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365個の物語  作者: ひなた
師走 これが最後だというのなら、規則性なんて、いっそ壊してしまいたい。変わらないまま終わるのは、なんだか……空しいから。
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師走十日

  花びらに ひらり祝福 されつつも

    美という哀し 別れ弥生よ


「さようなら」

 僕も君も 決してそうは言わなかった

 もう会うことはないだろう

 それぞれがそのことを選んだのだから

 自分自身で選んだ道なのだから

 後悔をするつもりなどない……

 けれど さようならという言葉は

 あまりに悲しいように感じられたから

 いつもと同じように 僕たちは手を振って言う

「またね」

「うん、またね」

 最後の言葉は 最後の笑顔は 最後の強がりは

 涙で汚れて きっと最高に汚かった


「さようなら」

 僕が彼女に言った言葉であった

 新しい生活が それぞれの生活が始まるのだ

 彼女の枷にはなりたくなかった

 一緒にいられないのだとしても

 彼女のことを陰で応援していたかった

 邪魔にだけはなりたくなかった

 だから僕は彼女にそう言うしかなかったのだ

 苦しみを引き摺るのは僕だけで十分だと思うから


「さようなら」

 笑顔できちんと言えていただろうか?

 別れのすぐ傍には 出会いだってある

 出会いに満ち溢れているから

 別れにも満ち溢れているのだとしても

 人々は春を待つのだということを知っている

 だから完璧な笑顔だった自信はなくとも

「さようなら」と僕は言う

 それもまた新たな一歩だと思うから


「さようなら」

 訪れることがわかっていた別れ

 けれどまだ まだ心の準備が出来ていなくて

 もう少しだけ待って欲しい

 もう少しだけ待っていて欲しい

 永遠に一緒にいようだなんて思うのではない

 今のこの瞬間を 少しだけ伸ばして欲しいだけ

 時間よ止まれ

 叶わない願いを心に叫んだものだ

 それなのにまた 寒くなると春を求めてしまう

 またも別れと出会うのは辛いというのに


「さようなら」

 彼女の中に残る僕は どんな姿になったのだろう?

 後ろ姿だけ向けた 冷たく寂しい僕の最後の姿だろうか

 それとも 彼女と過ごしていた日々の中の

 嬉しくて楽しくて 笑顔で跳ね回る僕だろうか

 それとも 別れに飾り立てられた 幻想的な僕だろうか

 僕の中の彼女は その全てを併せ持ち

 どれが本物だかわからないくらいだよ

   そのまま 二人がだれなのかも

     わからなくなってしまえれば良いのにね

「さようなら」

 まだ癒えない傷が 僕の心を蝕んでいる

 あの日から一年が過ぎ去ったなら

 彼女のことを忘れて 笑えるようになれるだろうか

 自分の選んだ道を 正しいと言えるようになるだろうか


「さようなら」

 僕がそう言ったなら 本当に消えてしまった

 散っていく桜の花弁のように 儚く消えてしまった

 あんな馬鹿 待っても仕方がないと思うのに

 待っている僕がいるのが怖かった

 今は僕の隣にいる どうしようもない馬鹿

 相変わらず隣にいたいと思ってしまう

 僕も同じくらい馬鹿なのだろうね

 降っては消える雪の儚さに 僕は幸せを想う


「さようなら」

 あなたに迷惑を掛けたくないから

 私ももう これ以上は傷付きたくないから

 そうして選んだその選択肢が 間違っていたとは思えないの

 間違っていないと自信を持って言えるの

 それなのに…… どうしてかしらね?

