文月八日
夏の日の 暑さを癒す 蛍かな
夏は夜とは、よく言ったものである。
日が暮れても蒸し暑さは変わらないのだけれど、昼よりは無論ましになるわけだし、なんといっても夜の暗さというものは、昼の直射日光の強さと対比して、とても素晴らしいものに思えるのだ。
暑さも辛いのだが、あの眩しさも、僕にとっては耐えられたものじゃない。
夜の闇はそんなものなど、少しも感じさせないで、ただ静かに全てを包み込む。
そこを照らす光の小ささは、生命の漲る夏という季節にもある、儚い印象というものをどれも纏っているように思えた。
夜空の星。
光り輝くのだけれども、どこか強い光にも弱々しさを感じさせる。
飛び交う蛍。
光ったり、消えてしまったり、その繰り返し。手に入りそうで入らない、切ない夢のように、僕の前をゆらゆら揺れる。
この美しさといえば、夏の暑さなどというものも、気にならなくなるほどであった。
「夏」というもので取り繕っていないせいかもしれない。
どれも限りあるのだから、儚さも少しは纏うかもしれないが、「夏」の仮面で取り繕ったからには、力強く輝いてしまう。
それこそが夏らしさだと僕は思うし、暑い、と一言そうも思う。
この蛍の光くらいが、結局は、ちょうどいいということなのだろう。
外を見つつも、そっと僕は本のページを捲った――。




