064:最後の戦い
ついに最後の戦いが勃発した。
だが、立ち上がって戦いにおもむいたのは、秩序と格式を重んじる誇り高い騎士でもなければ厳しい訓練に耐え抜いて戦闘技術を身につけた兵士たちでもなく、荒けずりな才能とありあまる夢をかかえた生意気な若者でもなく、何をしても格好のいい覆面のヒーローでもなく、お上に命じられていやいや武器を取った農民兵でもなく、陽気さと蛮勇だけをたのみに社会の不正義に抵抗する盗賊の一味でもなく、並外れた武芸の腕を持ちながらどこにも仕えずに放浪している風来坊でもなく、迫害を受けながらなおも自らの親しい人々を守ろうとする異能者でもなく、知識豊富な学究でもなく、敬虔な聖職者でもなく、たがいの手を取り合うことで世の中をくつがえすほどの勢力となった庶民の群れでもなかった。
見送る者がだれもいないひとすじの道を、その者は歩いてゆく。手にしている得物は、名工が精魂こめて鍛えた業物ではない。神、悪魔、そのほか人知を超えた何者かから遣わされた魔法の品でもない。厳格に管理された生産ラインで技術の粋を尽くして製造された信頼のおける工業製品でもなく、先祖代々使ってきた家伝のひとふりでもなく、自らの魂を魔術によって武器の形に変ぜしめたものでもなく、武器としての実用性には欠けるが権威によって多くの人を従わせることができる象徴的な品でもなく、道ばたに落ちているのを拾って振ってみたら思いのほか具合がよかったので以来愛用している安物でもなかった。
やがて、行く手に戦うべき相手の姿が見えてきた。それは暴虐な侵略国家の軍隊ではなかった。凶暴な野獣の群れでもなかった。生活苦のためにやむなく悪事に手を染めた善人でもなく、よその星からはるばるこの地まで漂流してきた怪獣でもなく、にこやかな笑顔のかげでおぞましい犯行を繰り返していた精神異常者でもなく、行きすぎた信仰心によって暴力を自己正当化している狂信者でもなく、自分の家族を虐げた者に報いをもたらそうとする復讐者でもなく、生命のあたたかみを求めてさまよう亡者の群れでもなく、ただ立場が違うせいで対立することになった平凡な隣人でもなく、信仰が途絶えたために人々に仇なす存在と化したいにしえの神でもなく、金の力で世界を支配しようとするコングロマリットでもなく、洪水や雪崩や土砂崩れといった自然災害でもなかった。
敵を前にして、その者は得物をふるう。それはたゆまぬ鍛練のすえに可能となった必殺の一撃ではなかった。フェイントをふんだんにまじえた華麗な連続技でもなければ、泥くさく愚直な基本の一手でもなかった。魔法の輝きを宿してもいなければ、あふれる闘志が炎のような形をとってまとわりついているわけでもなかった。秘伝の奥義を繰り出すこともなく、下町仕込みの汚い手を使うこともなく、これまでに散った仲間への想いが最後の力を呼び覚ますこともなく、そもそもそんな仲間がいたかどうかもさだかではなかった。
ただひとつだけ確かなことは、戦うのをやめたら戦いが終わってしまうということ。それだけを理由に、その者は戦いをつづけた。いつまでも、いつまでも。
今回イメージした曲は『グランナイツヒストリー』(ヴァニラウェア、2011年)から、
「Rising to Action!」(上倉紀行作曲)です。




