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365個の物語  作者: ひなた
師走 春夏秋冬、四季を歩いてきたけれど、季節の中にやはり美しく輝いたのは……。
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師走二十一日

 春風や 吹けよ薫れよ 穏やかに

  甘い夢さえ 弾けるほどに


 思い出す春の日。

 小学生の頃以来だった、愛しいあなたとの約束を、やっと果たしたのは当時の年齢よりも長い年月が経ってから。

 だけれど、あんな素敵な軌跡、素敵な奇跡が、あっても良いものなのだろうか。

 約束を果たし、心に掛けていた鍵を解いた。

 流れ出した時間はとても軽やかで、重苦しい孤独とは正反対。

 再び僕は”ゆきくん”に戻れたようであった。

 やっと、やっと。


 思い出す春の日。

 卒業が嫌に思えて、桜の蕾が、これ以上は開かなければ良いのにと思った。

 時間だって止まってしまえと思った。

 新しい季節が訪れて、こんなにも簡単に、記憶が薄れてしまうとは思いもしなかったものだから。


 思い出す春の日。

 冬眠を終える動物たちを待ち、その訪れに春の訪れを感じていた。

 今はまた動物たちが冬眠してしまう季節。

 また春が訪れたなら、僕が村のみんなのことも起こしてあげよう。


 思い出す春の日。

 季節を擬人化したかのような、愛らしく美しく、儚い様々な魅力を持つ、神聖な妖精である彼女。

 冬になったものだから、また冬を擬人化したかのような、滑らかで白く美しい彼女の姿で立っている。

 春になったなら、あの愛らしさでまたやってくるのだろうか。

 どの季節でも愛らしくて、素晴らしい。

 季節に沿う彼女は何よりも愛らしい。


 思い出す春の日。

 お上品に笑った君は、今の質素で地味で、けれど素材が輝く美しい姿とは全く違った。華々しく、だれもが見惚れるような派手な美しさを持っていた。

 そんな春の君の笑顔を、忘れられるはずがなかった。

「貴方と一緒にいられますことが、私にとって何よりの幸せですのよ。春が終わってしまっても、傍にいて下さるということ、とてもありがたいことでございますわ。このような私で、本当によろしゅうございますの? あまりにお優しい貴方ですから、不安になってしまいそうですわよ」

 他の季節の君もこうして可愛らしいのだけれど、春とは違ってる君の可愛らしさなのだね。

 愛おしいよ。君が、愛おしい。


 思い出す春の日。

 春の馨しさがあったなら、この寒さだったとしても、柔らかく暖かく感じられることだったろうに。

 幻想的な虚無は、美しければ美しいほどに虚しく、冬の美を追い求めることは恐ろしいことにも思えた。

 その先に春があるのだとわかっていてもなお。



 思い出す春の日。

 わかりきったことに、哀しみを感じてしまっていた。

 刹那という儚い美の虜となり、存在しないということくらい、わかりきった永遠を信じてまたも裏切られ、勝手に淋しがっていた日々。

 元よりこの冬の景色が広がっていたならば、そうはならなかったと思う。

 そういう意味では春とは実に口惜しい。心憎い。


 思い出す春の日。

 咲いては散る花の儚さを知っていたのに、その儚さが美しいということを忘れ、油断していたせいだった。

 永遠を望んでしまい、悲しみを教えられてしまった。

 降り積もる雪の儚さには、今度こそは、騙されないようにしないといけないと。

 唇を噛んで儚さに涙した。


 思い出す春の日。

 当然という言葉の魔力に騙されて、洗脳されるまま、知らないふりをしていたんだ。

 その当然に逆らうということの罪深ささえ、覚えてはいなかったのだろうか。

 無情な運命に従わなければならないことが、苦しかった……。


 思い出す春の日。

 ”あの日の記憶”に苦しんでしまっていた。それがどこまでも幸せだったから、苦しくて堪らなかった。

 吹雪とは重ならない花吹雪さえ、”あの日の記憶”を呼び覚ます。

 楽しい想い出なのに、哀しいよ。


 思い出す春の日。

 綺麗な桜の花を見に行ったら、もうほとんどが葉桜になってて、しまいには毛虫が現れてたんだよね。

 季節の過ぎるのの早さが怖くて、驚いたものだね。

 今やその葉さえもないわけだけれど。


 思い出す春の日。

 新しい環境に慣れられなくて、疲れで体が悲鳴を上げていた。

 別に進級をしただけなんだから、新しい環境ってほどは変わっていないはずなのに、変化に敏感なもので困るわ。

 あーでも今もとにかく疲れてるー。


 思い出す春の日。

 友だちがいないことを嘆いた春の日。

 って、それは季節関係ないか。

 つっら!


