師走二十九日
孤独なら せめて傍へと 手を伸ばし
その虚しさに 孤独知るなり
彼から会いに来てくれることはないんだもの。
そうしたらば、あたしから行くしかないのよね。好きなんだから、それくらいしなくっちゃいけないのよね。
だけど、だけど、それができないから辛いのよ。
彼があたしのことなんて、好きでもなんでもないってわかっているのに、その上で、彼に会いに行くだなんて……辛さが増すじゃないの。
冬。季節ごと枯れてしまうような季節。
徐々に冬の近付いてきた、秋の終わりの寒い日に、あたしが思ったことは少しだって間違ってなかったんだわ。
寂しくって、辛くって、もっとひどくなるってわかっていたのに、来てしまっていた。
白雪の鏤められた、美しい彼の庭にやってきてしまったの。
この美しいというのが、彼なのか庭なのかは、ともかくとしてね。
「お久しぶりです。今は花など咲いていないと思うのですが、せっかくいらっしゃったのですから、お茶でもいかがでしょう?」
庭へまで来てしまったのだけど、声を掛ける自信がないっていうところで、彼の方から庭へ出てくれたわ。
あたしに気が付いて、わざわざ家を出てくれたのよ。
この寒い中よ? 嬉しいじゃないの。
「お花を見に来たってわけじゃなくってね、会いに来ただけなのよ。会いたかった、だから来たの、それだけなの。ねえ、お願い。今日はあたしにひどいことを言って別れてくれないかしら?」
今日が最後って思うから、あたしは一生懸命に、勇気を振り絞って言ったの。
変な子って思われちゃっても、もう終われって思うから、逆にその方がよかったくらいね。
「ひどいことを……、ですか。その様子ですと、これからも友として、私の傍にいてもらいたいと思うのは、残酷なこととなるのでしょうか。唯一の友だちのままというのは、望めないのでしょうか」
紅茶とケーキを出してもらって、楽しいお茶会の中で、話すようなことじゃないなって思い始めてた。
だけどね、あたしから言い出したんだもの。
途中でギブアップなんて、できようはずもなかったわ。
「同居のイケメンは、いつだって家にいたのに、今日はどうしたの?」
いつだって家にいるだとか言ったらば、どうして知っているのかと、怪しまれてしまうと危惧した。
だけどその心配はなかったみたい。
彼は嬉しそうな顔をした。
「イケメンですよね、そうですよね。一人にされるのは寂しいのですが、街へ私のために買い出しへ行ってくれているのですから、嬉しくって堪らないのです。帰ってくるのは、夜になるみたいです」
嬉々として語る姿は、やっぱり素敵だったんだけど、改めて負けを思い知らされたわ。
今日だけでも、一緒にいられるのはラッキーなんだけど、覆せはしないのね。
「どうしても、あたしは友だちかしら? あたしは女の子だのに、あたしのことを嫌っていないみたいだのに、あたしの方が友だちだのかしら? 唯一の友だちだなんて、あんまりに近くて大切な存在だけに、すっごく……苦しいよ」
「ごめんなさい。苦しめていたことに、気が付きもしないで、今日だって、訪れを喜び外へまで迎えてしまって、……ごめんなさい。挙句の果てには友だちでいてくれだなんて、苦しめるばかりで、本当に申しわけないです」
優しい言葉をたくさんもらえて、別れの決意さえ揺らいでしまって。
お花しか頭にないあたしに戻りたいのに。
「一人ぽっちには慣れていたはずですのに、駄目ですね。お望みどおり、きっとひどいことを言えるように頑張りますから、せめてあの人が帰って来てくれるまで、私の傍にいては頂けませんか?」
縋るような顔をされて、王子様だのにまるでお姫様みたいで、かっこいいのに可愛くって、あたしはどうしたらいいかわからなかったの。
鈍る決意の中、欲望に身を委ねるしかなかったの。
お花だけとしかいなかったあたしが、どれだけ人を知らなかったかを知るしかないわよね。
嬉しい誘いだけに、苦しいんだわ。




