如月二日
甘え声 恥じらい君が 珍しく
にーにーなんて 殺人魔法
いつも君は不機嫌そうにしている。
その理由を尋ねると、いつも僕のことを罵倒して、更に不機嫌そうな貌をする。
そんな状態なものだから、僕のことが嫌いなのかと思い、僕は話し掛けないようにした。できるだけ、君には近付かないようにしていた。
するとある日、君の方から僕のところに来てくれた。
どうしてかはわからなかったけれど、僕はとても嬉しかった。だけど君は、いつにも増して不機嫌に見えた。
「今日、あたしの部屋に来なさい」
急になんだろうとは思いつつも、そんな嬉しい誘いを、断ることなどできるはずもなかった。
そもそもの言い方が、誘いというものではなくて、命令に近いものでもあったけれどね。
「なんで最近、あたしのところに来てくれないの? もしかして、あたしがいつも悪口ばっかり言うから、もう嫌いになっちゃったの?」
恐る恐る部屋を訪れると、そんなことを言われて、顔からいろんな液体が出てくるところだった。
感動の涙、興奮の鼻血、欲望の涎。
どれも出ないように堪えていると、思いがけず汗が額から湧いてくる。
それを拭いながら近付くのだけれど、君は不機嫌そうな顔もしていないし、不快そうな顔だってしないし、暴言だって吐かない。
本当に、どうしてしまったのだろう。
「その、なんだろう、あのさ。お前は昔のあたしが好きだったって、そういうことでしょ? なんか、ごめん……。今日だけくらいなら、またにーにーって、そう呼んであげても良いよ? ほら、二月二日、にーにーの日だし?」
照れながらだけれど、そのようなことを言ってくるのである。
いやまあ、照れながらなところがまた良いわけだが。
もしかして僕のことが嫌いだったわけでなく、ツンデレちゃんだっただけってこと?
「にーにーと呼んでくれた、昔の君ももちろん好きだった。けれど、お兄ちゃんは今の君も好きだよ。嫌いになんてなるもんか。だって、お兄ちゃんなんだから、いつだって妹が好きに決まってるだろ? 話し掛けてほしいのなら、それを言葉にして仰いよ。一言言ってくれれば、いくらだって話し掛けたのに。嫌いだというもんだから、迷惑は掛けられないと思ってね」
殺人魔法に掛かった状態でではあるけれど、僕はなんとかそう言ってやる。
こんなときくらいは、兄としての威厳を保てなければいけない。
「ありがとう。大好きだよ、にーにー♡」
「ぷはぁっ!」
本物の狂気レベルマックスの殺人魔法が来たものだから、堪えていたものが全て吹き出してしまったが、俺の言葉は届いた……はず。




