皐月十九日
懐かしい 掌が告げる 温もりに
廻る季節も 癒されるかな
体の弱い私を心配して、貴方は私を自然の多い場所へ置いてくれていました。
その心遣いはもちろん嬉しかったですし、間近に季節を感じることもでき、最初はそこが最も素晴らしい場所だとすら思えていましたよ。
けれども私の代わりに、貴方は二人分を働かなければならなかったわけですし、そのためには貴方は都会へと向かう必要がありました。
哀しくも、私たちは別々に暮らすしかなかったのです。
そうなってしまったのは私のせいだと思うと、苦しくて仕方がありませんでした。
間近に季節が感じられることも、趣があって素敵だとは思いますが、一人で過ごす時間を感じさせる効果もありましたし。
貴方に会えない時間が辛くて辛くて辛くて、頑張る貴方のことを恨むことさえありましたよ。
今はそんなこと、なくなったのです。
貴方が私のところに帰ってきてくれた、私たちは一緒に暮らすことができるようになったのです。
どれも貴方の努力のおかげなのですから、本当に申しわけなくて、……だから私、思うんです。せっかく一緒にいられるのだから、私にしかできないことを、貴方のためにしてあげようと。
貴方が望んで下さるのならば、そう、どんなことでもですよ。
「一人で残されるのは辛いだろ、私には絶対に耐えられない。だから、置いていくなよ?」
一緒に外の景色を眺めていますと、ふと貴方はそのようなことを仰いました。
驚いて貴方を見てみれば、その横顔はひどく寂し気で、私が守ってあげなければいけないのだと、そんな気にさせます。
ずっと守られてきたのだから、今度は私が守る番なのだと、そう思わされます。
「ええ、お傍におりましょう。貴方がいて下さるんですもの、私だって、この幸せな時間をそう簡単に手放すつもりはありませんよ」
そう笑顔を向けるけれども、貴方は尚も寂しそうにしているものですから、私は貴方の手に自分の手を重ねました。
男らしく強くて硬い貴方の手に比べて、私の手は細く白く、女性のようなもの。恥ずかしくて、思わず隠してしまいたくなるけれど、貴方がそれを嬉しそうにして下さるから、私にそうはできませんでした。
不意に私の手を振り払ったかと思えば、少し乱暴ながらも、力強く手を握って下さいました。
掌と掌が重なり、解けることのないように、絆を示すように絡め合います。
優しくて温かくて、私を安心させてくれるそれは、幸せと懐かしさに満ちていました。
一人で過ごしてきた季節も、寂しさにより心の傷も、何もかもが癒されて行くようです。
幸せで、幸せで、今ならば全てを受け入れられるとすら思えましたよ。
「心から、貴方のことを愛しています」




