師走二十一日
春風や 吹けよ薫れよ 穏やかに
甘い夢さえ 弾けるほどに
思い出す春の日。
小学生の頃以来だった、愛しいあなたとの約束を、やっと果たしたのは当時の年齢よりも長い年月が経ってから。
だけれど、あんな素敵な軌跡、素敵な奇跡が、あっても良いものなのだろうか。
約束を果たし、心に掛けていた鍵を解いた。
流れ出した時間はとても軽やかで、重苦しい孤独とは正反対。
再び僕は”ゆきくん”に戻れたようであった。
やっと、やっと。
思い出す春の日。
卒業が嫌に思えて、桜の蕾が、これ以上は開かなければ良いのにと思った。
時間だって止まってしまえと思った。
新しい季節が訪れて、こんなにも簡単に、記憶が薄れてしまうとは思いもしなかったものだから。
思い出す春の日。
冬眠を終える動物たちを待ち、その訪れに春の訪れを感じていた。
今はまた動物たちが冬眠してしまう季節。
また春が訪れたなら、僕が村のみんなのことも起こしてあげよう。
思い出す春の日。
季節を擬人化したかのような、愛らしく美しく、儚い様々な魅力を持つ、神聖な妖精である彼女。
冬になったものだから、また冬を擬人化したかのような、滑らかで白く美しい彼女の姿で立っている。
春になったなら、あの愛らしさでまたやってくるのだろうか。
どの季節でも愛らしくて、素晴らしい。
季節に沿う彼女は何よりも愛らしい。
思い出す春の日。
お上品に笑った君は、今の質素で地味で、けれど素材が輝く美しい姿とは全く違った。華々しく、だれもが見惚れるような派手な美しさを持っていた。
そんな春の君の笑顔を、忘れられるはずがなかった。
「貴方と一緒にいられますことが、私にとって何よりの幸せですのよ。春が終わってしまっても、傍にいて下さるということ、とてもありがたいことでございますわ。このような私で、本当によろしゅうございますの? あまりにお優しい貴方ですから、不安になってしまいそうですわよ」
他の季節の君もこうして可愛らしいのだけれど、春とは違ってる君の可愛らしさなのだね。
愛おしいよ。君が、愛おしい。
思い出す春の日。
春の馨しさがあったなら、この寒さだったとしても、柔らかく暖かく感じられることだったろうに。
幻想的な虚無は、美しければ美しいほどに虚しく、冬の美を追い求めることは恐ろしいことにも思えた。
その先に春があるのだとわかっていてもなお。
思い出す春の日。
わかりきったことに、哀しみを感じてしまっていた。
刹那という儚い美の虜となり、存在しないということくらい、わかりきった永遠を信じてまたも裏切られ、勝手に淋しがっていた日々。
元よりこの冬の景色が広がっていたならば、そうはならなかったと思う。
そういう意味では春とは実に口惜しい。心憎い。
思い出す春の日。
咲いては散る花の儚さを知っていたのに、その儚さが美しいということを忘れ、油断していたせいだった。
永遠を望んでしまい、悲しみを教えられてしまった。
降り積もる雪の儚さには、今度こそは、騙されないようにしないといけないと。
唇を噛んで儚さに涙した。
思い出す春の日。
当然という言葉の魔力に騙されて、洗脳されるまま、知らないふりをしていたんだ。
その当然に逆らうということの罪深ささえ、覚えてはいなかったのだろうか。
無情な運命に従わなければならないことが、苦しかった……。
思い出す春の日。
”あの日の記憶”に苦しんでしまっていた。それがどこまでも幸せだったから、苦しくて堪らなかった。
吹雪とは重ならない花吹雪さえ、”あの日の記憶”を呼び覚ます。
楽しい想い出なのに、哀しいよ。
思い出す春の日。
綺麗な桜の花を見に行ったら、もうほとんどが葉桜になってて、しまいには毛虫が現れてたんだよね。
季節の過ぎるのの早さが怖くて、驚いたものだね。
今やその葉さえもないわけだけれど。
思い出す春の日。
新しい環境に慣れられなくて、疲れで体が悲鳴を上げていた。
別に進級をしただけなんだから、新しい環境ってほどは変わっていないはずなのに、変化に敏感なもので困るわ。
あーでも今もとにかく疲れてるー。
思い出す春の日。
友だちがいないことを嘆いた春の日。
って、それは季節関係ないか。
つっら!
