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365個の物語  作者: ひなた
師走 これが最後だというのなら、規則性なんて、いっそ壊してしまいたい。変わらないまま終わるのは、なんだか……空しいから。
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師走十三日

  水無月の 頬を濡らした 雨さえも

    今となりては 枯れし乾けし


 不思議なものだ。

 降り積もる雨の、趣深さを語る季節が去っていくことを、惜しんだ日はまだ昨日のように、すぐ隣に残っているのである。

 それならどうして、空からひらひら降って来るものは、白く美しいのだろうか。

 いつの間にか、梅雨の終わりを嘆いた日さえも、遠くなってしまっていたのか。

 寂しげが故の、趣深さを想った雨。

 反して雪は、これでは少し美しすぎるよ……。


 不思議なものだ。

 雨ばかりでうんざりしていた。変わらない景色に飽きていた。

 それなのに、半年が経って、こんなにも雨が恋しくなるだなんて。

 冬の乾燥なんて、もううんざりだ。


 不思議なものだ。

 クリスマスだなんてものが、この日本に、馴染んでしまっているだなんてね。

 相変わらず、真似っ子ばかりの国だわ。

 住んでいる場所も、人間も、全然違っているんだから、真似なんかしたって仕方ないだろうに。

 だのに、ここまで馴染んでしまうとはね。

 妙に日本流にしているところが、どうにも憎いわ。


 不思議なものだ。

 自然を楽しみ雨の音を聴いた僕の耳が、クリスマスソングなんかで、心が打たれてしまうとは。

 ジングルベルに、心揺らすとは……。


 不思議なものだ。

 自然が織り成すハーモニーの美しさを、僕はいつでも夢想していた。

 それを極限の美と考えていた。

 しかし人々が街を美しく飾り出す、十二月となってみて、なんと美しいものかと思う。

 外のイルミネーション。歌われる歌。

 それぞれが生きる、クリスマスの聖夜を待って。


 不思議なものだ。

 何もないからと、六月の間、ずっと僕は雨の音に耳を傾け、雨を見る人々の心を描いた。

 それなのに、どうしてなのだろう。

 祝日こそ多いわけではないが、言うべきことのたくさんあるはずの十二月に、こうしてその六月の話をすることになるとは、六月には想像もしなかったろう。

 予告も、半年先まではできなかったかな。


 不思議なものだ。

 結局は可愛くて、叱れなかったとはいえ、傘を放って遊び出した雨の日。私はちゃんと怒らなきゃって思いはしたの。

 だけど雪っていうと、そういう気持ちにもならない。

 どちらかといえば、雪の方が、冷えちゃって良くないはずなのに、存分に遊んで欲しいくらいに思えるのだから。


 不思議なものだ。

 隣にあったはずの春と夏とを遠ざけて、それを遮断していた梅雨の頃。

 ジメジメとして、とても快適とは言いがたい梅雨の頃。

 半年も前だと思うと、恋しくなって来る……。


 不思議なものだ。

 季節の狭間のせいか、矛盾に捕らわれた六月。

 今は、間違えなく、はっきりと冬と言える十二月。だれも、迷うことなどないのだろう。

 けれどこの綺麗な冬の日には、曖昧さというものも欲しくなってしまう。

 白く綺麗なこの世界は、目を逸らしたくなってしまうよ。


 不思議なものだ。

 雨に時を重ねた僕が、今は雪に鐘の音を尋ねている。

 耳で数えた時間が、目に見えた途端に、聞こえなくなってしまったようだ。

 遠ざかったのか、近付いたのかはわからないけれど。


 不思議なものだ。

 私が見上げる空は、いつも穏やかに笑っていてなどくれない。

 空はいつでも優しいのに、私が見上げたそのときにだけ、急激に厳しくなるのではないかと思えるほどであった。

 それも、選ばれた私がゆえのことなのだろうか。

 それとも、天からの授けものは平等で、特別という考え自体が、自惚れだということなのだろうか。

 ならば、自惚れというのならば、それはそれで構わないけれど。

 天下泰平。私の心にはその言葉が映ったまま。


 不思議なものだ。

 神様の恵みを求めて、そのために、生贄となることさえ厭わなかった。

 そのくせ今の今まで生きて来て、けれど神様は、僕の覚悟を買ってくれたのだろうか。

 投げやりで、逃げ出そうとしただけとも言える僕の覚悟。

 けれど神様は、微笑んでくれた。

 ほら、綺麗な雪、神様からのプレゼントだ。


 不思議なものだ。

 夏を満喫し、「夏は嫌い」と言っていた君。

 本当に退屈そうに、寒さを過ごしているように見える。

 けれど君は「冬は好きよ」と、また儚く笑った。

 いつも元気だのに、楽しそうにしているのに、こういうときばかり、どうしてそんな表情をするんだ。

 好きだから悔しいよ。


 不思議なものだ。

 雨が多くて、梅雨には出歩けないと思ったわ。

 その後に、夏がやってきたら、暑くて外へは行けないと思ったわ。

 それで今はって、もうわかってるでしょ?

