表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
365個の物語  作者: ひなた
霜月 言葉など添えなくとも
318/365

霜月十四日

  風呂などは どうかと君の 尋ねるは

     寒く温か 熱く涼やか


 下心。そうとしか、私はこの場を表す言葉を知らない。

「一緒に温泉にでも入らないか?」

 あなたは私のことをそう誘った。

 別に私は自分のことを可愛いとは思わないし、特別、私の裸に価値なんかがあるとも思えない。

 なのだから、普段だったらば、「それは素敵ね」とでも言って、賛成してしまったに違いない。

 そういう意味では、これもあなたの優しさと言えるのだろうか。

 あなたは、だれから見ても明白なほど、わかりやすく鼻の下を伸ばしていた。

「何か良からぬことを考えているのね。目的は温泉じゃないんでしょう?」

 私が尋ねてみれば、これまたわかりやすく、あなたは目を逸らした。

 ギャグマンガ宛らだ。

 もはやあなたの横には、ギクッという文字が見えそうなほどであった。

「やはりお前に隠しごとは無理と言うわけだな。温泉に行きたいと思っているのは本当なのだから、それ自体が、嘘だというわけではない。温泉も目的の一つだ」

 そう言ってから、あなたは一息、大きく息を吸う。

「けれど、真の目的というのがまた別にある。ポイントは、一緒に、というところだ。お前なら気付いてしまったことだろう。俺はお前と一緒に、温泉に入りたい。簡単に言えば、お前の裸が見たい」

 清々しいほどに、怒る気さえしないくらい、はっきりとあなたは言い切った。

 呆れてものも言えない。

 けれど私があなたのそういうところに惹かれているのだと、あなたは知っている上で、そんな言い方をしたのだろう。

 温泉、かぁ。悪くない。

「わかったわ。正直に言ってくれたわけだし、一緒に温泉に入るというのは、私も魅力的なことに思えるもの。それで裸を見られるかどうかはともかく、ね」

 微笑んでみせた私に、あなたはにかっと明るく笑う。

「寒くなる季節を、温泉は温めてくれる。それはいつだって涼しげで、冷めたお前の心を、熱くしてくれるものでもあるのだろうか」

 かっこつけてあなたは言う。

 いつだって涼しげで、冷めているように、あなたの目に私は映っているの?

 不思議な言葉に思えたけれど、素直に私を想ってくれているのがわかって、それが私の心を温かくした。

 温泉なんて行かなくたって、私は……

 この言葉を素直に言えるのは、いつのことになるのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