如月四日
春などと 言葉ばかりで 寒い朝
凍えぬように 君を求めた
立春。
そう、春なのだ。
この寒いのに春だというのだ。
春がこんなにも寒いのなら、春が好き、というのは撤回しようかな。
だとしたら、夏が好きということになるのだろうか。
しかし寒いのは嫌だが、暑いのだって嫌だ。
二月が春だということは、十一月は冬なのかい?
えぇっと、立冬はいつだったろうか。
十一月の前半だったような気がするから、寒いは寒いが、まだ過ごしやすい程度の寒さだ。
それを考えたなら、秋を好きというのが妥当だろう。
少しの暑い日も少しの寒い日も入っているだろうが、程良い日が秋に最も多い。
「またそんな格好でいますと、風邪をひいてしまいますよ」
春から秋へ、好きな季節の変更を行っていると、呆れたような心配してくれているような声が聞こえる。
優しくそう言ってくれたのは、私の妻である。
またとは失礼な話である。
風呂から出て服を着ている最中に、考えごとをしてしまったもので、いつまでも下着姿でいたものだから、風邪をひいてしまったことがあったのだ。
二週間ほど前のことだろうか。
彼女がまたと言ったのは、きっとそのときのことを言っているのだろう。
考えごとをしていたことは間違えないが、今は別に着替え中というわけではない。
服ならばきちんと着ている。
今日から春ということだから、春物の服を着てみただけだ。
「上着を持って来ましょうか? それとも、ブランケットか何か持って来ましょうか?」
湯気の上がるスープを私の前に置いてくれ、彼女はそう訊ねる。
しかし私にそのように言っている彼女の方も、なんだか寒そうに見えた。
いつも彼女は私のことを気遣ってくれる。
私のことを優先してくれるあまり、自分のことを蔑ろにしがちなのだ。
「君の温もりを分けておくれよ。ほら、私の傍にお座り。そうして、体が温まるまで、傍にいておくれよ……。私は布よりも、君自身に温めてもらいたいからね」
君も休めと言ったなら、彼女のことだから、大丈夫だと断るだろう。
だからそうさせないように、私はそうわがままを言った。このように言えば、優しい彼女は、私の望むようにしてくれるから。
それに布を纏って温もりを得るよりも、私は彼女に温めてもらいたいと思っている。これは、紛れもない本心なわけだし。
「ああ、今日も寒いね」
「ええ、今日も寒いですね。あなたが抱き締めて下さらなければ、凍えてしまったかもしれません」
「そうだな。私も君が来てくれなかったら、凍えていたと思うよ」
「では、お互いに凍えてしまわないように、暫くはこうしているしかありませんね。このまま、春までこうしていても良いわ」
体が芯から温まるような、心の底から温まっていくような心地だった。
なんだ、簡単じゃないか。君が傍にいてくれたなら、季節なんて、私にとってはどうだって良かったんだ。




