろ」と。
それが母さんが、自分より格上の父さんと一緒になれた方法だと、俺に教えてくれた。
しかし、母さん。俺はやはり父親似らしい。
俺にとって、父さんの事を思い、そこまで頑張れる母さんの方が格上だと思ってる。
俺は「彼女の迷惑になるから」と思うと、とても粘るようにアピールできない。母さんのやり方ができない。
父さんにも聞いた事がある。自分に「粘った」母さんをどう思う?と。
そして、俺の思った通り。
父さんが母さんを好きになったのは、自分にアピール続けてきた母さんを、「粘るように」した母さんを、いつしか愛おしく思ったのだからだと。
なので、きっと母さんの助言は正しいと思う。
ただ、俺はそれができない。母さんのようにできない。
きっと、俺はこれからも彼女に話しかける事はなく、隠れて彼女を見つめるだけなのだろう。
彼女にそれを気づかれたら、きっと彼女も俺に申し訳ない気持ちになったり、または「迷惑だ」と思ったりするのだろうから、彼女を見つめている事も気づかれないようにするよ、俺。
もしかしたら、ある日、彼女が俺の事を急に思ってくれるかもしれない。僅かな可能性だけど、俺は待ちたいと思う。
理性的に考え、感情的に動く。
暫く孫の顔を見せて上げられなくて、ごめん。俺は俺のやり方をするよ。
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妻へ
俺がこれを書いている時、お前は今どこで、何をしているのだろう?
本音を言うと、俺はお前より、他に好きな女の子がいた。
だけど、その人は俺に興味がなく、俺は半ば諦めていた。
そんな俺に、彼女の事を完全に諦めさせたのは、お前だった。
俺のことが好きと、しつこく俺に言うお前が、いつしか愛おしく思えたんだ。
だから、俺はお前と一緒にいる事を選んだ。お前の事を愛するようになった。
だけど、俺達は無理だったようだ。
寂しいからと、お前は言った。それを理解しよう。
俺も同じく、お前に会えなくて、ずっと寂しかったんだからな。
だけど、俺はそれでも許さない。
俺はお前と違って「寂しいから」と、お前以外の人でその寂しさを埋めようとは思えない。
「愛」は「恋」と違うものだと俺は思うんだ。
恋は人を好きになる気持ちだが、愛は人を好きでい続ける気持ちだと思う。
責任だと思う。
だから、俺はお前を愛すると決めたその時から、お前以外の人を愛さないとも決めていた。
お前を幸せにする責任があると思っていた。
お前の方は違うのようだ。
お前は俺に「恋」をしたが、「愛」をしていなかったようだ。
理性的に考え、感情的に動く。
あの子達はお前の子供でもあるが、俺の子供でもある。
なので、あの子達がお前のような人間にならないように、俺はお前と戦うよ。
さようなら、俺が愛した人。
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娘よ
初めて君に「お父さん臭い」と言われた時の事、君は覚えているか?
俺はあの日、久しぶりに食事が喉を通らなかった。
こう見えて、俺はかなり匂いに敏感な方なんた。
家に帰ると、必ず先にお風呂に入って、それから君に話しかけるんだ。
香水もその時から着け始めた。まだ子供だった頃の君に教えられた、君が大好きなあの花、それと同じ匂いの香水だ。
だけど、逆効果だった。君は更に「臭い」と言うようになった。
君にとって、俺は「臭いモノ」らしい。
君が初めて「彼氏が出来た」と言われた時、俺は少し寂しい思いをしたが、「そういう年頃になったなぁ」と、少し嬉しくも思った。
それと同時に、「なぜ彼なんだろう?」とも思った。どう見ても、彼は君に相応しくないと思った。
それでも、君は彼が好きのなら、俺は応援しようと思う。ずっと君の味方でいて、君の幸せを願っていた。
だからかな?
君が彼ではなく、他の男と結婚した時も、驚きながらも嬉しかった。
君は一時の熱ではなく、自分の考えて、愛する人を選んだのだから。
君から一言も教えられていなくても、君がそれで幸せなら、俺はそれで良いと思っている。
だけど、君達はずっと一緒には居られなかった。
君の浮気だとその男が言うが、それでも離婚はやり過ぎだと思った。
なぜ彼は君に、もう一度チャンスを上げられなかった?
なぜ彼はその後、君からあの子達も取り上げようとするのだろうか?
君から話を聞いて、君が泣きながら「自分が悪い」と言われても、俺はあの男の方が許せなかった。
そんな俺に、君は「母さんと離婚した癖に」と怒られた。確かに、君にとって、俺はあの男と同じのようだ。
あの時、俺はそれが正しいと思ってそうしたが、結果として、君は実の母親と離れ離れになった。
後悔していた。君に申し訳ないと思った。
俺はそれ程に...あの男よりも、正しさよりも、君の方が大事なんたと分かって欲しい。
俺は恥ずかしがり屋で、あの男のように「好きだ」と、「愛しているんだ」と君に言えない。臭いと言われたから、君の傍に居られない。
だけど、俺は誰よりも君が大事だと、それでも分かって欲しい。
寂しいのなら、俺も君の話し相手になれると思うんだ。
そうすれば、君は初恋のあの男とまた会おうと思わなったかもしれない。君達は「離婚」という最悪な結果にならなかったのかもしれない。
今更それを言うのも仕方がない事だな。
全ては君に「頼りになる」と思われなかった俺が悪い。
俺がもう少し、君にとって良い父親になれれば、君は幸せで居られたのだろう。
理性的に考え、感情的に動く。
君に好かれていないけれど、俺は誰よりも、君の事を愛している。