 思い出す春の日。

 デビュー失敗を思い知らされた春の日。

 それは今でも実感していること。

 つっらい!


 思い出す春の日。

 新しい学年になったから、チャンスを得たと思ったら、どうにもやっぱりうまくはいかなくて、友だちが作れはしなかった。

 また失敗したのだ。

 つっらいわ!


 思い出す春の日。

 クラスの隅っこ生活から、どうしても抜け出したくて、けれどその力を持っていなくて。

 自分が嫌いで、もう何もかもが嫌になっていた。

 つっらいわー!


 思い出す春の日。

 ぼっちなんじゃない。

 私は悪くなくて、クラスが悪いのだと言い聞かせて、苦しみを紛らわそうとしていた。

 それは季節によって変わることではないのだけれど、失敗が何よりも近くにある、やはり春がどの季節よりもひどいというもの。

 つっらいわーっ!


 思い出す春の日。

 リセットボタンを本気で探していた。

 そんなものに頼らなければならないというほどに、私の立場はひどいものとなってしまっていた。

 リセットボタンが存在しない。

 宇宙一のクソゲーのボードの上で、苦しむことしかなかった。


 思い出す春の日。

 ゴールデンウィーク明けには、友だちが出来ていたら良いなぁ、みたいなことを考えていた覚えがある。

 夏休みの直前にも考えたこと。

 そして冬休み直前の今だって、考えていることだ。


 思い出す春の日。

 連休の中で、四月の中に出来てしまったであろうイメージに、消えてくれと願った。

 ファーストインプレッションが、どれほど重要な役割を果たすかというものを、私は甘く見ていたのだろう。

 頑張りたいという気持ちはあった、いや、頑張りたいという気持ちはあるんだけどね。



 思い出す春の日。

 もう半年以上が経ったから、名前を出しても大丈夫だよね。

 認めようじゃないか。

 僕は松尾芭蕉の句を参考にさせてもらった!

 あくまでも参考であって、パクリではないからそこは察して。


 思い出す春の日。

 パクリじゃないよ。パクリじゃないよー。

 あくまでもパクリじゃないんだよーっ。


 思い出す春の日。

 春らしい、優しい雰囲気を出せていたかな? 恋らしい雰囲気を醸し出せていたかな?

 参考にさせてもらった句があることには違いないけどね。


 思い出す春の日。

 テンションが高かった。

 ほのぼのした春の陽気のせいで、頭の中もぽーっとしていたのかもしれない。

 かもしれないというか、きっとそうだったのだろう。

 もちろん、句に参考はある。


 思い出す春の日。

 凝っていた。

 あほなことに凝っていた。

 それは気分も幸せになる春ならではのことだった。


 思い出す春の日。

 ポカポカで、眠くて堪らなかったんだよね。

 布団から出られない系の季節である冬はなんというのだろう。


 思い出す春の日。

 暑くなりつつあって、春がもっと長ければいいのにとは思ったけれど、夏に希望を抱えていたのは確かなことだったな。

 寒いこの季節には、暑ささえも恋しいのかな。

 いいや。そういうわけでもないか。

 暑くなるのはごめんだな。


 思い出す春の日。

 花が咲いていたときには、頭上からたくさんの花弁が降って来ていて、手を広げれば掌に舞い落ちた。足元には桜色の絨毯が敷かれていた。

 だのに花が散ってしまったなら、急に全てが遠くなってしまったようだったんだ。

 高い位置で揺れる枝は、まさに夏らしい姿であり、春の優しさだって遠くなってしまっていた。

 手を伸ばしても届かない。

 手を伸ばしても、届かなくなってしまっていた……。


 思い出す春の日。

 暑くなり始めていて、もう待つまでもなく、夏はすぐそこまで迫っているのだと感じていた。

 春というものが、わからなくなりつつあった。

 寒さにも暑さにもうんざりしていたように、春という魅力的に見える季節だったとしても、三ヶ月目にはうんざりしてしまうというわけか。


 思い出す春の日。

 心が穏やかになった。爽やかな気分でいられた。

 春だから僕をそんな気分にしてくれただけなのだろうから、季節が冬に変わってしまって、そんな気分でなんていられるはずがなかった。

 だって今は春ではないのだから。


 思い出す春の日。

 希望とか願いとか、約束とか、甘く優しいことに満ち溢れていた。

 気持ちはそうだったとしても、現実はそう優しくはなかったわけだけれどね。

 哀しいことを思い出すことも、春を思い出すということなのかしらね。

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