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ボケとツッコミの社会問題会議

ボーイズトーク ~宇宙人の侵略編

 「何故、人類は宇宙人の侵略に備えないのだろう?」

 突然、そう言ったのは、園田タケシ、通称、ソゲキだった。

 「いきなりどうした、ソゲキ?」

 と、そう返したのは火田修平。

 「いえ、突然、素朴な疑問が浮かびまして」

 と、そう答えるソゲキ。それに対し、村上アキがツッコミを入れた。

 「素朴かな?それは…」

 それに、火田が「珍しいな、ツッコミか、村上。お前はボケだろう?」と尋ねると、アキは困ったような表情でこう返した。

 「いえ、この面子だと、どうもツッコミに回らざるを得ないような気がして…」

 その場にいたのは、後二人。普通な男の神谷直人と、地獄のマイペースな吉田誠一だった。神谷はなんとなく顔をソゲキらに向けているが、吉田は本を読み続けていて、ほぼ関心がない様子。火田は「まぁな」とそう返す。神谷が言った。

 「宇宙人? そんなの考えるまでもないだろうよ。有り得ないって」

 ソゲキはそれにこう返す。

 「果たしてそうかな? そう思うのなら、どうして宇宙人の侵略に備える必要がないのか、説明できる? 宇宙人がいるって証拠は、色々な所から出ているじゃない!」

 そう言われて、神谷は吉田に視線を向けた。彼に助け船を求めたのではない。逆に、吉田が語りださないかと不安になったのだ。吉田は本を読み続けていた。アキがそのソゲキの質問に答える。

 「普通に答えちゃったら、面白くなさそうだから、少し遊ぶけど… まず、宇宙人がいると仮定して、どうして敵意を持っていると想定できるの?」

 ソゲキはそれにこう返す。

 「分からないけど、もし敵意を持っていたら、ヤバいじゃない!」

 それに火田がこう言った。

 「下手に侵略に備えると、宇宙人を刺激して却って逆効果って可能性も考えられるぞ? 親和的態度が、敵対的態度に変るかも」

 アキがそれを聞いて、言う。

 「火田さんが、この手の冗談に付き合うって珍しいですね」

 「ま、暇だからな」

 「冗談など、ボクは言っていない!」と、オーバーアクションでソゲキはそれに返す。「奴等は、直ぐ傍にいるかもしれない!」

 「いないって」と、ツッコミを入れたのは神谷だった。その後で火田が続ける。

 「じゃあ訊くけどな、仮に宇宙人がいて、敵意があるとして、どうやってその侵略に備えれば良いんだ? 宇宙人の攻撃手段は? どうやればそれに対抗できる?」

 火田がそう質問すると、「分かりません」とソゲキは返した。アキが続ける。

 「問題点はそれだよね。つまり、宇宙人に備えようにも、そもそも情報がないんだ。だから、何をどうすれば良いのか分からない。敵対する何かの侵略に備えるってのなら、各国は軍隊を持っているのだから、実は既に充分に備えているって判断も可能だよ」

 火田がそれに頷く。

 「何かしら、行動を執るってのはな、コストと結果を鑑みて判断するんだよ。だから、コストに見合った結果が得られなければ、行動は執らないってなる。宇宙人の侵略に備えないのもそれだな。コストに見合った結果を得られない。無闇に宇宙人対策をしたって、効果を想定する事すらできないのだから」

 その火田の説明に対し、ソゲキは吠えた。

 「コストに見合った結果は、ちゃんと得られるじゃない! 宇宙人に侵略されたら、人類なんて滅ぼされちゃうよ! それを防げるってのは凄い効果だよ!」

 それに火田は「いや、あのな…」と珍しく気圧されながら答える。

 「そもそも、宇宙人が地球にいる可能性なんてほとんど、ゼロだろうが?」

 ソゲキは答えた。

 「宇宙人が地球にいない事は、科学的に証明されていない…」

 それを聞くと、神谷が「あっ」と言った。“科学”なんて、言葉を使うと、この男が口を開くと思ったのだ。

 「……確かに、科学的に宇宙人が存在しない事を証明する事はできないよ」

 吉田だ。本から視線を上げると、彼はソゲキを見ながら言った。

 「でも実は“ない”事の証明は極めて困難だから、当たり前だよ。“ある”事と違って、“ない”事を証明する為には、この世のあらゆる場所をあらゆる観測方法で探さなくちゃいけないから」

 それにソゲキはこう返す。

 「でも、宇宙人の痕跡とか、写真とか、そういう証拠もあるじゃない?」

 淡々と、吉田はそれに応えた。

 「それは正確には、単にその痕跡や写真を“宇宙人によるもの”と解釈しているだけだね。因果関係どころか、相関関係ですらない。原因 → 作用 → 結果。このうちの“原因”を勝手に想像しているだけ。その他にも、自然現象や捏造など、いくらでも解釈は可能なのに、恣意的に“宇宙人”を当て嵌めているんだ。

 さっきの“ない”事の証明が不可能というのは、つまりは、反証ができない、という事だよ。宇宙人研究は反証不可能性を持つのだね。だから、いつまでも否定されないで生き残ってしまう。ところが否定はされないけど、何年経っても成果を出したりはしない。だから当然、娯楽以外では、研究が社会に活かされる事もない。更に、周辺部の痕跡などの証拠は出ても、決定的な証拠は出ない…

 こういった特徴を持つものは、普通、“疑似科学”とされるね。科学の合理的基準は未だに設定されていないけど、宇宙人研究については疑似科学で良いと思うよ。つまり、社会で真面目に取り上げる必要はない、という事……」

 言い終えると、吉田はもう語る事は何もないとでも言うように、再び本へと目を向けて読書の続きを始めた。

 「いや、あの… 吉田さん?」

 そんな吉田の行動に、困りながらソゲキはそう問いかけた。なんだか分からないが、その吉田の語りと行動には、有無を言わせず会話を終わりにする破壊力があった。

 「いや、こうなったら、もう無駄だよ、ソゲキ」

 と、神谷が言う。すると、ソゲキはこう言った。

 「あぁん! 地球が宇宙にある限り、僕らはみんな、宇宙人! ってボケようと思っていたのに」

 「そんなボケの為に、お前はあんなに大騒ぎしていたのか!」

 と、火田がツッコミを。

ガールズトークがあるなら、ボーイズトークも と思ってやってみました。

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