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365個の物語  作者: ひなた
如月 冬の恋は一方通行のようでもあり、……だけど重なっている。
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如月四日

  春などと 言葉ばかりで 寒い朝

     凍えぬように 君を求めた


 立春。

 そう、春なのだ。

 この寒いのに春だというのだ。

 春がこんなにも寒いのなら、春が好き、というのは撤回しようかな。

 だとしたら、夏が好きということになるのだろうか。

 しかし寒いのは嫌だが、暑いのだって嫌だ。

 二月が春だということは、十一月は冬なのかい?

 えぇっと、立冬はいつだったろうか。

 十一月の前半だったような気がするから、寒いは寒いが、まだ過ごしやすい程度の寒さだ。

 それを考えたなら、秋を好きというのが妥当だろう。

 少しの暑い日も少しの寒い日も入っているだろうが、程良い日が秋に最も多い。

「またそんな格好でいますと、風邪をひいてしまいますよ」

 春から秋へ、好きな季節の変更を行っていると、呆れたような心配してくれているような声が聞こえる。

 優しくそう言ってくれたのは、私の妻である。

 またとは失礼な話である。

 風呂から出て服を着ている最中に、考えごとをしてしまったもので、いつまでも下着姿でいたものだから、風邪をひいてしまったことがあったのだ。

 二週間ほど前のことだろうか。

 彼女がまたと言ったのは、きっとそのときのことを言っているのだろう。

 考えごとをしていたことは間違えないが、今は別に着替え中というわけではない。

 服ならばきちんと着ている。

 今日から春ということだから、春物の服を着てみただけだ。

「上着を持って来ましょうか? それとも、ブランケットか何か持って来ましょうか?」

 湯気の上がるスープを私の前に置いてくれ、彼女はそう訊ねる。

 しかし私にそのように言っている彼女の方も、なんだか寒そうに見えた。

 いつも彼女は私のことを気遣ってくれる。

 私のことを優先してくれるあまり、自分のことを蔑ろにしがちなのだ。

「君の温もりを分けておくれよ。ほら、私の傍にお座り。そうして、体が温まるまで、傍にいておくれよ……。私は布よりも、君自身に温めてもらいたいからね」

 君も休めと言ったなら、彼女のことだから、大丈夫だと断るだろう。

 だからそうさせないように、私はそうわがまま(・・・・)を言った。このように言えば、優しい彼女は、私の望むようにしてくれるから。

 それに布を纏って温もりを得るよりも、私は彼女に温めてもらいたいと思っている。これは、紛れもない本心なわけだし。

「ああ、今日も寒いね」

「ええ、今日も寒いですね。あなたが抱き締めて下さらなければ、凍えてしまったかもしれません」

「そうだな。私も君が来てくれなかったら、凍えていたと思うよ」

「では、お互いに凍えてしまわないように、暫くはこうしているしかありませんね。このまま、春までこうしていても良いわ」

 体が芯から温まるような、心の底から温まっていくような心地だった。

 なんだ、簡単じゃないか。君が傍にいてくれたなら、季節なんて、私にとってはどうだって良かったんだ。

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