 寒くて外を出歩くなんてとてもできないわ。

 家にいれば恋人と二人きりで時間を共有できるのだもの。

 私にとってはそれが大事で、季節なんて関係ないのかもね? なんちゃって。


 不思議なものだ。

 祝日というのは、ちゃんと祝日が用意されている月でも、変わらずにほしくなるものだ。

 そりゃそうだよね。そうなんだけどさ。

 というわけで、毎月、四日以上の連休を儲けるべきだ。


 不思議なものだ。

 綺麗な星空を君と眺めたあの日、一人で雪を見上げる夜を想像出来たろうか。

 僅かに蒸し暑く、夏の訪れを感じ始めていたあの日に、寒い夜を想像出来たろうか。

 それが出来ていたなら、きっと夢は見なかった。

 きっと、夢は見なかった。夢なんか見なかった……。


 不思議なものだ。

 モノクロの世界。色のない、寂しくも理想の世界。

 僕の部屋には色がなかった。

 けれど季節に合わせて、その雰囲気に合わせて、僕の部屋の色は変わっていった。

 外を見ても真っ白な、純白の世界。銀世界。


 不思議なものだ。

 クリスマスは楽しげで、影なんて少しも見られなくて。

 光り輝く街並みを歩きつ、休みたいとカフェに入ったなら、クリスマスローズが飾られていた。

 クリスマスローズというのは、いろいろと、ギャップのある花なのだそうだ。

 花言葉もそうだし、それに……。

 あなたと見た紫陽花の方が、僕にはずっと毒々しく見えた。


 不思議なものだ。

 雨は降っていないわ。だけど、雪が降っている。

 この状態で、私が動きたいなどと思えるはずがないわ。

 カタツムリは、今の時期にいないし、じゃあだれと勝負したらいいかしら。

 勝てそうな相手がいたらいいんだけど。


 不思議なものだ。

 有難いということは、やはりありがたく思えるのだ。

 寒い日々が続いているから、少しでも暖かい日が来ると、感謝の想いが膨らんで行くのだ。

 ありがとう。そう言いたくなるのだ。

 距離を取ってみて、初めて大切に気が付く。それも、こういうことなのだろうか。

 僕は想いを馳せる。寒空の太陽へ。


 不思議なものだ。

 何も嫌いになれないのだから。

 ううん、嫌いになれないというよりも、好きになってしまうということかしら。

 ドキドキする展開は、どんなシチュエーションでも輝くんだから。

 だから不思議なのよ。

 嫌いな雨も、相合傘で好きになっちゃったみたいに、嫌いな寒さも、好きになっちゃったみたいなのよ。

 一緒のマフラー、冷える手を包む大きくて温かい手。

 ドキドキしちゃうわ。


 不思議なものだ。

 艶やかな薔薇の花、雨さえも密と見て、僕は惹かれてしまっていた。

 今はといえば、雪に儚さと愛らしさを覚えている。

 いけなさも、艶やかさも、少しも感じられない。

 どちらかといえば、幼気で可愛らしい雪の色に、僕は惹かれていた。


 不思議なものだ。

 哀しみは変わらないままなのに、景色は、季節は変わって行ってしまう。

 僕を置いていってしまう。

 まだ、忘れることも、覚えていることも、できていないまま。

 雨の音は哀しみを増幅させた。

 けれど音もなく降り積もる雪は、哀しみを表しているかのようであった。


 不思議なものだ。

 冬の香りって、どういうものなのだろうか。

 春や夏は感じるのだけれど、冬の香りって言われると、何も思い付かないような気がする。

 香りって言うより、乾燥するから、まずマスクしよう。


 不思議なものだ。

 梅雨になると、あの人のことを思い出してしまっていた。

 なのに最近は特にひどい。

 充実していた仕事が、一段落してしまったせいもあるのだろうか。

 それとも、異常気象の多さから、神様の気分も荒れていると思えたからだろうか。

 梅雨でなくても、あの人のことを忘れられないの。

 思い出すのではなくて、忘れられなくなってしまっているの。

 切ないわ。切ないものだわ。


 不思議なものだ。

 季節が変わったなら、街はこんなに明るく見えるものか。

 傘で俯いて見えた、暗い季節とは違う。

 傘は梅雨の雨の日と、なんら変わりはしないだろうに、俯いているようには見えないのだからすごい。

 明るく見えるのだから、すごいもの。


 不思議なものだ。

 雨。雨。雨。雨。一人ぼっちで、寂しくなった雨の日。

 僕は一人が得意な方だし、一人でいるからと言って、寂しく思いはしなかった。

 それなのに、雨のせいで寂しくなった日を僕は憶えている。

 胸を締め付けるような、哀しげな雨音のハーモニーは、もうここにはない。明るい音楽が鳴り響いているばかり。

 どうしてだろうか?

 正反対にも思えるそれは、同じように、僕の胸を寂しく悲しく締め付ける。

 憧れなんて、抱くはずもないというのに。

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