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ショート作品集

木下くんはカッコいい!!

作者: 大塚めいと

※※※下品な内容につき、閲覧注意です※※※





 僕の名前は「中田光一」どこにでもいる中学2年生の男子生徒。帰宅部でちょっと存在感の薄い、いわゆる「陰キャ」と呼ばれる部類にカテゴライズされるタイプ。





 で、突然だけど……









 僕はお風呂でおしっこをするのが大好きだ。









 誤解しないでほしいのは、決して湯船に浸かって、そこに満たされたお湯の中で放尿するワケではなく、浴室でシャワーを浴びながら排尿する行為のコトだ。





 流した尿は汚れにならないよう、スグにシャワーで洗い流すし、誰かにそれをひっかけているワケでもないので、この行為が誰かに迷惑をかけるコトだとは思っていなかったし、いけないコトをしているという感覚もなかった。





 しかし、僕は今日、習慣になっていたその行為が原因で、窮地に立たされてしまっている。





「汚ぇんだよ! このおしっこマン! 」





「全く信じらんねぇ! マジでコイツおしっこマンだわ! 」





「お前、おしっこマン……最低」





 僕は今、大勢の同級生に囲まれて「おしっこマン」と、安易かつストレートに心をえぐる異名で呼ばれて罵られている。





 なぜ僕がこんな目に遭っているかって? 答えは簡単だ。





 僕は今、修学旅行中なのだ。





 そしてだ。学校の皆と共に大浴場でシャワーを浴びている時、うっかりいつものクセで膀胱(ぼうこう)にタップリたまったおしっこを排出してしまい、その一部始終をクラスメイトに目撃されてしまったのだ。





「や~い! おしっこマ~ン! 」





 不覚だった。ほんのちょっぴりの油断が、僕の残りの中学生活を不本意なアダ名で過ごさなくてはならない。これじゃあ高校デビューするまでロクな青春を送るコトが出来ない。彼女を作ることなんて夢の夢のそのまた夢だ。





「ちょっと男子ィ~! かわいそうじゃん! 何やってるの! 」





 ホテルのロビーで騒がしくなっていた僕らを見つけたクラスの女子達。彼女達は純粋な好意で僕におせっかいを焼きに来たのかもしれないが、そろそろその行動が物事を余計に面倒な方向に持って行くことを学んでほしい。





「え? 何……風呂場で……おしっこォ!? 最低じゃん! コイツ! 」





 ほらね。





「きったな~い……おしっこマンじゃん」





「おしっこマンサイテー」





「おしっこマン……近寄らないで」





 ああ、終了。僕の中学校生活、終了。僕は残りの1年半あまりを、尿の代名詞として過ごさなくちゃならない。この情報は、このクラスのみならず、同じ学年の全員に伝わるコトだろう。





 そして、進学して高校デビューするにも、一人でも同じ中学校だった人間が同じ高校へと進学したならば、僕がおしっこの伝道師だということはスグに伝わってしまう……。





 もう駄目だ……今から僕は噂の広まらない遠方への進学を考えなければならない。親になんと説明すればいいのか……。





「おしっこマン! 」 「おしっこマン! 」 」





 みんなが声高らかに僕の新たな異名を呼び攻める。





「OSHIKKO-MAN! 」 「OSHIKKO-MAN! 」 





 違う……違うんだ……! もうやめてくれ……





尿男(おしっこマン)! 」 「オシッコマン!」









 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!













「 よ せ !! 」












 それは僕を責め立てるみんなの声をかし消すような、よく通り、濁りのないクリアな声だった。





 みんなに対し「よせ!! 」と確かに声を上げたのは、同じクラスにいる一人の男だった。




「これ以上光一くんを侮辱するのはよせ! オレが許さないぞ! 」









 その男の名前は「木下」









 彼はクラスでもトップクラスに端正なルックスを持ち合わせ、そのミステリアスで寡黙な性格の彼には、多くの女性ファンが存在し、思考が読めないその佇まいには、男子からも恐れられ、一目置かれる存在だ。





 そんな彼が……





 僕を助けてくれた……? 





