弥生三日
ひなまつり 女の子の夢 香る日に
美しく咲く 雛壇遠く
今日はひなまつり。
僕の住んでいる村では、ひなまつりを、盛大にやるのが伝統であった。
村の女の子たちが集められて、年に一度、美しい着物を着て、舞い踊るんだ。
そしてその中から、毎年たった一人が選ばれるんだ。――雛壇の一番上に。
姫たる選ばれし一人は、他と全く異なる衣装を着て、より煌びやかな着物で舞い踊る。
村の女の子たちは、その座をみな望んでいるのであった。
「私は、たくさんの人と一緒に、魅せるような舞いをすることができませんの。そのようなこと、望みは致しませんから、どうかお願い致します。下手くそかもしれませんが、貴方にだけ、私の舞いを見て頂きたく存じます」
ひなまつり、女の子の夢が香るこの日、雛壇の上では、美しい華が舞っている。
けれど僕にとっては、君が一番だよ。
それに、君は知らないかもしれないけれど、僕は知っているんだよ。
本当はあの雛壇の上には、君が登るはずだったんだ。君の断るのを知っていて、それを君と定める人に語り、金を積んだ彼女は、ちっとも美しくなんてない。
僕にとって? いいや、だれにとっても、きっと君が最も美しいんだよ。
そして何よりも美しい君が、僕を求めてくれることは、僕の何よりの誇りさ。
「きれいだね。本当に、とても、とっても……」
「貴方にそう仰って頂けて、私、嬉しゅうございますわ。あんな雛壇の上で、お人形にされたとしても、こんなには喜べないと思います。これもそれもどれも、全部、貴方だからですのよ」




