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Never Ever(外伝)  作者: 一葉
第二話:空漠の花嫁
4/5

空漠の花嫁(前編)

このお話は、「ギグ・シティの悪夢」と呼ばれるギグ・シティ消滅にまつわる話です。

時代は遥か昔、魔法大戦よりも前になります。


挿絵(By みてみん)


Alicelciace IellVol(27)(アリセルサス・エイルヴォル)

ナイック大陸政府中央特務軍特殊部隊大尉 SA+の魔法士

魔法士としての資質により幼い頃より軍にて育つ

覇気無し、やる気無し

しかし、SA+の魔法士である為に軍にて飼い殺しにされている


Lidyth Liol(17)(リディス・リオル)

反政府同盟構成員の一人 普段は酒場の看板娘

B・の魔法士。

魔法士としての資質は母親から受け継ぐ。


Leadiath Liol(44)(レディアス・リオル)

リディスの父、反政府同盟の一つ「楡の杜の守護者」のリーダー

酒場「梟の森」の店主

魔法士としての資質はなし。

 

JuneVia Reset(24)(ジュネビア・リセット)

ナイック大陸政府中央特務軍特殊部隊中佐 VA・の魔法士

中央特務軍特殊部隊の隊長を勤める。

目標は全て殲滅してきた冷徹で非常な指揮官。

人付き合いが下手で、誤解されがちだが部下には優しい。

同じ境遇の仲間という意識が強いのかもしれない。

ジュネも幼い頃に軍に引き取られ育てられた。







   ????年?月?日


   ナイック大陸第2の都市ギグ・シティにて

   (アウレドゥスがナイック大陸自治区の首都になります)






   【邂逅】






俺様はアリセルサス・エイルヴォル。

みんなはアリスと呼ぶ。

女みたいで嫌なんだが、いつの間にか定着していた。

今更訂正するのも面倒なんで、そのままで通している。

そんな俺様アリスは困っていた。

非常に困っていた。

何に困っているかって?

中央軍大尉の俺が何で軍から逃げなきゃならないんだ!






その日、俺は非番だった。

すっげぇ久しぶりの非番だ。

と言っても、やることもないから街をぶらつくしかないんだけどね。

1件目で飲んで良い気持ちで2件目に向かっていた時だ。

少し離れたところでいきなり爆音が響き渡った。

俺も一応は軍の人間だから様子を見に行こうとして、裏路地に足を踏み入れた。

そしたら暗がりから走り出してくる奴がいるじゃないか。

職務質問しようと近付くと、微かな明かりに相手の顔が見えた。

それが若い女だったもんだからびっくりしちまって一瞬足を止めちまった。

だってなぁ・・・すげぇ好みだったんだよ(苦笑)

でだ。

足止めたのがまずかったな。

いきなり胸座捉まれてそのまま引きづられて今に至るってわけだ・・・

なんで俺って律儀に付いて行ってるんだろうな?

