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百曲集  作者: 千賀藤兵衛
65/100

065:歯車がはじけ飛ぶ

 一、内科医院の事務員の話


 あの、申し訳ありませんが、患者さんの個人的な事情についてお話しするわけには……え? ああ、院長先生が調査に協力するようにとおっしゃっていたのはそちらさまのことでしたか。でも警察のかたにはこないだから何度も説明しておりまして、これ以上は新しく申し上げることもないのですけれど……えっ、警察ではない? そうですか、大学から調査にいらっしゃった……。これは失礼をいたしました。わたしったら、早とちりなものでして。

 それで、あの患者さんのお話ですね。ええ、詳しくおぼえております。何度も質問されましたし。

 うちの医院は朝九時開院となっておりまして、その男の子はその日、先週の水曜日ですね、開院と同時にやってきました。ブレザーを着ていまして、ええ、すぐそこの高校の制服です。たぶん、診察してもらったあとで学校に行くつもりだったんでしょうね。

 診察はすぐに済みまして、わたしはそちらの内容は詳しく存じませんが、どうやらただの風邪だったみたいです。

 ところが、会計のときにちょっとトラブルが起こりまして。その男の子、保険証を持ってきてなかったんです。当然診察費は全額自己負担になります。受け付けをしたときにそのことはちゃんと説明したんですけれど、どうもその子、あまりよくわかっていなかったみたいなんです。それで、持っているお金では足りないし、どうしようってことになりました。

 でも、実のところ保険証を忘れてきたなんていうのは、わたしどもにとってはそう珍しいことではありません。顔なじみの患者さんであれば、次に来るときにはちゃんと持ってきてくださいねって言ってそのまま保険を適用して会計してしまうこともあります。病院にもよると思いますけど、うちの院長先生はそのへんわりと鷹揚でして……あら、わたしがこんなこと言ったなんて、内緒ですよ。

 今回の件も、ご家族のかたにファックスで保険証のコピーを送ってもらうとかして確認がとれれば、現物は後日持ってきてもらうということにして、三割負担で会計してもいいでしょうってことになりそうだったんです。ところが、その男の子がゴネましてね。ゴネたというと言い方がわるいですけれど、とにかくきっちりやらないと気持ちがおさまらないというか、融通がきかない感じでした。

 それでどうしたかというと、お金を持ってきますから待っててくださいって言って、荷物をここに置いたまま出て行っちゃって、三十分ぐらいでしたかねえ、そのぐらいたってからやっと戻ってきて結局全額払って行きました。たぶん郵便局かどこかにお金を下ろしに行ってたんじゃないでしょうか。

 会計を済ませて出て行くときには、なんだか顔が青白くなって、来たときよりも具合が悪そうに見えましたけど、まさかあんなことになるなんてねえ。いったい何がどうしてあんなことになったんでしょうか。あら、すみません。それを調べていらっしゃるのでしたね。



 二、私立高校の教師の話


 これはどうも、そちらの大学にはうちの卒業生も毎年何人も進学しておりまして。いえいえ、こちらこそお世話になっております。

 それで、今日はあの生徒について詳しく聞きたいとか。ええ、たしかに私の受け持ちのクラスに在籍していました。

 たしか先週の水曜日でしたか、その日は十一時ぐらいになってからようやく学校に来ましてね。無断遅刻です。

 話を聞いてみたら、風邪ぎみだったので病院に寄ってから来たと言っていました。たしかに顔色が白っぽくて、体調は良くないみたいでしたね。後で思い返してみると、なんだか薄暗い雰囲気も漂っていまして、もしかしたらあれは死相というやつだったのかもしれません。

 それはともかく、遅刻するなんて連絡はありませんでしたので、私はそのへんを問いただしました。すると、学校に来てから説明すればいいだろうと思って連絡しなかったと言うのです。

