睦月九日
見慣れない 豪華和装の 子供たち
もう大人だと 感じさせるよ
出会いは僕が二十四歳のとき。今が三十八歳だから、十四年前のことだ。
今日は冬で出会ったのは夏だったから、十三年と半年、といった方が正しいのかな。
公園で、六人の子供たちが遊んでいた。
それはそれは微笑ましいもので、一緒に遊んでいきたいなぁ、なんて思ったものだよ。
でも僕は買い物帰り。暑さのせいで、急いで帰らないと、せっかく買ったものが悪くなってしまう。だから、急いで公園前の道を歩き去ろうとしたのだ。
暑さと、子供たちの可愛さに気を取られていた。
前から近付いてくる車に、全く気が付かなかった。
「おじちゃん危ない!」
一人の子供の声で、僕はやっと気付くけれど、もう避けられないって思った。
のだが、子供たちは隣にまできてくれていたらしく、僕の腕を引っ張って、ぎりぎりのところで車から助けてくれた。
持っていた買い物袋は落ちてしまい、暑さのせいではなく、買ったものは傷んでしまっただろう。
って、それよりも、子供たちは。
「助けてくれて、ありがとう。みんな、怪我はなかった?」
とりあえずお礼をいい、怪我をさせてしまっていないか、六人の顔を順に見て確認する。
擦り傷をした子はいるようだが、大きな怪我は見られない。
「おじちゃんは、大丈夫だった? 危ないから、気をつけないとだめだよ」
なんて優しい子たちなんだろうか。
怪我をしても痛いと泣くどころか、僕の心配をしてくれているようだ。注意までされてしまった。
大人として、僕が子供たちを守るべきだろうに、子供たちに僕が守られちゃうなんてね。あぁあ、かっこ悪いや。
思いやりの心に対する感動と、自分の情けなさとで、涙が滲んでいくようだった。
「泣かないで。おじちゃん、どこが痛いの?」
涙を拭こうとしてくれている。本当に、どこまで優しい子供たちなのだろうか。
「おじちゃんじゃないよ。まだ、お兄さんだよ……」
だから僕も心配させまいと、そう微笑んでみせた。
こんな子供たちに心配されているようじゃいけないよね。
僕はもう大学を卒業して、立派な大人なのだから、もっとしっかりしないと。
「あっ、そっか。大丈夫? お兄さん」
なんて素直な良い子たちなのだろう。
感動で再び滲む涙を拭い、僕は立ち上がった。
「ありがとうね。助かったよ。本当にありがとうね」
何度もお礼を言って、買い物袋を拾い上げると、僕は大急ぎで帰宅した。
そして急いで買ったものを冷蔵庫に片付けると、再び家を出た。
大きく衝撃を受けたらしく、駄目になってしまったものを、買い直すためである。
もちろん、本当の目的は他にあるんだけどね。
「ねえ、お兄さん、一緒に遊ぼ」
公園の前を通り掛かると、さっきの子供たちはまだ遊んでいて、僕にそう声を掛けてくれたのだ。
声を掛けてくれなければ、僕の方から声を掛けていくところだったから、こうして誘ってくれてとても嬉しい。
しかし遊びにきたというのではなく、他に何か、理由を付けた方が良いと思ったので、買い物ということにした。
そう、あくまでも、家を出た目的は、買い物をし直すことなのである。
この無邪気な子供たちが、そんな小さなことを気にするとは思えないけれどね。
「良いよ。何して遊ぼうか?」
最終的には、夕方四時、お母さんたちが迎えにくる時間まで、一緒に遊んでしまった。
僕は子供たちのことを褒めるだけ褒めて、別れを告げると買い物に向かったのだ。
それから僕は、散歩という設定で、その公園の前を通り掛かるようになった。
六人の子供たちは近所に住んでいるらしく、幼稚園も小学校も、同じ場所だから仲良しなのだと言っていた。
よく公園には遊びにくるようで、僕は何度か一緒に遊び、その度にいろいろなことを話してもらった。
だけど子供たちも、もう子供でなくなってしまったからだろうか。
男子二人と女子四人、幼馴染六人で、公園で遊ぶことなど、中学生ではしないだろう。僕だって中学生の頃、公園で遊んでいた覚えはない。
無邪気な心も反抗期に入り、外で元気に遊ぶなんてものじゃなくなっていく。
勉強だって忙しいのだろうし、会えなくなってしまったのも、仕方がないことなのかもしれない。
寂しかった。
十八歳も歳下。だけど僕にとっては、遊んでいるうちに、大切な友だちになっていたんだ。
小学校、高学年になったくらいからだろうか。公園に現れなくなってしまったのは。
どこの中学校に行ったのか、どこの高校に行ったのか、今どこで何をしているのか、何も知らない。
そんなときだった。
見覚えのある名前から、年賀状が届いたのだ。
大人になった六人の写真と、成人式への誘いの言葉が書かれていた。
あんなに幼かった子供たちも、もう成人式を迎え、大人になってしまうというのか。
久しぶりに会いたくて、成長した姿を見たくて、僕は迷うこともなく行ってしまっていた。
僕の知っている子供たちではなくなっているし、僕だってあの頃に比べたら随分老けた。会えるかどうかもわからないのに……。
「お久しぶりです」
「わぁ、きてくれたんですね、おじちゃん」
会場にきてから、場違いな気がして、帰ろうとしていた僕のところに、声が掛けられた。
豪華な和装をした、六人の若者たち。
残っている面影は薄いものだったけれど、僕はこの若者たちが、あの子供たちなのであろうと確信できた。
なぜだか、間違えないと思った。
「そうだね。もうお兄さんじゃなくて、おじちゃんだね……」
懐かしさと、変わらなさに涙を滲ませながら、僕は微笑んだ。
「やっぱり本物なんですね。歳を取りましたなー」
「五月蝿い。僕も老いたことは認めるけど、無垢な少女がお前になってしまったことよりは、良い歳の取り方をしたと思うよ」
「ひどーい、おじちゃーん」
長い年月は、人を変えてしまう。
けれど外見がどんなに変わっても、人間の本質的なところは、何も変わらないんだと思ったよ。