 今でも私はあなたのことを思い出してしまうわ

 別れなんか選ばなかったら

 無駄なことをそうして考えてしまうのよ

 久しぶりに手紙でも書いてみようかしら

 ”あなたへ”そのつもりはなかったのに

 考える前に あなたの名前を書いてしまっている

 あなたが私のことを嫌いになってしまったのだとしても

 私はまだあなたのことが好きで 嫌いになれなくて

 悔しいわ こんなのって不平等よね


「さようなら」

 君に迷惑を掛けたくないから

 僕ももう これ以上は傷付きたくないから

 そうして選んだあの選択肢が 間違っていたとは思えない

 間違っていないと 自信はなくとも言える

 それなのに…… どうしてなのだろう

 今でも僕は君のことを思い出してしまう

 別れなんか選ばなかったら

 無駄なことをそうして考えてしまうんだよ

 久しぶりに手紙でも書いてみるとしようかな

 文通をする相手はだれがいいだろう?

 そう考えるよりも先に 手が勝手に君の名前を書いていた

 君が僕のことを忘れてしまっているのだとしても

 僕はまだ君のことが好きで 嫌いになれなくて

 嫌いなんて言葉は嘘に決まっているから

 苦しいよ 君もこんな気持ちになるのだろうか?

 あの日の望みと 正反対のことを望んでしまう僕がいた


「さようなら」

 喜びに浸っていたあたしを

 急に悲しみへと突き落とすんだから

 春っていうのは 残酷な季節だと思うわ

 どうしてみんな春を待ったりするのかしらね?

 あんなに苦しい季節 他にはないと思うわ

 キャンディーが嬉しくて

 喜びを誤魔化すために 飴ちゃんなら? って笑って

 今でも寂しいわけじゃないないんだけど

 一緒にする時間が少なくなってしまったのは

 やっぱり嫌なの!

 だからあたしね 春なんて好きになれないわ

 そうは言っても 嫌いにもなれないのものだけどね


「さようなら」

「ごめんなさい」

 そんな言葉がもらえたなら こんなに辛くなかった

 イルミネーションで光り輝く姿に変えられてしまった

 冬らしい美しさに変わってしまった

 桜並木で 僕はあの日の続きを考えてみる

 始まってしまったなら 終わるのが辛い

 けれど本当に始まりもしないのが素晴らしいのか?

「もう近付かないで」

「大嫌い」

 それくらいの言葉をぶつけてくれた方が

 いっそ楽になれたのだろうか

 花どころか葉さえも残っていないのに

 なおも人々を魅せるここの木々には

 花を咲かせても見向きもされない

 そんな木の気持ちがわかりはしない

 美しく輝く木々の気持ちなんて

 見向きもされない木にわかりやしないように


「さようなら」

 私たちの間に その言葉はなかった

 お互いにもう会ってはいけないのだと覚って

 言葉にしないうちに 距離を取っていった

 どちらからというわけでもなく だから苦しいの

 だからお互いに苦しむことになってしまっているの

 これが最良の選択と わかってしまっているから


「さようなら」

 僕は君にそんなことを言わない

 君も僕にそんなことは言わなかった

 けれどあの日からずっと 僕の頭から離れない

 いつまでも苦しめ続ける リピートされるその言葉

 随分と時間が経ってしまったけれど

 また寒さが辛くなってきた この季節が訪れて

 僕はやっとわかるようになったんだ

 その言葉の意味が やっとわかったんだよ

「さようなら、僕の初恋」


「さようなら」

 幸せだったからこそ 笑顔で泣いてそう言った

 クリスマス気分の街の中

 君と繋がれることのない 冷たいこの手に涙を落とす

 その涙は あの日の涙よりもしょっぱくて冷たかった


「さようなら」

 いつもその言葉を恐れていた

 あの頃の私は それが春だと思っていたから

 それにね 優しさというのはときに武器なのよ?