どう考えてもこの子ってばあの爆発の関係者に見えるんだが。

しかし・・・微かに香る髪の匂いがそんな俺の思考を擦れさせて行く。

うむ、このまま付いていって仲間を一網打尽と言うことにしよう。

そうしよう・・・・・






ドン!と物凄い音を立ててドアが開かれる。

開いたドアの向こうには、足を振り上げて私が蹴り開けましたと言わんばかりの女の子が立っていた。

その女の子は振り上げた足を戻す勢いで手に掴んでいた何かを放り投げる。

投げられたものは放物線を描いてテーブルに着地し、そのままテーブルを潰して床に落っこちた。

レディアスはため息をついて、掌で顔を覆った。


「リディス・・・

 もう少し女らしくできんのか・・・・・?」


部屋の中にいるほかのメンツも似たり寄ったりの表情をしている。


「うっさいわい。

 うちのすることに文句いいなや。」


返事を返しながら開いた時と同じ勢いでドアが閉じられる。


「んなことより、そいつに顔見られた。」


そう言われて、初めて全員が床にのびている男に注目した。

よれよれのシャツに無精ひげを生やしている。

あまり格好良いとは言いがたいのだが、愛嬌のあるタレ目は人好きのする笑顔を作りそうだ。


「どうする親父?やっちゃうか?」


「リディス・・・いつも言っているだろう、俺達はテロリストじゃない。

 一般人には絶対に手は出さない。」


最年長のアゼルファが前に進み出る。


「そうは言っても、このままと言うわけにもいくまいな。

 とりあえずこやつから話を聞くしかなかろう。」


その言葉を受けて、何人かの若者がアリスを起こそうと近付いた。

しかし、アリスは自らの腕の力のみで跳ね起きると、近くの椅子にすとんと座った。


「で、俺から何が聞きたいって?」


唖然とする皆の前で悠然と足を組む。


「取り押さえろ!」


誰かの叫びに反応するように一斉にアリスに群がっていく。

先頭の男の手がかかりそうになった瞬間にアリスは椅子の上から一瞬で消えていた。

左右を見回す人々に後ろからのんきな声がかかる。


「どこ見てんの?こっちこっち。」


全員が一斉に振り返る。

そこには気だるげな表情で窓辺に立つアリスがいた。

レディアスが慎重に歩を進める。


「貴様、何者だ?」


レディアス達は張り詰めた空気でアリスを見つめる。

しかし、アリスはと言えば日向の猫のようにのんきな雰囲気を持っていた。


「俺か?ナイック大陸政府中央特務軍特殊部隊大尉アリセルサス・エイルヴォルだけど?」


その答えにレディアスは歯軋りをさせながら呻いた。


「軍の犬か・・・・・」


レディアスの言葉にアリスが顔をゆがめる。


「その言い方やめてくれよな。

 結構傷つくんだぞ。」


「軍の巡回路は把握していたつもりだったがよく嗅ぎつけたな。」


「んー・・・今日は非番で飲み歩いてて偶然ぶつかっただけだけど?」


全員が呆気に取られる。

ただ一人だけ、リディスは呆気に取られたメンバーたちに気を取られ、隙を見せたアリスに反応していた。

床を蹴ると一瞬でアリスに肉薄し、その急所を狙って拳を突き出した。


「やめろ!中央軍の特殊部隊は・・・」


レディアスが言い終わらないうちに終わっていた。

アリスはリディスの拳を受け止めると、そのまま捻りあげ、後ろから羽交い締めにした。


「・・・・・全員がAクラス以上の魔法士なんだよ。」


捕まったリディスは激しくもがいて離れようとするが、巧みに捕らえたアリスの腕を抜けることはできなかった。


「離せやこのおやじ!」


「お・・・おや・・・・・・・・・俺はまだ27だ・・・」


半泣きになりながらもアリスの腕は緩まなかった。


「離してやってくれ、俺達は逃げも隠れもしない。」


穏やかな声でレディアスが話しかける。


「いやだよ~ん。」


「何故だ?」


「だっていい匂いが・・・」


ゴス!

