師走十二日
爽やかに 芽吹く春とは 程遠く
皐月の頃に 降り積もる世ぞ
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
あまりの寒さにもう忘れてしまった
花の咲く 美しい木の魅力じゃない
葉の揺れる 爽やかで優しくて生命力に満ちていて
春らしいというよりも 木らしさを感じられた
夏の近付く春の香りが 僕は待ち遠しい
春が遠く感じられる この冬の始まりに
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
花というのは目で楽しんだものだ
しかしその花が散ってしまって 葉が葉が葉が
花の淡い色でなくて 紅葉の趣深い色でなくて
何よりも木らしい その緑色をだれも知らない
だれにも見られることのない 木というものの魅力
爽やかな気分で 本を読みながらそれを楽しめた
今のこの寒い季節には 決してできやしないこと
木陰で気持ちよく読書ができる そんな季節へと
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
平和を実感する余裕さえがあった 春が恋しい
この忙しい季節に出来ることは
せいぜい 春の良さを思い出すことばかりだ
それが師走というものの幸せとは思うも
とても今が今でなかったらなんて 考えることも
そんな余裕もありはしなくて……
忙しいのも楽しいとはいえ やはり春が恋しい
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
森に来たのは久しぶりのことだな
せっかく休みが取れたものだからと 来てみたものだが
見た目も声も香りも 感じられる全てが違っている
あの心地好い場所は 春の生み出すものだったということか
それにしてもいつぶりなのだろう
今年のことなのだから そう大昔というわけではないが
季節が違っているというのは 大昔にも近い差だ
ゴールデンウィークを利用して来てみたのだと
僕はそう記憶しているものだから 結構前だな
小鳥の囀りだとか そういう温かみは少しも感じられない
ただ 都会に降る寒くて邪魔な雪とは違う
雪が美しいのだということを知れただけで
冬を見たことも 悪いことではないのだろう
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
元気に走り回っていた子供たちも
寒い寒いなどと すっかり大人しくなってしまっている
子供が何を 寒さなどに負けているのだと
僕なんかは思ってしまうけれど そういうものか?
この世代に生まれていたなら 僕も情けなくなったのかな?
僕も弱虫だとは 言われなくても済んだのだろうか……?
春の香りは どこへ行ってしまったのだろう
私の背中を押してくれた 優しいあの風の香り
私を前へと進ませてくれた 優しいあの空気の香り
寒い冬に空気が覆われてしまったら 不思議だわ
前へと進めたはずなのに また振り返ってしまうの
このまま冬が続いていると あなたを思い出してしまいそう
あなたを待っているだけの日々に 戻ってしまいそう
だから春の香りよ 早く私を攫ってちょうだい
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
爽やかな気分にさせてくれたあの香りは
少し過ぎてしまったなら ジメジメとした梅雨の臭い
それまでの 新芽の季節にだけ 覆い尽くしていてくれた
春の香りは どうして消えてしまったのだろうか
それは今は 春じゃないからだということなのだろうか……?
五月蝿いよ 馬鹿
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
年が明けたばかりだったというのに いつの間にか
もう半年が過ぎ去って 春の終わりを告げてしまう
そう嘆いたことを 昨日くらいのことのように覚えているのだ
なのだからこそ この寒さに戸惑わずにはいられない
年明けというのが 近くにまで迫ってしまっているのだ
少しも僕たちを待ってくれることはなく
時間は勝手に流れて 僕たちが止まれば 置き去りにする
それなら 時間が僕たちを置いていってしまうように
僕たちが時間を忘れてしまうのも 仕方がないのだろう
というわけで 今日の日付を聞かれても
相当に特別な日じゃなけりゃ 咄嗟には答えられないよね
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
春の香りがなくならないうちは まだ大切でいられた
別れを包み込んだのも 春の香りだった
出会いを祝福してくれたのも 春の香りだった
だからどちらも大切にしていられた
それなのに 春の香りが薄れていくと
俺はあまりにも 慣れていってしまっていた
大切だったものが 寒い冬には ……ほら……
まだ大切だということはできるのに
何かと聞かれたなら もう 答えられないんだ
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
いっそのこと 一年中 春でいてくれたらいいのに
春が夏へと流れていくその頃に 僕が願った頃
春が遠くなっていくというか 近付いているというか
時間が過ぎていくうちに その気持ちが大きくなっている
夏を待つ春の終わり ある意味では春が最も遠い頃
僕が願ったその思いは
秋が去り冬に入り 過ぎた春が最も遠い今頃にでも
変わらないまま僕の心の中で 願いを重ねている
冬が明ければ春が来る 今はただそれを待つ
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
ぽかぽかした春の陽気は どこかへ消えてしまった
あなたと一緒に あたしのところからなくなってしまったの
春のぽかぽか陽気が 夏の熱気に変わる頃には
もうちゃんと忘れてしまっている その予定だったの
だのに 随分と予定がずれてしまったものだわ
だってもう冬だっていうのに まだ忘れられていないんだもの
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
もしかしたら ゴールデンウィークが織り成す
気持ちの余裕っていうのが 春の香りを感じさせてくれたとか
じゃなくて 何を考えているんだろう疲れてるのかな私?
今この時期に大型休暇があったとしても たぶん
いや間違えなく 春の香りなんてものはしないだろうね
だって今は春じゃないんだから!
うん 忙しさで 疲れているんだろうな
年末年始は休みだから それまで頑張ろうっと
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
爽やかに春を満喫♪ みたいな日が懐かしい
……え? そんな日 本当にあったっけ?
そう思って春を思い出してみれば
つらたんばかりが 僕の春の記憶を埋めている
何それ つら……
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
孤独感だって 春の爽やかな景色が 香りが
なんとなく誤魔化してとまでは行かなくとも
オブラートに包むような感じで 私を守ってくれていた
けれど冬っていうのは どうしてこんなに冷たいのか
守ってくれるどころか 追加攻撃を受けている気分ね
冬は孤独感が増して感じられる 春よ来い 早く来い
なんて言って 実際は季節のせいにできるから
実は冬の方がましなんだったりしちゃってね?
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
テストと補習に追われる冬なんて 早く終わってしまえ
それよりも僕は 春に戻って来てもらいたいね
またはさっさと春へと辿り着きたいものだよ
いや待てよ よく考えたら 春にもテストが……
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
というか 春の香りって 本当にしていたっけ?
春だと思われる頃 春であってもいいはずの頃
でも暑かったような気がするんだよな……
もしかして 春がいい感じなのって雰囲気だけ?
いやいや そんなことはない そのはず
むしろ春って本当に存在するの?
冬を越えた先に 本当に春は待っていてくれているの?
なんてこんな怖いこと 考えたら冬は越えられないね
大丈夫 この寒さの先には 春の香りがすぐそこに!
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
春の始まりを感じさせる 柔らかい三月の風
花を散らし切なくも 何より春らしい四月の風
そして 夏の近付いて来ることを知らせてくれる
春から夏へ移り変わる 爽やかな五月の風
吹き抜けた風からなる 春の香りはどうだったか
吹き付けるばかりの北風が 今は吹き抜けるばかり
遠い春なんて 忘れてしまうようであった
春の香りは どこまで行ってしまうのだろう
儚さに嘆いたあの日々 届かない指を伸ばしたあの日
まさに春と言えるような そんな切ない日々
もうそれにさえ 伸ばした指は届かなくなっているのか
もう 届かなくなっているのか――




