皐月十八日
約束よ 花冠の 遠き夢
あなたはまだ覚えていてくれる? それとも、もう忘れちゃったかな……?
まだ幼かった私たちの、果たされることのなかった夢、約束。叶うことのなかった希望、願い。
あれもこれも、全てが私にとっては大切なことで、私はどれも忘れられていない。過去に縛られていると、傍から見ればそう思えるかもしれないね。
けれども本当に大切だから、忘れるだなんてことはできないの。
私がこうして苦しんでいるように、あなたも苦しんでくれているかな。
もちろん、あなたには笑っていてもらいたいし、苦しんでほしいなんてことは思わない。思うはずがない、絶対に。
そうなんだけど、全て忘れてなかったことにされているとしたら、それはあまりにも哀しいかなって、そう思ったんだ。
羨ましいという気持ちもあるけれどね。
全部を忘れることができていたなら、楽しく生きられるように思えるし。
あっ、今だって楽しくないわけじゃないよ?
あなたと一緒に過ごした日々は大切だし、思い出すことは幸せな気分にさせてくれる。それを抱えていることが、寂しさだけじゃなくて、悲しさなんかじゃなくて、楽しさとか喜びとか、そういうものをたくさん持っていることは、あなただってわかるでしょ?
だけどもそういうことじゃなくって、私は、どうしても終わりの瞬間も一緒に思い出してしまうんだもの。
楽しい気分になった後に、一気に後悔と胸の苦しさに襲われるの。
過去のことだって、笑って流すことなんて、どう頑張ったってできないくらいに。
「大人になってもずっと一緒にいよう」
「うん、約束よ」
小指を絡め合って、私たちは笑った。
今の私たちならば、それが許されることではないことくらい、理解することができる。引き裂かれたその理由も、理解することができる。
あの頃の私たちはその約束が叶うこと、信じて疑っていなかったけれど。
「世界中が花畑になったならいいのに」
「だったら、私たちでそうしてしまいましょう。私たちならば、きっとできる、世界を花畑にしましょうよっ」
不器用だけど一生懸命に作った花冠。少し不細工だったけれど、夢と希望とが詰まっていた。
お互いに贈り合って、頭に花冠を乗せた小さな王子様とお姫様。
なんでもできると思っていた、無邪気な私たち。
全てが失われてしまったこの場所で、夢に満ち溢れた楽しかった日々を思い出すの。幸せになれる、そうして、辛くもなる。
感情を思い出せる。私を縛る枷のような記憶。
あなたはまだ覚えていてくれる? それとも、もう忘れることができたかな……?
まだ幼かった私たちの、果たされることのなかった夢、約束。叶うことのなかった希望、願い。