「きっ木下くん……! 違うの……! これは元々男子がやってたコトで」





「誰がやり始めようと関係ない、クラスメイトである光一くんをバカにした者達には、等しく罪がある。僕の名前は木下だが、仲間に上下の関係を作るコトは大嫌いなんだ」





 ちょっとだけ余計な文言が付いたものの、木下くんが僕をピンチから救ってくれたコトは間違いないようだった。





「おい、木下! お前も知ってるだろ? コイツがよぉ……風呂場でお漏らししたことはよぉ!? 」





 僕をバカにしていた男子の発言に対し、木下くんは、やれやれ……といった表情を作ったかと思うと、大統領が演説をするかのように、両手を大きく広げてこう言った。





「光一くんをバカに出来る人間は、一度たりとも浴室でおしっこをしたことのない人間だけだ! しらばっくれるなよ! 他にもいるはずだろう? バスで尿する中学生が! 」





 女子も男子も全員ざわめきを隠せなかった。隣同士で視線を合わせ、その真意を確かめようとする者、平静を装うとしても目を泳がせている者……その仕草だけで、僕には分かった。





「だっ……誰がするかよ! そんなコト! 俺はしてねぇぜ……バスルームでおしっこなんてよぉ……! 」





「そ、そう! 誰がするもんか! 木下くん、残念だけどそれはメチャクチャな暴論ってやつよ! 」





 しかし、男子と女子のそれぞれの代表格は一向に折れそうにない。そんな姿を見かねたのか、木下くんは天井に突き刺さるくらいに真っすぐ背伸びをして挙手をしたかと思えば、信じられないコトを口走った。









「みんな聞いてくれ! オレも風呂場でおしっこをするのが……大好きなんだ! 」









 その言葉で一同は言葉を失うどころか、今が現実の世界なのかすら疑わしいくらいに、空気が歪み、世界が傾いたようにも感じられた。





 そりゃそうだよ……誰も見ていない場所でさえ、おならをすることすらためらうような風貌の木下くんが、お風呂場でおしっこだなんて……。





 だけど、木下くんの度肝を抜く告白は、この小さな世論を確実に動かしたようだ。





「お……オレも……実は……家では風呂場でしてるんだ……おしっこ………」





 さっきまで僕をバカにしていた男子の一人が、恐る恐る挙手して、おしっこ同盟を表明し始めた。





 そしてそれがキッカケとなり、ダムに入れられた小さなヒビが、巨大な水圧に耐えきれなくなり、ついには決壊してしまうように……





「おれも……! 実はやってるんだ」

「……ボクも! 」

「オイラも! 」

「ワシも! 」

「俺もおしっこだよ! 」

「風呂場のおしっこ……最高だよな! 」

「ごめん……オレも風呂尿派なんだ! 」





 次々とおしっこマンの系譜の挙手が、どんどん! どんどん! 太陽に向かって伸びる草花のように、たくましく、美しく、挙げられて行く! 





「な……なんだよお前ら! みんなおしっこマンなのかよ? 」





「う……ウソ!? 男子……みんな汚くない? 」





 うろたえる風呂おしっこ否定派たち。もはや男子のおしっこマンは過半数を超え、それは正統たる民意となった。









 壮観だ……僕は……僕は……一人じゃなかったんだね……! 








「現代人がトイレで排尿に及ぶ際、誰しもはパンツを下ろすなり、チャックを開くなりして、素肌に外気を触れさせてから行為に移る。それが習慣になると、裸になった途端に脳が勘違いして、おしっこをしなきゃ! と膀胱へと指令を送ってしまうのだ。この現象は[習慣排尿(しゅうかんはいにょう)]と呼ばれいている。つまり、僕達が風呂場でおしっこをしてしまうのは、不自然じゃない、むしろ自然なコトなんだ」





