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365個の物語  作者: ひなた
葉月 夏のせいだよね
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葉月九日

  目を閉じて 遥かあなたを 偲ぶ日を


 僕が初めて人間を愛してしまったのは千年と少し前のこと。

 まだ若かった僕は、信じてしまっていた。何もかもを、馬鹿みたいに。ずっと一緒にいられるだなんて、ありえないことさえも、疑うことさえなく信じてしまっていたのだ。

 人間の寿命というものが、いかに短いものかも知らなかった。

 僕も彼女も生まれた頃は変わらなかったのだ。僕ばかりが、千年も長く生きてしまうとは思わないじゃないか。

 あれからいろいろとあった、乱世と呼ばれる、恐ろしい時代も訪れた。

 彼女とのことがあったから、決して人間を愛してしまうようなことはなく、そう気を付けながらも、人間たちのすぐ近くで生きてきた。

 不老不死というわけではなく、時間が経てば、僕も朽ちて死ぬことが許される。生という孤独から解放される。

 そのときがもうすぐなのであると、気付いたのはどれほど前だったろうか。あれから、もう百年近くも経ってしまうのだろう。

 今となれば、もう本当に、もうすぐのところまで死は迫っているのであるが。

 過去のことをこんなにも思い出すのは、走馬燈にも近いものなのであろうか。

 自ら死というものを感じ始めた頃、僕はあなたに出会った。

 今度は一緒に連れ添える。生きてきた道の最後を飾る、素敵な恋を用意してもらえたのだと、憎み続けた神を初めてありがたいと感じたものだ。

 それなのに、やはり神など信じるものではなかった。

 幸せを望むことは、許されてはいなかったのだ。幸せになることなど、許されるはずもなかったのだ。

 僕の自惚れが招いた事態だったのだと、そう言われてしまったなら、それで終わりであるのだけれど。運命の非情さは、それでも変わらないものだ。

 戦争が始まって、四百年前のことを思い出して、僕は勝手に大丈夫だって思ってしまった。

 あれほどひどくはならないだろうって、そう思ったから。

 僕が思っていたとおり、あの頃ほどは、長くは続かなかったね。それよりもずっと惨く、ひどいことは多く行われたわけであるけれど。

 僕が抱き締めていれば、弓矢から剣から、鉄砲からだって守れる。僕ならあなたを守れる。

 そう思っていた僕を上回るほどに、人間の技術というのは進化していたものらしい。

「はぁ」

 もうこれ以上は、思い出したくもないものだ。詳しくは、鮮明には、思い出したくないものだ。

 あんなものがあったのなら、一緒に僕だって殺してしまえただろうに。どうしてまたも僕だけが生き残ってしまったのか。

 どうして僕だけが、生き残ってしまったものだろうか。

 悍ましい記憶から目を背けて、今日はただ、家の中で黙祷を捧げる。光に包まれて、消えてしまったあなたへ。

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