文月九日
夏の夜の 短きにありて 掴み得ず
長閑な春眠 求むる日かな
夏の夜というのは、どうにも短すぎて、十分に眠ることもできない。
こんな状況だというのに、夏に恋が熱くなるなどと、僕にはとても考えられないね。だってそうは思わないかい?
寒い冬の方が、体を重ね互いに熱を共有し、温め合いたいと思うものではないか。
暑いからこそ、眠る気にもなれず、夜でも遊び歩くために起こる、一夏の恋ということだろうか。
それとも火照る体を、恋と勘違いしてのことだろうか。
何にしても、僕には夏の魅力などといったものは、少しも理解できないわけである。
暑い。暑い。暑いったら暑い。
まだ春だろってツッコみたくなる頃から、暑さを訴えてきた僕だけれど、いやはや、ここまで本格的に夏へ入ってしまうと、なんともね。
春のうちから暑くては、実際に夏であるべき、七月や八月にはどうなってしまうことか。そう嘆いたことを覚えているが、七月にはこうなっていた。
もう暑いという言葉じゃ言い表せないほどに、暑い。
せめて眠れるように、夜だけでも涼しくしてくれたなら。
しかしそれでは、今よりももっと、夜が長く続くようにと、夜が恋しく思えてしまうだろうから、それはそれで困るのかもしれないけれど。
手に入らない安眠が、僕を狂わせようとするのだ。
春の眠り。あの心地好い日々へ、戻れたならば。
一つ、願いを呟く。七夕にはもう間に合わない、切実なる願いを。