 木下くんは、冷静に、聡明に、風呂場でおしっこに及んでしまう現象を説明した。それはまるで悪戯に及んだ子供を諭すような、優しく、慈愛に満ちた口調だった。





「そんなコト言ったって……何よ! 風呂に入る前にトイレにいけばいいじゃないの! 」




 女子の反論に、木下くんが答える。





「君はトイレで素っ裸になるのかい? まぁ、中にはそういう人もいるみたいだが……それはさておき、いくら風呂前に尿を出し切ってしまおうとしても、それは無理な話なんだ。トイレでの素肌への外気刺激はせいぜい下半身のみ。風呂場では全身にそれを受ける。つまり、排尿に至る刺激が風呂場での方が圧倒的に高い。トイレで出し切れなかったおしっこが、容赦なく風呂場で放出されてしまうんだ。これは大統領だって総理大臣だって防ぎようのない生理現象なんだよ」





 女子は木下くんの説明に反論できず、困り果てた表情になってしまった。そして他数名の女子の中には少しだけ気まずい顔を作りながらうつむいていることを僕は見逃さなかった。





 そうさ。女子だってお風呂でおしっこをするんだよ! 









「おいおいおいおい! なんだお前ら! 何を騒いでいるんだ!? 」





 騒ぎに気が付いて駆けつけたのか、僕らの担任教師が突如横入りして、おしっこ論争を強制中止させた。





「先生、今オレ達は議論をしているんです! お風呂場でおしっこをするのは是か否か! これは大事なコトなんです! 」





 木下くんが熱く先生に訴えかけた。この場の神聖さと、重要さについてだ。





「はぁ? 」





 しかし、その言葉に対し、先生はポリポリをこめかみを掻いてから、あっけらかんと答える。












「風呂場は体を洗うところなんだから……おしっこをしちゃ駄目だろう……」












 その言葉は、トランプを組み合わせて作り上げたタワーを吐息で壊すように……無常で……冷徹だった。





「おい……木下……反論してくれよ……」





 おしっこ肯定派の一人が、そっと木下くんを急かした。





「…………だ、そうだ」





 へ? 





「みんな。やっぱりお風呂場でおしっこをしちゃいけない。おしっこはやっぱり…………トイレでやるものだ」





「な……何を言っているんだ? 木下」





「オレは、上の言うコトには巻かれるタチでね……」





 あまりにも簡単に手の平を返した木下くん。その瞬間、民意は暴動に変わった。





「ふざけるなぁ! 」

「お前おしっこだったろ! 」

「おしっこを裏切るな! 」

「おしっこを返せ! 」

「偽おしっこマン! 」

「帰れ! このエセ造が! 」

「責任取れよ! 」





 まるで白熱した議会で議員達が暴動を起こすかのように、裏切られたおしっこ肯定派は木下くんに掴みかかる。





 怒号が飛び、暴力が舞い、辺りはカオス空間となった。事態を収束させようと大勢の教師がここに詰めかけた。





 僕達はホテルで騒ぎを起こした罰として、その日の夜は全員が大部屋に集って反省文を書かさせれる羽目になってしまった。





 そう、全員が上下の区別なく、同じペナルティを食らったのだ。





 もはや僕が大浴場でおしっこをしたコトなど、みんなの頭から抜け落ちてしまっていた。









 ■ ■ ■ ■ ■









「やぁ、光一くん。やっぱりここにいたんだね」





 修学旅行2日目の夜。ロビーのソファで、窓から覗く満月を眺めていた僕に、木下くんが話しかけてきた。その両手には500mlペットボトルのレモンスカッシュが二つ握られていた。





「飲みなよ、おごりだ」





「ありがとう……」





 僕達はソファに並んで座り、月見をしながらレモンスカッシュで乾杯した。









「木下くん……昨日はありがとう……助けてくれて」





「いいってコトよ」





 木下くんは何事もなかったような表情で、黄色の液体を口に流し込む。ニヒルで、大人らしい仕草だった。





「木下くんは……カッコいいよね」





「よせよ、照れるから」





 ほんのちょっぴり、彼は口角を上げて笑みを作った。作り笑いではない、隠し通せない感情が表に出てしまうのも、彼の魅力なんだ。女子だけじゃない、男子だって魅了されるその細かな仕草を、こんなちっぽけな僕に向けるには、もったいないことのようにすら感じてしまう。