思い出す春の日。
デビュー失敗を思い知らされた春の日。
それは今でも実感していること。
つっらい!
思い出す春の日。
新しい学年になったから、チャンスを得たと思ったら、どうにもやっぱりうまくはいかなくて、友だちが作れはしなかった。
また失敗したのだ。
つっらいわ!
思い出す春の日。
クラスの隅っこ生活から、どうしても抜け出したくて、けれどその力を持っていなくて。
自分が嫌いで、もう何もかもが嫌になっていた。
つっらいわー!
思い出す春の日。
ぼっちなんじゃない。
私は悪くなくて、クラスが悪いのだと言い聞かせて、苦しみを紛らわそうとしていた。
それは季節によって変わることではないのだけれど、失敗が何よりも近くにある、やはり春がどの季節よりもひどいというもの。
つっらいわーっ!
思い出す春の日。
リセットボタンを本気で探していた。
そんなものに頼らなければならないというほどに、私の立場はひどいものとなってしまっていた。
リセットボタンが存在しない。
宇宙一のクソゲーのボードの上で、苦しむことしかなかった。
思い出す春の日。
ゴールデンウィーク明けには、友だちが出来ていたら良いなぁ、みたいなことを考えていた覚えがある。
夏休みの直前にも考えたこと。
そして冬休み直前の今だって、考えていることだ。
思い出す春の日。
連休の中で、四月の中に出来てしまったであろうイメージに、消えてくれと願った。
ファーストインプレッションが、どれほど重要な役割を果たすかというものを、私は甘く見ていたのだろう。
頑張りたいという気持ちはあった、いや、頑張りたいという気持ちはあるんだけどね。
思い出す春の日。
もう半年以上が経ったから、名前を出しても大丈夫だよね。
認めようじゃないか。
僕は松尾芭蕉の句を参考にさせてもらった!
あくまでも参考であって、パクリではないからそこは察して。
思い出す春の日。
パクリじゃないよ。パクリじゃないよー。
あくまでもパクリじゃないんだよーっ。
思い出す春の日。
春らしい、優しい雰囲気を出せていたかな? 恋らしい雰囲気を醸し出せていたかな?
参考にさせてもらった句があることには違いないけどね。
思い出す春の日。
テンションが高かった。
ほのぼのした春の陽気のせいで、頭の中もぽーっとしていたのかもしれない。
かもしれないというか、きっとそうだったのだろう。
もちろん、句に参考はある。
思い出す春の日。
凝っていた。
あほなことに凝っていた。
それは気分も幸せになる春ならではのことだった。
思い出す春の日。
ポカポカで、眠くて堪らなかったんだよね。
布団から出られない系の季節である冬はなんというのだろう。
思い出す春の日。
暑くなりつつあって、春がもっと長ければいいのにとは思ったけれど、夏に希望を抱えていたのは確かなことだったな。
寒いこの季節には、暑ささえも恋しいのかな。
いいや。そういうわけでもないか。
暑くなるのはごめんだな。
思い出す春の日。
花が咲いていたときには、頭上からたくさんの花弁が降って来ていて、手を広げれば掌に舞い落ちた。足元には桜色の絨毯が敷かれていた。
だのに花が散ってしまったなら、急に全てが遠くなってしまったようだったんだ。
高い位置で揺れる枝は、まさに夏らしい姿であり、春の優しさだって遠くなってしまっていた。
手を伸ばしても届かない。
手を伸ばしても、届かなくなってしまっていた……。
思い出す春の日。
暑くなり始めていて、もう待つまでもなく、夏はすぐそこまで迫っているのだと感じていた。
春というものが、わからなくなりつつあった。
寒さにも暑さにもうんざりしていたように、春という魅力的に見える季節だったとしても、三ヶ月目にはうんざりしてしまうというわけか。
思い出す春の日。
心が穏やかになった。爽やかな気分でいられた。
春だから僕をそんな気分にしてくれただけなのだろうから、季節が冬に変わってしまって、そんな気分でなんていられるはずがなかった。
だって今は春ではないのだから。
思い出す春の日。
希望とか願いとか、約束とか、甘く優しいことに満ち溢れていた。
気持ちはそうだったとしても、現実はそう優しくはなかったわけだけれどね。
哀しいことを思い出すことも、春を思い出すということなのかしらね。




