水無月二日
窓の外 どんより雲は 雨遠く
冷たい心を 沈めゆきけり
この人は敵だ。直感的にそう思うこともある。
初めましての人なんだけど、目の前の男性に今、あたしは本能でそう感じてしまったの。
とっても男らしくって顔も整っていて、どこか聡明で優しそうでもあるの。外見から受ける印象として、欠けるところなんて、ちっともないと思うわ。
でもだからといって、胡散臭さだってないのよ?
もう完璧って感じ。
あっ、別にあたしは、完璧な人を嫌うような、妬みに染まった汚い性格はしてないつもりよ。
なんだけどなぜだか、この人のこと、好きになれないような気がするの。
「この家に何か用があるのか」
怖くって、逃げ出しそうになってしまったとき、見た目どおりの優しい声で、その男性はあたしに声を掛けてきた。
この人、あたしの王子様と、どういう関係なんだろう。
一人暮らしだって言ってたはず。
だったらば、いつあたしがこの家を訪ねようと、この人には関係ないはずよ。
「あぁ、いらしたのですね。すっかり花々は散ってしまって、紫陽花くらいしかありませんが、窓から眺めると中々に粋なものですよ。雨が降ると、より美しく見えるのですが、珍しく今はすっかり晴れですね」
彼が微笑みながらやってきてくれて、家の中にまであたしを入れてくれる。
それと一緒に、すごく自然な感じで、完璧イケメンも家の中に入って来るの。
「ここから見るのが、私としては一番のお気に入りです。お二人とも、ご覧になればわかると思いますよ」
お二人とも……?
綺麗な微笑みを浮かべてるから、このイケメンが、あたしの王子様にとって、大切な人だってことはわかる。おともだちなんだったら、あたしも、仲良くなりたいと思う。
なのになんでなんだろ。
敵としか思えないの。優しい笑顔を向けてくれてるのに、たぶん、あたしを傷付ける人だって、本能的に感じるの。
「本当だ。これは良い」「まぁ、ほんとに素敵ね」
感嘆の声を漏らすのが、同時だったことさえ、なんだか腹立たしく思える。
もしかしたら、これが嫉妬ってことなのかもしれない。
あたし、嫉妬までしちゃうくらい、王子様のこと、好きになっちゃってるのかな?
きっと恋しているんだってことも、わかってるのに。そんな中で戦うんだから、おともだちにまで、嫉妬してたって駄目に決まってるのに。
意外とあたしは嫉妬深くて、独占欲が強くって、嫌な性格だったのね。
自分でも初めて知ることばっかりで、……なんか……辛いよ…………。




