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365個の物語  作者: ひなた
皐月 春の風、吹き去りていく。
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皐月十八日

  約束よ 花冠の 遠き夢


 あなたはまだ覚えていてくれる? それとも、もう忘れちゃったかな……?

 まだ幼かった私たちの、果たされることのなかった夢、約束。叶うことのなかった希望、願い。

 あれもこれも、全てが私にとっては大切なことで、私はどれも忘れられていない。過去に縛られていると、傍から見ればそう思えるかもしれないね。

 けれども本当に大切だから、忘れるだなんてことはできないの。

 私がこうして苦しんでいるように、あなたも苦しんでくれているかな。

 もちろん、あなたには笑っていてもらいたいし、苦しんでほしいなんてことは思わない。思うはずがない、絶対に。

 そうなんだけど、全て忘れてなかったことにされているとしたら、それはあまりにも哀しいかなって、そう思ったんだ。

 羨ましいという気持ちもあるけれどね。

 全部を忘れることができていたなら、楽しく生きられるように思えるし。

 あっ、今だって楽しくないわけじゃないよ?

 あなたと一緒に過ごした日々は大切だし、思い出すことは幸せな気分にさせてくれる。それを抱えていることが、寂しさだけじゃなくて、悲しさなんかじゃなくて、楽しさとか喜びとか、そういうものをたくさん持っていることは、あなただってわかるでしょ?

 だけどもそういうことじゃなくって、私は、どうしても終わりの瞬間も一緒に思い出してしまうんだもの。

 楽しい気分になった後に、一気に後悔と胸の苦しさに襲われるの。

 過去のことだって、笑って流すことなんて、どう頑張ったってできないくらいに。

「大人になってもずっと一緒にいよう」

「うん、約束よ」

 小指を絡め合って、私たちは笑った。

 今の私たちならば、それが許されることではないことくらい、理解することができる。引き裂かれたその理由も、理解することができる。

 あの頃の私たちはその約束が叶うこと、信じて疑っていなかったけれど。

「世界中が花畑になったならいいのに」

「だったら、私たちでそうしてしまいましょう。私たちならば、きっとできる、世界を花畑にしましょうよっ」

 不器用だけど一生懸命に作った花冠。少し不細工だったけれど、夢と希望とが詰まっていた。

 お互いに贈り合って、頭に花冠を乗せた小さな王子様とお姫様。

 なんでもできると思っていた、無邪気な私たち。

 全てが失われてしまったこの場所で、夢に満ち溢れた楽しかった日々を思い出すの。幸せになれる、そうして、辛くもなる。

 感情を思い出せる。私を縛る枷のような記憶。

 あなたはまだ覚えていてくれる? それとも、もう忘れることができたかな……?

 まだ幼かった私たちの、果たされることのなかった夢、約束。叶うことのなかった希望、願い。

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