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365個の物語  作者: ひなた
水無月 憂鬱な雨の魅力
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水無月十四日

  傘の花 曇天の元 咲き誇れ


 このところ、曇り空ばかりが続いている。

 どこへ行っても、暗闇に覆われて、本当の空の色なんて忘れてしまいそうだ。

 本当に春の日には、この分厚い雲の上にある、青い空なんてものが見えていたのだろうか。

 そんな疑問が生まれてきて、太陽の光を忘れてしまいそうなほどに、曇り空ばかりが本当に何日も続いているのだ。

 紫陽花は様々な色を持ち、様々な魅力を僕たちに示そうとしてくれている。その花々は、それなりにどれも美しさを感じさせるものだ。

 しかしなぜだろうか。

 どちらかと言わなくても、そんななのだからカラフルに部類されるであろう紫陽花が、まるでモノクロ写真のように思えてならないのだ。なんだか黒く、色のない世界に見えてならない。

 空が灰色に包まれて、鮮やかな色を失っているせいではないかと、僕は考えた。

 全てを象徴するような、青い空をこの世界は失われてしまっているかのように思える。

 実際は、梅雨だから少し雨の日が多いというだけで、もちろん梅雨が明けたなら、太陽の日差しが熱く照り付けてくることだろう。

 なのだけれども、そうだとはわからないはずがなくとも、太陽のない世界を想像してしまう。

 花が咲かないのではなくて、咲く花さえも色を失って見えるというのは、花に罪のないことを示す。

 冷静に考えたなら、僕の目がおかしいのではないかとも思うかもしれないが、そういうわけでもないのだ。

 この季節のこの雰囲気が、色彩を盗むのではないかと本気で思う。

「これ、は……」

 最初から、僕の部屋には色がない。

 白と黒を基調とした、というよりも、ほとんどがその二色だけで仕上がっている部屋だ。

 そうであるからこそに、外のカラフルな景色を堪能できるのではないかと、思っていたからだ。

 花の色なんてものは、それがどのような色か決まったものはなく、見るものの瞳に映るそれこそが真実だ。人によって異なる、その人だけが思い描く真実だ。

 寂しさに窓の外を見てみれば、そこは、花畑だった。驚きと感動で、僕は声を漏らしてしまう。

 それほどまでに、僕が予想だにしていなかった景色だったのだ。

 僕が住んでいる部屋は、六階にある。それなりに高い。

 いつもは窓の外なんて見ても、どうせビルかタワーか川か、溢れるほどの観光客がいるだけだ。だからわざわざ下を見ることなどないのだが、今日ばかりはただならぬ気配を感じてか、カーテンを開いて外を見る。

 そこに広がる花畑は、花の一つ一つが個性的で、それぞれが魅力的で、全てが別々の人生を生きているのだということを、強くアピールするかのようだった。

 その花はどれも、自分を隠しながらも、自分を強く魅せたいと見栄を張っていて、それはそれは美しいものに思えた。

 花畑という協調性はあるのだけれど、花束というほどの統一感はない。

 絶妙のバランスに魅入られて、人の描く花を眺めていた。

「あぁ、雨とは、こんなにも素晴らしい景色を生んでくれるものだったのか」

 傘をさして歩く、人の姿ばかりを見ていたのだが、ふと上も見上げてみる。

 しとしとと雨が降り続いていた。

 この雨がなければ、傘をさす人は格段に減るだろうから、こうした景色を見ることはできなかったことだろう。そう思うと、雲が立ち込めただけで迷惑に思い、降りだす雨に憂鬱になった今までの考えを、謝り改めなければいけないな。

 ああもっと堂々と咲き誇り給え、傘の花々よ。

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