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色即是空--我思う、されど我は無し 6

***



――後一手足りねえな。


 箒の先から爆炎を噴かせて、ユカリは道士へと火球を放ち続けた。彼女の視界の先では□□の影と成ってタローが竜巻を片手に道士を猛追している。


 しかし、そのいずれの攻撃も道士は一体の白銀の鎧を着たキョンシーと共に紙一重で避け続け、何れも彼の動きを止めるには至っていなかった。


 道士は既にユカリやタロー達を倒す事を放棄しているらしく、彼の動きは逃げの一手である。殺し合いとなれば、ユカリは王志文に勝てるだろう。術の多様性は相手が上でも、力の応用性はこちらの方が上なのだ。どんな術を放ってこようとも焼き尽くす自信があった。


 だが、道士は最後に残された隠し球として、彼が作り出したキョンシー達の体を作り変え、それでユカリの炎像達の攻撃を止めている。


 大体キョンシー一体の実力はユカリの炎像七体分と言った所である。ユカリの炎像はそれ自体の実力はそこまでではないのだ。


 彼女の舞踏会の本質はその再生にある。


 どれだけ消されようとも、万物を燃やす炎が再生し続けるという点が炎像達の力の本質なのだ。これゆえに相手は舞踏会から逃げ続けるしかなく、ユカリは騎士や狐達と共に相手を追い詰めてきた。


 しかし、あのキョンシー達の本質もまた再生である。不死鳥としての力を用いたユカリのプロセスとは違い、五行相剋を用いた物だが、再生対再生では埒が明かない。


 では、新たなる炎像を召還し、さらに手数を増やしたら良いのかと言うとこれもまた不正解である。


 ユカリはほぼ無尽蔵に炎像を生み出す事が出来るが、それは彼女の火種を分け与える様な物であり、炎像の数を増やすほど本体のユカリの力は弱くなる。


 現在召還した炎の数は凡そ二百。これが、本体のユカリが王志文を殺せるに足るぎりぎりのラインだった。


 ひたすらに何かを待つ様に逃げ続ける王志文相手に、ユカリには後一つだけ手数が足りなかったのだ。


「切り裂け!」


 □□の影の姿であるタローが、無数の風の刃を放つが、それを道士はキョンシーをぶつける事で回避した。


 右と左それぞれを緑炎と紫電の水に纏わせたキョンシーの体は細切れとなり、瞬時に再生する。


 同時にユカリも道士へと散弾銃のような火球を放つが、彼の生み出した水流に逸らされ、全て紙一重で避けられる


 先ほどからこの繰り返しだ。ユカリ達が戦う更に上、白い海上に居るココノエは今、他のキョンシーと龍達を何とか食い止めている。彼女の時間稼ぎもそろそろ持たないだろう。


 ユカリは焦らなかった。タイムリミットは迫っているが、それは道士も同じ事。彼の今の行動が悪足掻きに近い物だと分かっていたからだ。


 つまり、我慢比べである。ユカリとタロー、そして道士。均衡を崩した方の負けとなる。


 火球の射出速度を更に上げ、シューティングゲームをしているような感覚に成りながら、ユカリは道士を追い続ける。


 タローが道士に触れるか、ユカリが彼を倒せば彼女達の勝ち。


 ココノエが力尽き、上空のキョンシーや龍達がこちらへ雪崩れ込めば道士の勝ち。


 酷く単純なゲームである。


 炎の女王は決して焦らず、けれど感情を昂ぶらせ、瞳に火を灯した。


***


「……はっ!」


 何時まで経っても縮まらない距離にタローは苛立ちながらも、緑炎と紫電を纏わせて竜巻を連続して王志文へと放った。


「『行け』!」


 しかし、王志文を守る様に白銀のキョンシーが間へと割って入り込み、タローが放った竜巻はそれの四肢を捥ぐ。四肢が千切れた側からキョンシーの体は再生し続け、それの体はタローの竜巻たち全てを受け切った。