 で、まあ、軽く説教です。休むとか遅刻するのであればちゃんと連絡すること。そうしないとこっちは学校に来る途中で事故にでも遭ったのではないかと思うし、安否の確認のために時間も人手も取られる。学校の本来の業務がそのぶん滞る。云々。まあ、社会人にとっては当たりまえのことですね。本校ではこういうことは特に厳しく指導しています。こういうところがきちんとしていないと、生徒本人が社会に出たときに困るわけですから。

 えっ、そのときの様子ですか? そうですね、説教されているあいだ、かなりこたえた顔をしてましたね。ふだんは成績も素行もいい生徒なので、これまであまり叱られたことがなかったのかもしれません。ただ、なんだか顔色がどんどん悪くなっていって、見るからに具合が良くなさそうなので、今日はもう帰って休むようにと言ってほどほどで切り上げました。

 で、昼休みに入ってから、ええ、そうです。近くのラーメン屋さんから連絡をもらいまして。いまもって何がなんだかわかりませんが、とにかくああいうことになったわけです。

 今回初めて知りましたが、ああいう事件は毎年何件か起こっているそうですね。結局どういうことなんでしょう。やっぱり、一種の超常現象とかそういったことなのでしょうか。



 三、ラーメン屋のアルバイト店員の話


 うん、そうです。

 僕はその日は十一時半からのシフトに入ってましてね。その男の子が来たのは店が混みはじめる時間帯でした。十一時四十五分か五十分ぐらい。

 ええ、近所の高校のブレザーの制服を着ててね。顔色はちょっと白すぎる感じだったけど、足どりはしっかりしてたし、倒れるんじゃないかとか、そんなふうには思わなかったな。

 店に入ってくると入口の自動販売機で食券を買って、いちばんすみっこの席にすわりました。注文は醤油ラーメン。トッピングとかサイドメニューの注文はなし。で、注文の品を出したら、おとなしく食べてました。食べてるあいだはべつにどうってこともなかったんだけど。

 ええ、食べ終わって席を立ったときに、ちょっとね。

 近くの席に常連のお客さんがすわってたんですけど、ちょっとその人がね。いや、悪い人じゃないんですよ。ただちょっと、こわもてっていうか、顔がゴツいのと、あと声がやたらデカいんで、初めて話す人はちょっとビビっちゃうような。

 その人がね、食べ終わった丼をカウンターの上にあげていけというようなことを、その男の子に言ったんですよ。それがこの店の決まりだって。お客さんのほうから見ると、カウンターが二段になってましてね。カウンターの高いところに丼をあげていってもらえれば、こっちは片づけるのにいちいちカウンターを出なくてすむんで、手間がはぶけるわけです。

 ただ、べつにそういう決まりにしてるわけじゃありません。お客さんにそうしてくれとも言ってません。忙しい時間帯なんかは、そうしてもらえると助かるのは確かだけど。そうしてくれるお客さんもいるってだけです。

 で、その男の子はそういうふうに言われて、しばらくだまって突っ立ってました。最初から白っぽかった顔からますます血の気が引いちゃってね、雰囲気もどんどん暗くなって、どうなるのかとこっちがハラハラするぐらい。店長が見てたら、気にしなくていいよとか言ってくれたかもしれないけど、そのときはちょうど店の裏に物を取りに行ってて、その場にいませんでした。僕はどうしたらいいのかわからなくて何も言えませんし。それで迷ってるうちに、その子はいきなり消えてしまったんです。すうっと。で、着てた服だけがひらひらと床に落ちました。

 何が起こったのかわからないけど、どう考えてもただごとじゃないんで、あわてて店長を呼んで、警察と学校に電話しました。お客さんたちも驚いて、特に男の子を叱りつけてたお客さんは腰を抜かしちゃうし。めちゃくちゃでした。それ以来、客足も鈍っちゃって……いや、これは余計なことですね。

 結局なんだったんですかね、あれ。あの男の子はあれきり見つからないそうですけど。聞いた話じゃ、うちの店に来る前に学校でもなんかあったんですって? それでもう消えちゃいたいって思ったのかな。


 今回イメージした曲は、『UNDERTALE』(Toby Fox、2015年)から、

 「MEGALOVANIA」(Toby Fox作曲)です。


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