リディスの踵がアリスの股間にめり込む。

アリスは声にならない声を上げて倒れこんだ。

そんなアリスを男達は何とも言えない顔で眺めていた・・・・・






やっと立ち上がれるようになったアリスは涙目でリディスを睨んでいる。


「おまえにゃ分からんかもしれんがな、も~~~~~のすんごく痛いんだぞ。」


微妙に前傾姿勢なのが痛々しい。


「ところで、いつお仲間が来るんだ?」


レディアスが静かに尋ねた。


「仲間?」


「軍だよ。

 ここを知られたからには俺達はお終いだよ。

 ここにおまえがいるから逃げられもせんしな。」


アリスは暫くじっとレディアスを見詰めた後答えた。


「来ないよ。」


「なに?」

レディアスがいぶかしげに問い返す。


「だって報せてねぇもん。」


二人は静かに見詰め合う。


「何を考えている?」

先に口を開いたのはレディアスだった。


「何の為に報せずにいるんだ?」


「知りたいか・・・?」


「ああ、ぜひ知りたいね。

 場合によっては仲間を助けられるかもしれない。

 取り引きなら・・・応じよう。」


「そうか・・・じゃぁ教えてやる。」


全員が固唾を飲んで見守る中アリスはゆっくりと口を開いた。




「めんどくさいから」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

たっぷりと時間が経ってから、全員力が抜けたようにその場に座り込んだ。

レディアスも例外ではなかった。

しかし、いち早く立ち直ると鬼の形相でアリスに迫る。


「めんどくさいからだって!」


「そうだけど?」

アリスは相変わらずのんびりした口調だ。


「まぁ、もう少し詳しく言うとだな、俺は一般市民の皆様を守るのが役目だ。

 俺の記憶が正しければ、反政府組織「楡の杜の守護者」が一般人に危害を加えたデータはない。

 うちの部隊は反政府組織の検挙とは関係ない部隊だ。

 となると・・・俺がわざわざあんたらの事を報せる義務は発生しない、と言うわけだ。」


目で、分かったかな?とレディアスに問いかける。


「確かに俺達は一般市民には手は出さん。

 しかし、軍の人間は結構相手にしている。

 それでも報せないのか?」


「軍の犠牲は本人もしくは部隊の不始末だ。

 俺が尻拭いする義理はないな。」


事ここに至ってようやくアリスが本心からめんどくさがっていることを理解した。


「まさかとは思うが、俺たちを見逃す気か?」


「見逃す気はねぇよ。

 せっかく見つけた可愛い子ちゃんを逃してたま  ぐぇ・・・」


妙な成り行きに静まっていた室内に蛙が潰れたようなうめき声が響く。

今度はアリスの顔面に椅子が突き刺さっていた。

角が・・・・・

とっさに伏せていたレディアスはさすがと言うべきか。

アリスが倒れたのを確認すると、リディスは満足そうな顔で部屋を出て行く。

こうしてアリスと「楡の杜の守護者」のメンバーとの奇妙な関係が始まった。






   【転機】






賑やかな店内には20ほどのテーブルがあり、どのテーブルも人でいっぱいだった。

そのテーブルの間を三人の少女が軽やかに歩き回っている。

そのうちの一人がテーブルを片付けてカウンターに戻った時に、奥から声がかかった。


「リディス、3番あがったぞ!」


「あいよー」


レディアスの呼びかけに答えると、巨大な盆を片手で軽々持ち上げ、出来上がった料理をテーブルへ運ぶ。

運んでいる間にもリディスには次々注文が飛び、テーブルを片付けて戻ったついでに奥へ伝える。

他の二人の女の子も似たり寄ったりの状況だ。

とは言え、人間さえも乗せて運べそうな巨大な盆を軽々運んでいるのはリディスだけだった。

中央通から少し歓楽街よりの通りにある「梟の森」は今日も繁盛していた。

そんな店内に、チリンと来客を告げる鈴が鳴る。


「「「いらっしゃいませー」」」


ウェートレスの女の子達の声が重なるように響く。

華やかな声に迎えられて満足げな表情のアリスが入り口に立っていた。

が、次の瞬間には大皿が空を切り裂いてアリスに迫る。

間一髪で皿を避けたアリスが笑顔で話しかける。


「この店では初見の客には皿をサービスするのかい?」


