師走十一日
桜咲き 桜散りては 春も去り
虚し儚し 卯月の宵闇
嫌い。
僕がどれだけそう嘘を吐いても、
好き。
君はいつだってそう言ってくれる。
もしかしたら、君にとっては、その言葉こそが嘘なんじゃないだろうか。
そう不安になるくらいに、君は、僕には勿体ない人だ。
そして今でもまだ僕の隣にいてくれる、忍耐力のある人だ。
本当は大好きだよ。
心の中で呟く。花のように美しい君へ。
桜の色に染まっていた君の頬。
桜は散ってしまったけれど、君の可愛らしい桜色は、未だ変わらないまま。
照れるときはいつだって、頬を桜色に染めている。
それにしても綺麗だな……。
雪よりも、イルミネーションよりも、僕にとっては君が何よりも綺麗だよ。
窓の外に見える美しい景色、窓に映る美しい君。
僕が本当は何を見ているのか、それを知ったなら、優しい君にも嫌われてしまうかもしれない。
だけど、君を見ずにはいられなかった。
「「あっ」」
白い肌。白雪よりも、美しい。
魅入ってしまったせいか、窓の中の君と目が合った。
しゅんっと頬の色が桜色に染まっていく。花のように美しい君。
この可愛らしさが、桜色とはやはり恋色なのだ。
楽な恋へと逃げなくて良かった。僕は今、心からそう思っている。
適当な理由を付けなくて良かった。僕は今、心からそう思っている。
本当に好きな人と、本気で恋をしたから、苦しいこともあったけれど、今の幸せがあるのだと思うから。
きっと恋を感じたあの日に、あの甘い感覚を、甘く穏やかな春のせいだと言ってしまったなら、僕たちの恋は春を描いて終わってしまっていた。
夏に昂ることもなかった。
秋に哀しむこともなかった。
冬にこうして、熱を分け合うこともなかった。
花のようにパッと開いて、ひらり儚く散ってしまうだろうと思った。
力強く男らしいあなたは、それを許さなかった。
「何、そんな顔をピンクくしてんだよ。可愛すぎるだろ、襲うぞ?」
「……あなたなら、いいよ」
寒い日には、刺激がほしくなるのかな。
街が美しくライトアップされている夜。
今までで一番あなたの近くへ行けた、あの日も同じように、美しいライトアップが施されていた。
それなのに、今日のように明るく楽しげなものではなくて、どこか怪しさを感じさせる妖艶な美しさだった。
桜の美というのは、明るくも日本女性の奥ゆかしさも感じられるものだ。
他の人がどう言おうと、僕はそのように思っている。
ライトによって光り輝く夜の街は、甘い幸せを感じられるものだと思う。
それならば、どうして、夜の桜をライトアップしたそのときに、あんなにも怪しく輝いていたのだろう。
隣にいたのが、あなただったから……?
花のようなあなたというわけではなくて、本当は、桜の方こそ、あなたのようだったのかもしれない。
もうあれから何カ月もたっているというのに、まだ思い出しては、あなたのことを思い続けてしまっている。
もしあのとき、なんて不可能な幻想とともに。
桜並木に導かれて、君の底へと駆け出した。
この道を君と一緒に歩いたのは、そうだ、まだ、桜の咲いているような季節だったのだ。
懐かしいな……。
また桜が咲く頃にも、まだ君と一緒にいられたらいいな。
この桜並木の桜の花は、白にも近い、本当に淡い桜色だったのを覚えている。
雪化粧を施された今の木々は、まるで、桜が咲いているかのように見えなくもない。
花も雪も所詮は、君を前にしては、背景でしかないのだけれど。
主役になんてなれるはずもない。君を引き立てるための、ただの背景に過ぎない。
だって君はとても綺麗なのだから。
花のように綺麗だね。結局、僕はそれを選んだけれど、思っていたことは違う。
君の方が綺麗だよ。ずっと。
儚いからこそ美しい。
けれど、美しさを求めるがゆえに、儚さを望むというのはまた違う。
そうは思うのだけれど、掌に舞い落ちては、融けて消えていくこの雪が、この雪の儚さが、今の僕を魅せるのだ。
やはり儚い想いを、この哀しさを、美と繋げることしか僕にはできないのだろうか。
僕の中の美とは、哀しいことばかりなのだろうか。
刹那的で、幻想的な瞬間を前に、僕が零した涙の理由とは……?
