水無月二十日
手の平に 天より積もる 雨水よ
天下泰平 映す水鏡
終わるように望んだところで、この乱世は、そう簡単には終わりはしないだろう。
私の願いなどが、国までを変えてしまうだなんて、そのようなことはありえるはずもない。
というからには、志を持っていられるうちに、私が立ち上がらなければいけないのだ。
手の平というのは、太平なる世界を手にすることができるという意味なのではないだろうか? そのように考えられることも、考えようによってはできないこともないのではないだろうか?
自分の掌を見つめたまま、それを手の平と感じつつも、広い世界を求めた私は、ふらりふらりと外へ出た。
外というのは解放的で、広い視野も得られるようであった。そして上を眺めてみれば、更なる広さを描いてくれる、空が遥か広がっている。
晴れやかな空だったなら、より広さを感じられ、同時に私は自分の力を過信してしまったことだろう。だからこそ、この黒い雲は、僕には相応しいということだろう。
それが、乱世を表しているようにも思えるし。
そのようなことを思っていると、自分が大きくもひどくも小さくも思えて、笑みが零れる。
もちろん、喜びなどと言ったものからなる笑みではなく、自嘲するようなものであった。
「あ、雨だ……」
数分ほどそうしていて、部屋に戻ろうとしたときのこと、広げたままの私の掌に、ぽつりと雨粒が落ちた。
見る見るうちに雨は勢いを増していき、強く振り出したのだけれど、なぜだか私はまだもう少し、外にいようという気持ちになっていた。
この雨という現象が、私に力を与え、背中を押してくれるように思えたから。
両手を合わせて器の形にしてみれば、そこに雨水がたまっていく。
天より雨という形で与えられたこの水は、何かを示してくれているように思えてならない。
先程まで仕事をしていたせいだろう。
手に付いていた墨が水に溶けたのか、雨水が微かに黒く染まっている。そこを覗き込めば、映るのは私の顔ばかり。
けれどこれこそが、私が選ばれたのだということを、暗示していると考えてもよいのだろうか。
私の望みが、志が、間違っていないのだということを、教えてくれていると思ってもよいのだろうか。