「あんただけの特別出血サービスや、もういっちょお見舞いしたろうか?」


獰猛な笑顔のリディスを全く意に介さずに、アリスは奥の空いた席へと向かう。

リディスはメニューを叩きつけるようにして、アリスの前に置いた。


「い ら っ し ゃ い ま せ 、何 に い た し ま し ょ う か ?」


一語々区切るように発音するリディスの喋りに、いつもと違う様子を嗅ぎ取って周囲の客が静かになる。


「んーと・・・これとこれと・・後これくれ。」


指でメニュー票を指しながら注文品を決めていく。


「申し訳ございませんが、既に売り切れです。」

リディスが明後日の方を向いたまま答える。


「じゃぁこれは?」


「そちらも売り切れです。」


「なら何ならだせんの?」


「水ならいくらでも。」

これ以上はないというくらいの笑顔のリディスが妙に恐ろしい。


「じゃ、水で良いよ。よろしく。」


アリスがメニュー票を閉じようとしたところに、物凄い剣幕のレディアスが厨房から飛び出してくる。

ゴスっと鈍い音を響かせて、レディアスの拳骨がリディスの脳天に炸裂した。


「痛いじゃん親父。」

平気そうな顔でレディアスに訴えるリディス。


「ちゃんと注文取らんか!」


「取ったよ、死ぬほど水が飲みたいってさ。」


再びレディアスの拳骨がリディスの脳天に突き刺さる。


「すまんな、なんにする?」


レディアスはリディスを無視してアリスに話しかけた。


「じゃ、これとこれとこれを。」


「了解した。

 少し待っててくれ。」


厨房へ引き返すレディアスはしっかりとリディスの首根っこをつまんでいた。

奥から何やら言争う声が聞こえるが、アリスは極力聞こえないように努力した。

暫く待っていると、赤毛のウェートレスが注文した品を持って来る。


「ごゆっくりどうぞ。」


そう言うと、笑顔を一つ残して去っていく。

ひらひら揺れるスカートを鼻の下を伸ばして眺めながら、料理に手をつけた。

思いの他に美味い料理を堪能し、店を去るときにまた一悶着あったのだがそれは置いておこう。






アリスが梟の森を訪れると毎度のようにリディスと言争いになる。

初めはおっかなびっくり眺めていた常連客たちも、2度3度と続くうちに「あぁまたあいつが来たのか」くらいにしか思わなくなっていた。

まぁ、それくらいの人間でなければここの常連にはなれないともいえるが。

そのうちに常連客たちは二人の勝負を賭けるようにまでなっていった。

店主のレディアスがアリス寄りなので、オッズはアリスの方が低くなるが、それでもリディスが勝つことが多々あったので、賭けとしてはなかなか盛り上がるのだった。

今日の勝負はと言えば、皿の陰になるように投げた塩の瓶が見事命中したので、リディスの勝ちとなったようである。

客の一部が快哉の叫びをあげる中、アリスはおでこをさすりながら奥へと向かった。


「今日はなんにするんや?」


得意げな顔で鼻をぴすぴす鳴らしながらリディスがアリスの前に立つ。


「いつものでよろしく。」


「りょーかい。」


初めは本気で嫌がっていたリディスも、いつの間にかアリスに気を許すようになっていた。

本人は気付いているのかいないのか、アリスが来そうな時間になると出入り口が気になるのか時々振り返っては仕事に戻っている。

その度に皿の位置、瓶の位置と武器になりそうなものの場所の確認も行っていることから、色恋沙汰に発展するかは今後の流れ次第と思われる。

しかし、アリスの登場を待ちわびている姿に、少し期待を込めて娘を見守るレディアスであった。

妻と死に別れて10年、どこに出しても恥ずかしくない娘にと思って育てたのだが・・・・・

蛙の子は蛙ということなのか。

妻も・・・・・うっほん。

妻との思い出は楽しかったことだけにしよう。

そうしよう。


ちょうどその時、店内に歓声があがった。

どうやらアリスのお出ましのようである。

アリスはいつも同じ物を頼むので、レディアスは調理の準備を始めた。

フライパンを火にかけた所で珍しくカウンター席に座ったアリスが声をかけてくる。


「ちょっといいか?」


手に持ったフライパンを火で温めながらアリスのほうを眺めた。


