睦月二十三日
手袋に 潜む小さな 温もりは
とても大きな 夢になれよと
寒い寒い。凍えそうなくらい、寒かった。
両手を擦り合わせていれば、いくらかは温かくなるけれど、寒いことに変わりはない。
「ごめんね、少し遅くなっちゃった。寒かったでしょ。本当にごめんなさい」
もしかしたら、あの人は来てくれないかもしれない……。
体が冷えたせいで、心まで冷えてしまったとでもいうのだろうか。僕は、あの人を疑うようなことを思い始めてしまった。
そんなところに、申し訳なさそうな表情をして、走ってきてくれた。
だよね。君が来てくれないだなんて、そんなわけがないよね。
絶対に嘘なんか吐かない人だもの。
「こんなに冷たくなっちゃって。待ち合わせ場所、室内にすれば良かったのに。ふふっ。私の手袋、貸してあげるよ。マフラーは、歩きながらだと危ないかな? それになんだか、恋人って感じで、私が私に嫉妬しちゃうわ」
素直に恥ずかしいといえば良いのに、自分に嫉妬しちゃうだなんて、可愛い言い方をする。
一つのマフラーを一緒に巻く。ということはできなかったが、彼女は恥じらいながらも、今の今までしていた手袋を渡してくれた。
シンプルな柄で、男の僕がしていてもおかしくないだろう。
手袋に指を通すと、彼女の温もりが残っていて、彼女の優しさが沁みて、一気に体全体が温まっていくようだった。
少し小さいかもしれないと思ったが、サイズもぴったりなようだし。
手を繋いだ感じでは、彼女の手は僕よりも小さく思えるのだけれど、実際はそんなに変わらないのだろうか。
僕が勝手に、小さな手だと思っているだけということか。
それとも彼女はあえて、少し大きなサイズの手袋をしてきたとでもいうのかな。
そもそも、彼女はもっと、女の子らしいものが好みで、小物とかもピンク色やハート型が多く見られる。
今日の洋服だって白いフワフワのコートを着て、天使系の可愛らしい恰好である。
服装や彼女の好みと、この手袋が合っていないような気がして、彼女らしくないと首を傾げる。
しかしその謎は、帰るときになって解けたのであった。
「楽しい時間ってあっという間。もう帰らなくっちゃいけないなんて、寂しいとか悲しいとかを通り越して、もう悔しいな」
久しぶりに彼女と過ごせた、最高の一日。
すごく短くて、物足りなくて、だけれどすごく充実していて、満足満腹万々歳な一日だった。
もっと一緒にいたいのだが、帰らないわけにもいかないので、またすぐに会えると笑顔を浮かべ、手袋を返そうとする。
そのとき、なぜだか彼女はそれを拒んだのだ。
「あぁ、それは、その、……あなたに……あげるわ……。貸すだなんて言い方したけど、本当はあなたのために買ったの。オシャレ以前の問題として、あなたは季節に合った恰好をしなきゃダメ。風邪を引くわ。そう思って、私からのプレゼントなら、身に付けてくれるかな……って」
一方的にそう告げると、彼女はお礼を言うことすら許してくれない。
「じゃあ、そういうことだからっ!」
慌てたように走り去っていく。
急ぐ必要などないのだから、おそらく恥ずかしがっているのだろう。
「それじゃあさ、君が隣で僕の服を選んでおくれよ。僕が風邪を引かないように、温めておくれよ。そうだ、一緒に暮らしたなら良いじゃないか。一緒にいることもできるし、一石二鳥だとは思わないかい?」




