弥生十二日
”行かないで” 呼び止められて 嬉しくて
振り向いた先 赤い目の君
来年は卒業をしてしまう。中には、もう就職をしてしまって、だれとも一緒に学ばない人だって、いるのかもしれない。
時間は常に動き続けているのだから、必ずいつも変化があって、タイムリミットは迫り続けているのだ。
けれども僕は、卒業生でもないのに、唐突な終わりを告げられてしまった。
小さな町であるので、ほとんどが小学校からの友人だ。小学校と中学校とで、九年間を一緒に過ごすのである。
だのに、僕はまだ中学二年生だというのに、父親の仕事の都合で、引っ越しをすることになってしまったのだ。であるからには、もちろん、この学校に通い続けることなどできない。
他のみんなよりも一年早く、僕は別れなければならなくなってしまったのだ。
一応は二年生が終わるまで待ってくれたのだけれども、それならば、あと一年を待ってくれたら良いのにと思う。
僕の勝手でそんなことをできないのは、わかっているけれど。
「行かないで」
今日は二年生の最後の日。明日からは春休みだ。
そうして春休み明けには、僕は、別な中学校で三年生を迎えているのだ。
先生から説明があっただけの、随分とあっさりした別れだった。急に知らされたためであろう。
虚しさに駆られながらも、抗うこともできず、この学校からの最後の帰宅路を辿っていると、後ろから声が掛かった。
女子の声だというのはわかったが、声だけでは、だれなのかまでは判別できない。
振り向いて見てみれば、そこにいるのは、同じクラスの裕香ちゃんがいた。
目を赤くしていて、僕が転校するのを、悲しんでくれているのがわかる。
「行かないで」
彼女はもう一度、僕にそう言う。
呼び止めてもらえたことは、僕の心の虚しさというものを和らげてくれたものの、行かないでという彼女の言葉に、僕は答えることなどできなかった。
――だって僕には、その願いに応えることなどできないのだから。




