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365個の物語  作者: ひなた
睦月 日常を取り戻しつつあるという幸せ
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睦月二十一日

  震える手 君に届かぬ 指なれど

     一人温め 君を待ちける


 寒い。寒い。

 けれど、君がくると思うと、寒さもいくらか耐えられるような気がした。

 まぁ、本当に君がくるかどうかは、わからないんだけれどね?

 大丈夫。これくらいの寒さ、どうってことない。

 君の温もりを想えば、寒さなんて吹っ飛ぶだろう。

 そう思ったのだけれど、体は心よりも言葉よりも考えよりも、ずっとずっと正直で、手が震え出していた。

「あっ」

 ”きた!”

 この気配は間違えない。

 君のことをずっと見ていたんだ。

 気配だけで、君だってわかるくらいに……。

「ごめんね。ちょっと遅れちゃった。待った?」

「ううん、大丈夫」

「嘘! こんなに手が冷えちゃってるじゃない。手、繋ごう? 温かいよ?」

 今日こそは、話し掛けてみようと決めた。

 だけれど何をどう言えば良いのかなんてわからない。

 そもそも、君が僕のことを知ってくれているのかさえ、わからない。

 だって君は今日もまた、僕ではない男に駆け寄っていくのだから。

 手なんか繋いで。

 僕は君の吐息にも爪にも髪の毛にも、触れたことがないというのに。


 そんな男のどこが良いっていうのさ。


 いつか君が僕を見つけてくれることを信じて、僕は自分の手を擦り合わせる。自分の右手と左手とで、発生する熱が、温かいのがなんだか憎く思えた。

 君が手を握って、温めてくれることはまだないけれど、今はこれで良いさ。

 まだ今は、これで良いのさ……。

 だけど僕は君のことを待っているよ?

 信じてるから。信じて、待ち続けているから。

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