第1話 隊長さんと私
ここは古都ベレストル―――。戦いの女神、アルテウスの加護と恩恵を授かりし西に位置する王国。
国は城壁に囲まれ、多くの民が住んでいるが太陽の陽ざしは強く、周りの土地は砂ばかりで溢れ、自然の少なかった。
そんな国である古都ベレストルの主な資金源は、物流と魔道武器、そして常に戦場に身を投じる戦士たちにより成り立っている。
戦いの女神アルテウスの加護を受けている故か、この国にはいつも戦を求める血の気が多い野郎共が集っていた。
ベレストルは世界でも五本の指にも入る大国の一つと言われ『世界五大国』としても名高い、戦乱の国であった。
だがそんな国に一人、いや一匹(?)っと数えた方がいいのだろうか。
戦いという言葉とは、到底無縁で程遠い人物がいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「うにゃうにゃ……」
雲一つないくらい晴れきった青空の下――。黄土色の石材で作られた城内で呑気に、はなちょうちんを膨らませて寝ている黒髪の小人の少女がいた。
そして、その小人を怖い顔で見下ろしている図体が随分といい筋肉質の体をした金髪、青眼の男性。
「――い……おい!」
「う~ん……!後、五分か十分だけ……」
っと、まだ寝続ける少女のうわ言に男性は額に青筋が浮かべた。
「コラァー!ツボミ!!起きんかーッ!!」
「はにゃッ!?」
男性の迫力のある怒鳴り声で、ようやく目を覚ます黒髪の小人。
間抜けな寝起き声を上げながら、勢いよくガバリッ!と上半身を起こす。
「はわわわ……!!」
寝ぼけたその小さな瞳からのぞかせたのは、黒真珠のように円らな瞳であった。
「――てっ……!誰と思ったら隊長さんだ~!おはようございます~」
「おはようございます、じゃない!もうとっくのとうに昼だバカ者」
そう言いながら腕を組み、寝ていた小人に対して憤慨する金髪の男性。
「まったく……ッ!仕事をサボって何をやっているかと思えば、こんな日中に堂々と青空の下で昼寝をして……」
「えー、私お仕事サボってませんよ~?」
「ほら!」っと、ツボミが指差すのは、ツボミ専用にと渡された家庭菜園場だった。そこには青々しく踊るように覆い茂る葉と瑞瑞しい輝きを放つ野菜たち――。
トマト、キャベツ、ナス、キュウリ、などなど――様々な季節の野菜たちが実をつけ、庭を彩っていた。
「ね?隊長さん」
「むっ。す、すまない……!」
どうやら自分の早とちりだったようで、素直に自分の非を認め、謝罪した『隊長』と呼ばれた男。
「それにしても、いつ見ても凄いな。お前の能力は……」
「えへへへ、隊長さんに褒められたー!」
自然の少ないベレストルでこんなにも立派な野菜がとれるのは異例のことだった。
男は野菜の葉を手に取り、さっきの怖い顔とはうってかわって優しい眼差しで見つめる。
小人であるツボミも普段めったに褒めてくれない男性が褒めてくれて嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛んで喜ぶ。
「でも、お前はただでさえ、ぼーっとしてて危ないのだから少しぐらい危機感を持って行動をなッ……!」
「あの~……隊長」
「なんだ!今は取込み中だぞ!!」
男性の部下の一人である、後ろで待機していた茶髪の少年が声をかける。
「でも、ツボミちゃん。鳥に持ってかれてますけど……」
「あ~~~れ~~……」
「ノバァァアアアーッ!!!?」
茶髪の少年が指を差す先には、目を少し離した隙に鳥に捕まり、空高く飛んでいる小人がいた。
野太い男性の悲鳴が城中に響き渡る。
これはこんな小人の少女と戦士の物語である。