 だけどどの季節の別れよりも 春の別れは綺麗ね

 温かくて優しくて とっても甘いの

 だから喜びも寂しさも春で良かったって

 心から私はそう思っているのよ


「さようなら」

 いつもその言葉を恐れていた

 あの頃の僕は あなたを春だと思っていたから

 それにさ 優しさというのはときに武器になる

 だけどあなたと全ての季節を過ごしてみて

 温かくて優しくて とっても甘くて

 だから喜びも寂しさも 全部あなたの春らしい魅力

 心から僕はそう思っているんだよ

 だから だから また手紙を書こう

 隣にいるあなたに 文字で言葉を伝えたくなるから


「さようなら」

 僕も君もそんな結末を求めていなかった

 互いに求め合っていた 同じ場所を目指していた

 そのはずだのに どうして手は離れてしまったのだろう

 答えはわかりきったことであった

 君が必死に伸ばしてくれていた手

 僕は気が付かなった 掴めなかった 手遅れだった

 後悔する気持ちが 自分を責める気持ちが

 あまりに重く僕を押し潰そうとしてくる 拭えないよ


「さようなら」

 仲間たちにはそう告げたけれど 君は特別だ

 僕たちの間に別れは訪れない

 時間の流れが残酷に 僕たちを引き裂こうとしても

 自信を持っていたから 僕は言えたんだよ

「さようなら」ってね

 ほら 現に今でもまだ僕と君は一緒にいる

 そんな言葉に負けないということだ きっと

 日付になんか縛られないのが 僕たちだけの形


「さようなら」

 そう返されてしまうのが怖かったから

 僕は必死に探していた 正しい選択肢を探していた

 そうしてやっと見つけたんだ

 ”僕たちの気持ち”という奇跡を 宝物を


「さようなら」

 その言葉ばかりが頭を埋めていたな

 バレンタインデーにチョコレートをもらうだなんて

 ましてやその相手が ずっと好きだった子だなんて

 初めての経験だったから 嬉しすぎたから

 喜びよりも恐怖の方が大きくなっていたよ

 好きな子と一緒にクリスマスを過ごす

 これからその初めてを経験する喜びも

 今 恐怖にも似た気持ちで 僕を襲っているから


「さようなら」

 予期していなかった あまりに突然だった

 卒業をして バラバラになるというのはまだ耐えられた

 覚悟を決める その時間だって残されていた

 だのに僕は卒業生の先輩たちと同じ頃に

 残り一年の時間を残しながらも 別れを告げた

 引き留められてしまったこと 嬉しかっただけに苦しい

 もう暫くの時間を過ごしているのに まだ慣れないよ

 本当の卒業は きっとあのときほど悲しめない


「さようなら」

 僕と君との重ならない時間

 僕と君との重ならない物語

 胸が苦しくて 心が引き裂けそうで

 君が苦しむことを思わず望んでしまった

 今のこの苦しみは 孤独は

 最低で自分勝手な僕への報いだ


「さようなら」

 そう言って別れたはずなのに

 夏休みには また変わらずに集まっていて

 これから冬休みにも あいつらと会えるのかな

 そうして楽しみになっているのは悔しい

 もちろん 中学校の友達とも遊んでるぜ?

 だけど俺には悪友共も 大切な友達なんだよ


「さようなら」

 一度は いや二度も三度も

 何度だってそう言って 諦めようとした恋だった

 けれど諦めることのできない 強い気持ちだった

 その強い気持ちがあったからこそ

 実行の移すだけの勇気があったからこそ

 今のこの幸せがあるのだと思えば

 僕のしつこさも 良かったと言えるのかな……?

 どうして嫌いになれないんだって

 あの頃は本当に苦しかったものだけれどね

 嫌いになれないで ずっと好きでいて

 ずっと好きでいられて本当に良かった


「さようなら」

 訪れるはずがないと思っていた 僕たちの別れ

 憧れの先輩がいて 可愛い後輩がいて

 バカで頼れて優しくてウザくて

 最高で最低の友達がいて

 ずっとそのまま時間は流れていくと思っていた

 また卒業というのはあっという間にやってくるのかな

 まだ一年生だというのに 不安になってしまう

 それくらい 去年 唐突に認識させられた卒業が

 僕には驚きで 怖くてならなかったんだ

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