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365個の物語  作者: ひなた
師走 春夏秋冬、四季を歩いてきたけれど、季節の中にやはり美しく輝いたのは……。
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師走二十二日

  夏の日は 楽しくどこか 優しくて

    落つ涙さえ 今は恋しき


 思い出す夏の日。

 途切れることなく、かといって荒れるということもなく、一定に雨の降り続けていた日々。

 変わらなかった日々。

 けれど恋しい日々。梅雨の日。

 懐かしむには近く、けれど感じるには遠い。

 どこかが違う梅雨という夏の日。



 思い出す夏の日。

 梅雨が過ぎ去ったばかりの日には、夏がまた来てくれるようにと、手を伸ばしたものであった。

 冬がこれから深くなっていくこの季節には、何を思えば良いのだろう。

 私はどこへ手を伸ばせば良いのだろう。

 星はそれさえ示してくれる気がして、夜空を見上げてみたけれど、珍しく曇っていたせいで星は見えなかった。

 覆う雲があろうとも、願いは届くと信じてしまう。

 ただ一人で星に願いを掛けてしまう。星よ、叶えておくれよと。


 思い出す夏の日。

 哀しい別れを告げるように、辛い死を示すように、美しい星が流れた。

 約束していたのに、ずっと一緒にいるはずだったのに。

 泣き叫んで瞼は腫れても、心はちっとも晴れないのが苦しくて、流星群の残酷さというものを思い知らされた。

 刹那的な輝きの、美しさの意味を知るようだった。


 思い出す夏の日。

 七夕へ向けて、短冊を用意して、本当に素敵な思い出だ。

 ずっとここで働いているものだから、幼児の相手はずっとしていることだ。その可愛さは十分にわかっているつもりだったし、好きだからこうして仕事にしているの。

 だけど今年の七夕は、あの子は、記憶に残ることだった。

 だってあたしにはもうなくなっている発想だったんだもの。

 それにね、根っから優しい子じゃなくちゃ、浮かびもしない発想だ。

 サンタさん、あの子はとても良い子です。


 思い出す夏の日。

 暑さに完全に殺られていたな。

 今はその反対と言えば反対で、寒さに完全に殺られているわけだね。

 冷暖房完備の施設に住みたい(切実)


 思い出す夏の日。

 水曜日を休みにした週休三日を願ったんだっけ。

 でもだってそうだよね。

 バランスのいい休みの分布によって、総合的に見て、休みの日数が一緒だったとしてもかなり違ってくると思う。

 改めて考えてみても魅力的だな。週休三日。


 思い出す夏の日。

 蚊が飛びまくっていて、もう何もしようがない状態だったんだよね。

 無限発生の蚊を倒していたら、他に何かする余裕がなくなってた。

 冬は蚊がいないってところが魅力だと思う。

 むしろ夏以外は、蚊がいないんだからそれだけで素晴らしい。


 思い出す夏の日。

 夏真っ盛りの頃にも、夏を満喫できなくて、終わる夏に嘆いていた。

 夏が終わってしまう。

 それが怖くて、夏の真っ最中にもそれを心配しては、夏を夏らしく過ごせなかった。

 儚さを認めるのが怖かったのだろう。僕は。



 思い出す夏の日。

 夏休みの宿題という、最強最大の敵の存在を認識し始めた頃。

 大変だったな。

 すごい辛かったな。強かった、ラスボス。


 思い出す夏の日。

 夏の夜の流星が、落ちていくことの儚さは、辛くも悲しい一瞬の美というものを教えてくれた。

 そういったものに惹かれてしまう僕の存在を知って、それも苦しくて、けれどその瞬間を示す季節の儚さというものは感動的なまでに美しかった。季節ごとの美しさの輝きは、その季節だからこそ持つもの。

 桜が舞い落ちる春の夜。流星の流れ落ちる夏の夜。ライトアップ、スポットライトの輝く中で、ひらひらと散る紅葉、秋の夜。そしてイルミネーションも照り、星々も輝きを放つ明るさの中に、雪の舞い散る冬の夜。

 それぞれの季節が持つ儚く哀しいまでの美しさ。僕はきっと、その悲しみを愛している。


 思い出す夏の日。

 余裕なんてないのに、まだ時間があると思い込んで、宿題から逃げていた。

 夏休みの宿題とか本当に止めた方が良いよね。


 思い出す夏の日。

 素敵な香りの蚊取り線香に、思わず惹かれてしまっていた。

 他にもそう言う感動的な発明を見付けたいものだね。

 今のお線香って、本当に良い香りなの。


 思い出す夏の日。

 誕生日の訪れに、夏休みの終焉を感じた。

 ピンチに立ってラスボスと戦ったことを覚えている。

 なんとおめでたくない誕生日なのか。


 思い出す夏の日。

 夏休みの終わりを嘆いた。嘆き苦しんだ。

 長期休暇というのは、反対に苦しくなるばかりだから、定期的に休みを入れるってことでそれはやめておこうか。

 辛いから。終わりがあまりに辛いから。

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