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365個の物語  作者: ひなた
長月 月を見上げて
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長月二十四日

  宵闇や 届かぬ想い 月光つきびかり

   御簾の遮る なよ竹の君


 曇っているのかしら。それとも、今日は新月なのかしら。

 とても雲が見えようとも思えないほどに、全くの光が届かないくらいに、今夜は暗かった。暗くて、暗くて、反対に気分が明るく晴れやかになるくらいに、真っ暗なの。

 彼と一緒に夜空を見上げたかったのだけど、それはあたしには無理ってことかな。

 もしかしたら、あたしの王子様である彼と、一緒に月を見る人は、他にいるのかもしれないわ。

 そういうわけで、神様はあたしにそこから引き離してくれたんだわ。

 きっとそうよ。傷付かないようにって、あたしのために、そうしてくれたに違いないの。

 もしだとしたら、とんでもなく余計なお世話ね。

 そんなことをするくらいだったらば、ほんの少しだって、あたしにチャンスをお与えになってほしいものだわ。

 どうしてなのよ。

 寂しそうで、優しくて、哀しそうで、温かくて……。

 初めて彼に会ったときに、あたしは新しい世界が見えたの。

 一目惚れって言うのかしら。それから、今までのあたしからは考えられないくらい、彼のことだけを考えるようになったの。

 それなのに、初めて会ったあの日より、もっとずっと前から、彼には心に決めた人がいたというのでしょう?

 それが雨降るあの日の完璧イケメンなのか。あたしの知らないだれかなのか。

 細かいことはわかんないし、わかりたくもないけど、彼の表情を見たら、嫌でもわかっちゃうじゃないの。

 最後に会った、彼の幸せそうな表情を見たその瞬間、胸がきゅっと締め付けられるようだった。

 その意味が知りたくなくて、知りたくて、夏のあたしは春を思い出していた。

 けれど秋が訪れて、消えて行った夏という季節に、やっとわかってしまったのよ。

 嫌でも、わからなくちゃいけないって、神様が思い知らせてくれたのかもしれないわね。

 最初からどこか違うところを見ているとは思ったけど、それが彼の魅力だと思っちゃったから、まさか想い人を見る瞳だとは思っていなかったの。

 これが失恋という気持ちなのね。

 月も見えないくらい夜には、どうにも哀しいことばかり考えてしまう。

 こんなときに、彼が現れてくれたらな、なんてね。

 きっと今日もまた、完璧イケメンのあの人に、綺麗な微笑みを向けているのよ。

 あたしに見せてくれる微笑みとは違う、幸せや喜びを感じさせる微笑みを。

 月に帰るかぐや姫を見送る人々は、今のあたしのような、こんな気持ちだったのかしら。

 手の届かない遠く離れた麗人。忘れられようもないほどに大好きなのに、絶対に触れることさえ許されない。

 一度だってその顔を見せてくれなくて、御簾から姿を見せてくれたそのときは、月に帰る別れのとき。

 それを考えると、あたしの方がまだマシなのかしら。

 一緒にいて、話をして、綺麗な顔を見ることもできていたんだもの。

 だからこそ手の届かないという事実は、重く感じられるところもあるかもしれないわね。

「もう、やだよ、あたし」

 お花もあたしを励ましてはくれなくて、今日のあたしはひとりぽっちだった。

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