皐月十日
物言えば 唇紅し 春の風
春の風が吹くと、みんな、恋しちゃうみたいなの。
春って恋の季節だというのは、だれでもみんなが感じることだと思うのね。ちなみに私のイメージとしては、夏は愛で、秋は故意、冬は哀かしらね。
だれかわかってくれる人、いるでしょ? そう特殊なものでもないと思うし、共感できるんじゃないかと思っている。あくまでも自分では、だけど。
と! に! か! く! とにかくなの!
恋が始まる爽やかな季節である春の、暖かく優しいこの風は、それこそ恋を届けてくれるものなんじゃないかと思う。
この風に吹かれてみれば、みんながみんな、美しいものに思えるようじゃないの。
「あっ、あの……」
勇気を振り絞って、声を出してみる。
そうしたならきっと、春の訪れを告げたあの風が、恋の訪れも告げようとするように、二人の間を吹き抜けていくんじゃないかと思う。
頬は可愛らしい桜色。
精一杯の背伸びしたオシャレ。紅を引いたその唇は、恋の色を広げていく。
あぁ、私にも来ないかしら、運命の人。待っているのよ、白馬の王子様。
秋になったら不思議と期待は諦めになる。寒い日にはもう、運命なんて馬鹿らしいと、嘲笑うことだってできたはずなのに。
それなのにおかしなことだよね。
春って期待しちゃう。これも温かい春の風のせいなのかな?