 いくらタローが愛鈴の影となり、彼女と同じ力を手に入れようとも、その力ではあのキョンシーの再生力を上回る威力を出す事が出来ない。


 愛鈴よりも、愛鈴というキョンシーが持つスペックについて理解したタローだからこそ、王志文が作り変えた白銀のキョンシーを正面から突破する事が不可能であると分かっていた。


 また、同時に愛鈴が出せる最高速度は王志文に一歩及ばす、鎧のキョンシーを振り切って彼に近付くのも難しい。


 今は、少女の姿と成ったユカリの尽力によりギリギリまで王志文を追い詰めていたが、彼女が居なければとっくに逃げられていた事だろう。


――後、一歩なのに。今のままじゃて手数が足りない!


 王志文は既に悪足掻きをしており、ほぼ詰みの状況にあるのにも関わらず、未だタローとユカリの猛攻を凌ぎ切る。


 タローはユカリを真似して、両手の十の指の先に緑炎と紫電を灯し、小型の竜巻に乗せてマシンガンのように撃ち放った。


 威力ではなく速度を重視した攻撃は鎧のキョンシーの脇を通り過ぎ、幾つが王志文へと届く。


 が、


「『貫け』」


 王志文の背後に生まれ、射出された数々の武器にタローが放った攻撃は全て打ち消される。


 金悔火。中途半端な威力では意味が無い。自分の体へと放たれる槍や剣を烈風で逸らしながら、タローは次に威力を込めた極大の緑炎を放った。


 炎は風によって螺旋を描き、その螺旋に乗って紫電が走る。


 バチバチバチバチバチバチバチ!


 これは再び鎧のキョンシーによって阻まれる。体を大の字にして今の一撃を受けたキョンシーは腹に穴が開き、瞬時に木と土がその穴を埋めた。


 威力を重視すれば白銀のキョンシーに阻まれる。


 チラッとタローは右下の方で鎧にキョンシー達に捕まった自身の龍を見た。緑龍に体にしがみついたキョンシー達の体は瞬く間に燃えては再生し、千切れては再生し、その鱗を放さない。


――もう一体出せるか?


 タローは自身の体へと問い掛けた。あの緑龍をもう一体出せないだろうかと。


 答えは是。出すこと自体は可能だ。しかし、もう一体出した瞬間、愛鈴の体は力尽き、タローは空を駆ける事が敵わなくなるだろう。


 つまり、龍を召還した瞬間、タローはもう戦えない。


「いい加減諦めろ、王志文! お前が愛したキョンシーはもう俺の物だ!」


 返答は分かっており、挑発のためにタローは声を張り上げた。


「黙れ! 価値すら分からないお前如き間男がアレを自分の物にしただとっ!? 思い上がりも甚だしい!」


 苛烈に怒りながらも、王志文は最短距離でユカリの火球を避け、タローを近寄らせもしなかった。この程度の挑発では意味が無い。


 けれど、タローは口を止めなかった。一瞬の隙を待っているのだ。


 その隙に最後の一撃を叩き込むために、タローは王志文の逆鱗を撫で続ける。


「お前みたいな男がわたしを物にする? 嫌だね! 自分の人形遊びに他の奴を巻き込んでじゃねーよ! そのお得意の五行でダッチワイフでも作りな!」


 鈴が鳴る様な愛鈴の声で、愛鈴ならば絶対に言わないような下劣な言葉を、愛鈴が感じているであろう怒りに装飾してタローは炎と雷と風に乗せて叫び続けた。


「その声で叫ぶな!」


 タローの眉間へと高速で鉄の矢が放たれ、それをタローは左に避けた。


「はっ! 悔しいか? 悔しいだろう! お前が頑張って頑張って作った独り善がりの人形をぽっと出の男に取られたんだからな! 当たり前だ! お前には甲斐性が無いんだよ! ちったぁ他人の迷惑も考えろ!」

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