雪に飾りつけされた街の景色に、頬を伝っていた雫を感じる。
雨に散る桜の、無抵抗なあの姿を見たときと、今もきっと同じなのだ。
散っていく花のように、舞い落ちる雪。あゝ
完璧。欠けるところなどない。
それが最高かと言われてみれば、当然そうなのだと言いたいところだけれど、答えは否だったのだ。
知らなかった。僕は、知らなかった。
満開の桜を見て、喜んでいた無邪気な僕は、知らなかったのだ。
花らしい儚さというものではなくて、力強く咲き誇る大きな桜の木の前で、笑う僕を見て溜め息を零す。
完璧というのは、こんなにも脆いものだったのか。
傷のなさというのは、あまりに、あまりに弱かった。
花のような儚さというのは、強かさともいうのかもしれない。
なんで高校デビューとか言えたんだろうな、僕。
それができるくらいなら、中学校にいるうちから、もっとコミュニケーションを取れただろうよ。
ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとボッチでいた奴が、よし高校では友達を作ろう人気者になろう、高校デビューしてみせるぞ、って言ってなれるわけあるか!
元々、人気者には人気者の才能があるのだ。
ボッチは永久ボッチなんだよ。
花のような美少女が声を掛けてくれて、自分ではボッチだと思っているけれど、考えてみたら案外青春をエンジョイしているじゃん!
っていうラノベ主人公的なことも、もちろんない。
ないないナッシング!
環境が変わったからって、僕が変われるわけじゃないのだから、リセットされても同じことの繰り返しになるだけだった。
一学期、二学期と過ごしてみて、痛いほどに思い知らされるよ。
可愛い。可愛い妹は、可愛い。
何を言っているかわからない?
馬鹿めっ!
そんなの私だってわからないに決まっている。
重要なのは、とにかくもう我が妹は可愛いということ。
花のように可愛い。天使。
年が離れているってのもやっぱり大きいよね。
じゃなきゃこんなに可愛かったかわかんないし。
私って本当に五年前、こんなに可愛くあったかしら?
初めての学校に戸惑いながらも、楽しそうにしているこの子たち。花のような笑顔。天使が舞い降りたとしか思えない可愛さ。
もう私にどうしろって言うのよ。
いい加減、みんなも学校に慣れただろうし、私も可愛さに慣れただろうってところ。
だのによく考えてみてみて?
冬スタイルの可愛さって奴!
手袋とか可愛い。マフラーとか可愛い。
もこもこした服を着ているとか、可愛さ増してるんだけど。
六年生になったばかりのときに、五年前を思い出してみたときは、確かにまだ孤立する前の、夢を持っていた頃の僕を思い出せただろう。
しかし今になったら、もう、五年前のことを思い出しても、ぼっちなんだからつらたんだよね。
冬なんてみんなぼっち、そうだよね?
まじでつらたん。
花のような可憐な美少女が、五年後の僕の隣にはいたりするのかな。
性格が残念だっていいから、どうか。
これが汚れを知らない純白の花のような心、というわけだね。
私にはもう残ってはいない心だわ。
どうして小学校って、こんなにも汚れているのかしら。
素直で可愛い子の子たちが、五年後には、私たちみたいになっちゃうんだと思ったら、ときの流れって言うのは残酷だなって感じる。
いつまで無邪気なんだろう。
小学生は子供みたいに言うけど、十二歳って、案外そんなことないんだから。
だからこんなこと言わなくて済んだとこからやり直したい。
もうすぐ卒業がやってきてしまう。
残り少ない二学期と、あとはもともと少ない三学期を過ごしたら、私は小学校に通うことはなくなってしまう。
最悪ね。
糞と先輩しか通っていない学校とかゴミかよ。
この花のように清廉な一年生たちと一緒に通いたい!
この可愛い子がいないと、学校に通えない! 無理!
お姉ちゃんぶるのにも慣れちゃって、すっかり、私ったらお姉ちゃんみたいになっちゃってるわ。
他はみんな年下なんだから、初めて年下の子が来たから、お姉ちゃんぶっているとかじゃないんだよ?
だけどわかってほしいの。
二番目に年上ってのと、一番年上ってのじゃ、全然違うんだから。
ってなわけで、今年は随分と最高学年ぶったものね。
最後まで最高学年ぶるんだとしたら、冬には、そろそろ卒業の準備をしなくっちゃ。五年生に、後は任せないと。
だって私たち、学校を引っ張っていった、最高学年だったんだから。




