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365個の物語  作者: ひなた
師走 幸せに包まれたまま、終わっていけるのなら、それは幸せな一年だったと言えるのでしょう。
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師走二十九日

  孤独なら せめて傍へと 手を伸ばし

    その虚しさに 孤独知るなり


 彼から会いに来てくれることはないんだもの。

 そうしたらば、あたしから行くしかないのよね。好きなんだから、それくらいしなくっちゃいけないのよね。

 だけど、だけど、それができないから辛いのよ。

 彼があたしのことなんて、好きでもなんでもないってわかっているのに、その上で、彼に会いに行くだなんて……辛さが増すじゃないの。

 冬。季節ごと枯れてしまうような季節。

 徐々に冬の近付いてきた、秋の終わりの寒い日に、あたしが思ったことは少しだって間違ってなかったんだわ。

 寂しくって、辛くって、もっとひどくなるってわかっていたのに、来てしまっていた。

 白雪の鏤められた、美しい彼の庭にやってきてしまったの。

 この美しいというのが、彼なのか庭なのかは、ともかくとしてね。

「お久しぶりです。今は花など咲いていないと思うのですが、せっかくいらっしゃったのですから、お茶でもいかがでしょう?」

 庭へまで来てしまったのだけど、声を掛ける自信がないっていうところで、彼の方から庭へ出てくれたわ。

 あたしに気が付いて、わざわざ家を出てくれたのよ。

 この寒い中よ? 嬉しいじゃないの。

「お花を見に来たってわけじゃなくってね、会いに来ただけなのよ。会いたかった、だから来たの、それだけなの。ねえ、お願い。今日はあたしにひどいことを言って別れてくれないかしら?」

 今日が最後って思うから、あたしは一生懸命に、勇気を振り絞って言ったの。

 変な子って思われちゃっても、もう終われって思うから、逆にその方がよかったくらいね。

「ひどいことを……、ですか。その様子ですと、これからも友として、私の傍にいてもらいたいと思うのは、残酷なこととなるのでしょうか。唯一の友だちのままというのは、望めないのでしょうか」

 紅茶とケーキを出してもらって、楽しいお茶会の中で、話すようなことじゃないなって思い始めてた。

 だけどね、あたしから言い出したんだもの。

 途中でギブアップなんて、できようはずもなかったわ。

「同居のイケメンは、いつだって家にいたのに、今日はどうしたの?」

 いつだって家にいるだとか言ったらば、どうして知っているのかと、怪しまれてしまうと危惧した。

 だけどその心配はなかったみたい。

 彼は嬉しそうな顔をした。

「イケメンですよね、そうですよね。一人にされるのは寂しいのですが、街へ私のために買い出しへ行ってくれているのですから、嬉しくって堪らないのです。帰ってくるのは、夜になるみたいです」

 嬉々として語る姿は、やっぱり素敵だったんだけど、改めて負けを思い知らされたわ。

 今日だけでも、一緒にいられるのはラッキーなんだけど、覆せはしないのね。

「どうしても、あたしは友だちかしら? あたしは女の子だのに、あたしのことを嫌っていないみたいだのに、あたしの方が友だちだのかしら? 唯一の友だちだなんて、あんまりに近くて大切な存在だけに、すっごく……苦しいよ」

「ごめんなさい。苦しめていたことに、気が付きもしないで、今日だって、訪れを喜び外へまで迎えてしまって、……ごめんなさい。挙句の果てには友だちでいてくれだなんて、苦しめるばかりで、本当に申しわけないです」

 優しい言葉をたくさんもらえて、別れの決意さえ揺らいでしまって。

 お花しか頭にないあたしに戻りたいのに。

「一人ぽっちには慣れていたはずですのに、駄目ですね。お望みどおり、きっとひどいことを言えるように頑張りますから、せめてあの人が帰って来てくれるまで、私の傍にいては頂けませんか?」

 縋るような顔をされて、王子様だのにまるでお姫様みたいで、かっこいいのに可愛くって、あたしはどうしたらいいかわからなかったの。

 鈍る決意の中、欲望に身を委ねるしかなかったの。

 お花だけとしかいなかったあたしが、どれだけ人を知らなかったかを知るしかないわよね。

 嬉しい誘いだけに、苦しいんだわ。

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