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365個の物語  作者: ひなた
皐月 春の風、吹き去りていく。
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皐月十九日

  懐かしい 掌が告げる 温もりに

     廻る季節も 癒されるかな


 体の弱い私を心配して、貴方は私を自然の多い場所へ置いてくれていました。

 その心遣いはもちろん嬉しかったですし、間近に季節を感じることもでき、最初はそこが最も素晴らしい場所だとすら思えていましたよ。

 けれども私の代わりに、貴方は二人分を働かなければならなかったわけですし、そのためには貴方は都会へと向かう必要がありました。

 哀しくも、私たちは別々に暮らすしかなかったのです。

 そうなってしまったのは私のせいだと思うと、苦しくて仕方がありませんでした。

 間近に季節が感じられることも、趣があって素敵だとは思いますが、一人で過ごす時間を感じさせる効果もありましたし。

 貴方に会えない時間が辛くて辛くて辛くて、頑張る貴方のことを恨むことさえありましたよ。

 今はそんなこと、なくなったのです。

 貴方が私のところに帰ってきてくれた、私たちは一緒に暮らすことができるようになったのです。

 どれも貴方の努力のおかげなのですから、本当に申しわけなくて、……だから私、思うんです。せっかく一緒にいられるのだから、私にしかできないことを、貴方のためにしてあげようと。

 貴方が望んで下さるのならば、そう、どんなことでもですよ。

「一人で残されるのは辛いだろ、私には絶対に耐えられない。だから、置いていくなよ?」

 一緒に外の景色を眺めていますと、ふと貴方はそのようなことを仰いました。

 驚いて貴方を見てみれば、その横顔はひどく寂し気で、私が守ってあげなければいけないのだと、そんな気にさせます。

 ずっと守られてきたのだから、今度は私が守る番なのだと、そう思わされます。

「ええ、お傍におりましょう。貴方がいて下さるんですもの、私だって、この幸せな時間をそう簡単に手放すつもりはありませんよ」

 そう笑顔を向けるけれども、貴方は尚も寂しそうにしているものですから、私は貴方の手に自分の手を重ねました。

 男らしく強くて硬い貴方の手に比べて、私の手は細く白く、女性のようなもの。恥ずかしくて、思わず隠してしまいたくなるけれど、貴方がそれを嬉しそうにして下さるから、私にそうはできませんでした。

 不意に私の手を振り払ったかと思えば、少し乱暴ながらも、力強く手を握って下さいました。

 掌と掌が重なり、解けることのないように、絆を示すように絡め合います。

 優しくて温かくて、私を安心させてくれるそれは、幸せと懐かしさに満ちていました。

 一人で過ごしてきた季節も、寂しさにより心の傷も、何もかもが癒されて行くようです。

 幸せで、幸せで、今ならば全てを受け入れられるとすら思えましたよ。

「心から、貴方のことを愛しています」

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