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365個の物語  作者: ひなた
弥生 春が近付く想いは膨らむ
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弥生一日

  己が鼻 掠める甘い 桃の花


 甘く素敵な香りがしました。

 春の訪れを知ることのできる、素敵な、それはそれは魅力的な香りなのですが、私はその香りに少し哀しさというものを覚えました。

 庭の桃の花が咲いたのでしょう。

 庭へ出てみれば、はたしてそのとおりでした。

 梅が咲いたばかりだと思いましたのに、いつの間にか、季節はもうすっかり春を告げているのですね。

 まだ暖かいとは言いがたいですが、冬の寒さはいくらか和らぎましたし、穏やかな春が近付いていることを、嫌でも感じてしまいます。

 どうして貴方は、私に、会いに来ても下さらないのですか?

 少しくらい、話をしに来たって良いと思うのですが。

 そんなにも私が嫌いなのかと、落ち込んでしまいそうになりますが、それでは私も貴方もつまらないでしょう。

 それに私は、貴方が私を嫌っているわけではない、そのことは知っていますから。

 焦らすのも構いませんが、今回は意地悪が過ぎると思います。

 雪達磨を残していっただけで、会いに来て下さらなかった、私には声すら掛けて下さらなかった、今季はいかがですか?

 月日の流れるのは早いもので、最後に二人が語らってから、どれほどの時間が経ってしまったことでしょう。

 どうして、どうしてなの? どうして貴方は、私の前に現れてくれないの?

 待っていることにも慣れたはずなのに、まだ胸が痛みます。

 いつか貴方が、全てを成し遂げて、ずっと私の傍にいてくれるようになること、これからも待っておりますよ。

 この苦しい胸を一人抑えて、拷問のようなこのときを、貴方のために耐え続けます。だからお願い、私のことを、忘れないでいて下さい。

 いつからか、私の頬を涙が伝っているようでした。

 それは、桃の花は、貴方が好きな花だったからでしょう。私は桃の実の方が好きだと言ったらば、花より団子だなって、貴方は笑いましたね。

 桃を見ていると、貴方のことを思い出してしまいます。

 この甘い香りは、ちっとも似ていないはずなのに、どこか貴方を彷彿とさせます。

 どうかお願い。貴方の負担になることはわかっておりますが、どうか、一月に一度くらいは、私のところを訪れては頂けませんかね。

 最近は、一人ぽっちが、辛いんです……。もう、慣れているのに、そのはずなのに、苦しいんです……。

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