皐月十一日
腐る友 住み替わるよぞ 妃奈の家
妃奈ね、お引越しするの。
といっても、そんなに楽しいことじゃないんだけど。新しい家に行けるのは、楽しみなんだけど、あんまり嬉しいことじゃないんだ。
最初は一人称を自分の名前にして、子どもぶろうとしてみたけど、残念ながら私はそんなに子どもじゃなし。
僕とか拙者とか某とか、ちょっと厨二っぽくそう言おうとも思ったけど、残念ながらそれくらいにも子どもじゃないし。
ウチとかありなんじゃね? とも思ったけれど、そんなに若くないし、若い頃だってそんな一人称を使った覚えなど一度たりともない。
そんなことはどうでもいいとして、この引越しは私にとって嘆くべきことなのである。
正直に言おうじゃないか。
こんな事態を招いてしまったのは、一概に私が悪い。私以外には少しの原因もないと言っていいだろう。間違えなく、そう言いきれるだろう。
資金不足じゃ。趣味にお金を使い過ぎたというか、貢ぎ過ぎたというか、その結果としてこの場所に住み続けることができなくなり、引っ越しを余儀なく……みたいなことである。
旅に出たくて仕方がなくなったから、家を他人に渡しちゃった。(∀`*ゞ)テヘッ
だなんてご立派なことではありませんよ、わるぅござんしたね、奥の細道なんて書けなくって!
そこまで貢いでいる私の趣味というのは、ずばりBL、ボーイズラブというものである。
あんなの邪道と思っていたのだが、一度はまってしまたら、底なし沼のように深くへとはまり抜け出せなくなってしまったのだ。
そしてこの家は、腐り友だちが、所謂腐女子と呼ばれる友が、すぐ近くに住んでいる。
二人で語らったり出陣したりしたというのに、家が遠くなってしまったら、その機会も減ることとなってしまうだろう……。私の計算が狂っていたがために、彼女には申しわけないことをしてしまったと思っている。
約束、守れそうにないよ、ごめん。といった感じで、バタンと倒れてしまうのだろう。
『この家も他の人の手に渡る。そうして、住み替わり、時代というものは流れていくんだわ。だから、さよなら。たしかに私の名前はひなだけれど、漢字で書けば妃奈なわけだから、いつまでも子どもというわけじゃないの。あぁ、さようなら、永遠の十二歳とも言われた私の純情な日々』
馬鹿みたいなことかもしれないけれど、これは私にとって大切なこと。
だからレターセットを取り出してそう書き残すと、我が同志の家のポストに放り入れて、遂に私は旅立っていくのであった。
新たな地へと! もうワンランク下のアパートへと!
「変なのがポストに入ってたんだけど、犯人は妃奈でしょ、これ何?」
「え、遺書だけど逆に何?」