「それにしても……なんで僕を助けてくれたの? 」





 僕の問いに、彼は答えない。ただじっと月の姿に見入っている。そして、しばらく沈黙が続いた後、ようやくその重い口を開いた。





「光一くんは……オレと同じだからさ」





「おなじ? 」





 木下くんは、突如視線を月から僕の顔へとスイッチさせた。獲物を狙う肉食動物のように、素早い動きだったので、僕は驚いてひっくり返ってしまいそうになった。





「なぁ、光一くん……君、何か一つ重大な隠し事をしていないか? 」





「か……かくしごと? なんで? 僕は何も……」





「君さ、昨日の風呂の時間、初めに大浴槽に浸かった後、再びお湯に浸かるコトをしなかったね? なぜなんだ? 」





 真実を映す鏡のような瞳が、僕の心を読みっとているのか? 僕は木下くんの指摘に動揺を隠せず、レモンスカッシュをうまく飲み込むことが出来なくなり、口の端からイエローのしずくを垂らしてしまった。





「当ててみようか? 君があの時、お湯に浸かりながら何をしていたのかを……」





 嘘だ……嘘だ……嘘だ……! [あのコト]は誰にも気づかれていないハズなのに! 












「光一くん……君はあの時、お風呂の中でおしっこをしてたんだろ? 」












 その瞬間、僕は全身の水分を放出したかのように、大量の涙を流しながら、木下くんの胸に顔を押し付けていた。





「ごめん! ごめんなさい! 僕……あの時、風呂の中でおしっこしていたんだ! 君の言う通りなんだ! 」





 僕は、ピンチを救ってくれた彼に嘘をつけるハズもなく、真実を告白した。





 こんな下種(ゲス)な僕を、木下くんは軽蔑しているだろうか? それとも、怒り狂っているのだろうか? 





 そんな不安の中、木下くんは……そっと僕を抱きしめ、耳元で優しく語りかけた。





「光一くん……大変だったろう? 痛かっただろ? 君は風呂の中でおしっこをしたが、尿の色が思いのほか濃くて、このままでは他の人間にバレてしまう。そう思ったんだろ? 」





「うん……」





「だから君は、流れでる尿を強制的に止め、風呂から上がり、シャワーを浴びながら、残りの尿を垂れ流した……そういうコトだったんだね? 」





「うん……その通りだよ……」





 尿を途中で無理矢理止めると、尿道に何かを突っ込まれたかのような痛みが生じる。木下くんは、その時の僕の痛みを、分かってくれていた。





「なぜ、風呂の中でおしっこをしたか……聞かせてくれるか? 」





 全身が暖かい布団にくるまれたかのような安心感。木下くんの腕の中でなら……僕は全てを打ち明けられる。









「大浴場の湯は……小さな水路で隣の女子の浴場と繋がってたから……だから……」





「自分のおしっこが含まれたお湯が、女子の体を汚していると思うと……たまらなく気持ちよかった。そうだろ? 光一くん」





「全部……お見通しなんだね……」





「そうさ。言っただろう? 光一くんは……オレと同じだからって」





「まさか? 」












「そう。僕もやってたんだ。あの時、君と同じ理由で。風呂の中でおしっこを……さ! 」











 僕達はこの日実感した。掛け替えのない、絆を。確かな実像として心の中で繋がる友情を。





 僕達がならんで見上げる夜空の月は、黄色く輝き、まるでおしっこのようだった。





 終わり


[習慣排尿(しゅうかんはいにょう)]という名の現象は実際にはありません。原理もデタラメなのであしからず……



最後まで読んでいただいて、ホントに感謝です。「つまらん!」とか、「〇んこ」だとかでもいいんで、一言感想をいただければ、とても嬉しいです。よろしければ、お願いいたします。( ;∀;)

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[一言] Twitterからです。 まず、おしっこマンの気持ちすごく分かりますねぇ! 俺もおしっこマンしてましたから(´ー`) つまり、おしっこマンの為の聖書なんです。 この小説は! 但し、浴…
2017/11/24 20:52 退会済み
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