第4話 いいお天気は禁物です
手探りで草むらの中を突っ切り、蕾は声が聞こえた方に向かうとあったのは、大きな大きな、木で出来た荷馬車の車輪だった。
今の蕾にとって、大きすぎる荷馬車は一部である車輪しか捉えられなかった。
「あの~……!誰かいませんか~!」
声が聞こえたから誰かいるはずと、蕾は声をかけるが返事は帰ってこない。
「うー、誰もいないのかな……」
誰かに会えるかもと期待していた分だけ、がっくりと項垂れる蕾。
だが、ここまで来るのに相当な距離を歩いてきたせいか蕾の脚はもう棒のようになっており、限界を迎えていた。
これ以上、徒歩で行動するのはキツかった。
『少しだけこの上で休ませてもらおう……』
そうと決めると早速、蕾は一生懸命に短い手足を駆使し、荷馬車にとよじ登った。
なんとか車輪の間に足を掛け、荷馬車を登りきることに成功した蕾。すると、今度は途端に眠気が襲ってきた。
「ふわぁ~……ッ!」
『お腹が減ったり、疲れたり……。この夢、本当リアルだなぁー……』
寝ないよう蕾は目を擦るが、眠気は一向に覚めない。
「うー……」
最初は頑張って寝ないよう蕾は意識を保とうとしたが、ぽかぽかと暖かい陽気に当てられ、ウトウトとしてしまう。
「むにゃむにゃ……」
『もし、誰かに見つかったらその時に謝ればいいよね……?』
そんなことを思い浮かべながら、猫のように体を丸めて目を閉じる蕾。丁度日差しが良い日、暖かな南風が蕾の体を撫でた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よし、休憩は終わりだ。皆、列を組み直せ」
多くの兵を率いて、そう指示するは古代ローマ時代を連想させるような黄金の甲冑を身に着けた一人の男の戦士であった。
太陽の如く、光輝く黄金の鎧は屈強に鍛え上げてきた男の体を守護する。
「後少しで戦場だ……。緩んだ心は引き締めておけ」
大麦畑に負けないぐらいの眩しい金髪に何処までも広がる海をそのまま閉じ込めたかのような深い青色の瞳をした男が男たちに号令を出す。
「――出陣だ!!」
蕾を乗せた荷馬車も、これから向かう戦場へと動き出していった。