第5話 夢じゃない!
「―――ワァーッ!」
「う~ん……?」
何やら外が異様に騒がしい。
まだ覚醒しきれてない蕾の意識が何となく外の音を捉えた。
「全体ッー!!打ってぇーーッ!!!」
ドゴオォオンーーッ!!
「ふ、ふぇ!?」
突然、荷馬車を襲ってきた爆発音と地震のような大きな揺れにより完全に目が覚めた蕾。
『え、ええっ!何、何が一体起こってるの~ッ!?』
蕾は辺りを見渡してみるが、木の壁で囲まれているせいか全く外の世界の状況を理解できない。
ただ聞こえるのは人同士の怒号と悲鳴、そして金属と金属がぶつかり合うような激しい金属音――。
流石の蕾にも外で起きていることが只事ではないということが理解できた。
「た、確かめないと……!」
先程から鳴り止まぬ爆発音と地の底から揺さぶるような激しい振動。
取り合えず現状を知らぬとなると何も出来ぬため、必死に外の様子を見ようと、蕾は壁をよじ登ろうとする。
――すると、急に荷馬車全体に浮遊感が襲ってきた。
「えっ……?」
蕾が気づいた時にはもう既に遅く、荷馬車はひっくり返って倒れていた。蕾の軽い体は宙へと投げ出された。
『わぁー!』
蕾が投げ出された先にあったものは、下に柔らかい何かがあった場所であった。
「いてて……!」
どうやら下にある草がクッションの代わりを果たしてくれたようで特に大きな怪我はせずに済んだ蕾。
「よかった……!」と胸を撫で下ろして安心しているのもつかの間、すぐ蕾の目の前の地面には一本の、カーボン矢が突き刺さってきた。
『ひょ、ひょえええ~!!?』
蕾のすぐ近くに落ちてきた、鈍い光を放つ鏃。蕾は恐怖で震え上がった。
『に、逃げなきゃ……!』
でも逃げるって、一体どこへ?
蕾はそんな思いを胸に秘めながら荒れ狂う戦乱の中をただひらすと逃げ惑った。
何回も兵たちの足に踏まれそうになる中、必死に避け、草むらを走り続ける蕾。けど、小さな体で走り続けるのは体力の限界であった。息を切らして一端、立ち止まると。
グチャッ……。
「えっ……」
気づいたら蕾の頬に生暖かくて赤い、鮮血の花びらが飛び散ってきていた。
蕾の目の前に転がったのは、身体中から血を出して倒れている兵士であった。蕾は一瞬、その兵士と目が合う。
「に、にぎゃぁああーーッ!!!?」
『し、死んでる――ッ!』
恐怖で悲鳴を上げ、その場から全力で走り、逃げ去る蕾。
先程のあの、鼻にこびりつくような嫌な鉄の臭いと目をぴくりとも動かさず倒れていた兵士の顔が、蕾の頭から離れない。
『ゆ、夢じゃない!これは……ッ!今、本当に起きている“現実”の出来事なんだ!!』
ようやく蕾はこの世界が――『夢』ではなく、『現実』の世界の出来事なんだと気づいた。