「どうした?カウンターに来るとは珍しいな。」


「ん。

 ちょっと話があってな。」


「込み入った話なら少し待ってもらえるか?今込んでるからな。」


「いや、このままでいいよ。

 そう時間のかかる話じゃない。」


「じゃ、すまんがこのまま頼むよ。」


レディアスはフライパンを振りながらアリスとの話を進めた。


「言いたいことは一言だけだ。」


ここで、アリスは声を潜めて、何かが盛大に炒められているフライパンの音に紛れて、レディアスにだけ聞こえるように声を出した。




「うちの部隊が反政府組織の壊滅に乗り出すことになった。」




ぴくっと一瞬フライパンの動きが止まるが、何事もなかったように再び振り始めた。

暫く振り続け、味付けが終わると皿に盛る。


「ほい。

 レニ茸と旬野菜の卵とじ炒めだ。おまえほんとこれ好きだよな。」


と顔は笑いながら持った皿をアリスの前に置く。


「ここは何を食っても美味いけど、これが一番美味い。」


「うむ、実は一番得意だったりする。」


「俺の舌も捨てたもんじゃないな。」


一見和気靄靄とした雰囲気に見える2人だが、そこに何か奇妙なモノを感じたリディスは言いようのない不安を感じずにはいられなかった。






2日後・・・・・

楡の杜の守護者のメンバーはいつもの建屋に集まっていた。

人数は23人、メンバーの全員が集まったことになる。

ここはメンバーの一人が所有している倉庫の一つを改装したものだ。

表から見ると画廊のようだが、奥に隠し部屋があり、そこが集合場所となっている。

以前にリディスが蹴り開けた扉は、狭い路地裏へ続く隠し扉になっている。

全員が集まったことを確認したレディアスは前置きを抜きにして重い口を開いた。


「中央特務軍特殊部隊が動き出した。

 政府もいよいよ反政府勢力を野放しにできなくなったようだ。」


その言葉を受けて、部屋中であれやこれや会話が飛んだ。


「静かにしろ。」


大きくはないが重い口調のレディアスに飲まれたように全員が口を閉ざす。


「現在活動を行っている反政府勢力は俺たちを含めて7つある。

 この事実を知らなければ早晩どの組織も消えていくだろう。」


「ちょっといいか?」

メンバーの一人が手を上げる。


「その情報は確かなのか?」


「絶対間違いない。

 何せ情報元は中央特務軍特殊部隊の大尉様だからな。」


みんな”あっ”と言う顔になる。

一部に事情を知らないメンバーが訝しげな顔をするが、周りの人間が1ヶ月ほど前のアノ事件を身振り手振りで説明した。


「そう言うわけで、暫くは活動を自粛しようと思う。」


突然の宣言に部屋中が静まり返る。

静寂を突き破ってリディスがレディアスに詰め寄った。


「何考えとんのや。

 中央軍が出てくるならいい機会やないか。

 みんな潰してまったらええんや。」


「中央特務軍特殊部隊はそんな甘い部隊じゃない。

 今までと同じように考えていたら一瞬で潰されるぞ。」


「そんなん関係あらへん。

 いざとなったらうちがなんとかする。」


「アリス一人にいい様にあしらわれていたくせにか?」


うぐっ、と言葉に詰まる。

それでもバンッと机を叩いて反論した。


「おかんの事忘れたんか?

 あんなやつらいつまでのさばらせるんや。」


「冷静になれ。

 生きていてこそ目的は達成できる。

 俺は奴等を生かしておく気はない。」


レディアスの気迫にリディスは何も言えなくなってしまった。

しかし、理屈では分かっても気持ちは抑えられなかった。

その矛盾に耐えるようにリディスは部屋を飛び出していった。


「だんな・・・いいんですか?」


メンバーの一人が声をかけてくるが、レディアスは”いいんだ”と言ってそのまま黙してしまう。

開いた扉がキィィ・・・と悲しげな音を響かせてゆっくりと閉まっていった。






楡の杜の守護者が活動を休止して2週間。

表向きは何事もなく平穏な日常が続いているように見えた。

しかし、その裏で反政府組織が次々に消えていった。

政府が主要反政府組織として認知しているのものは4つある。

「アトラスの聖天使」「大地のエヴァンドール」「暁の明星」「夕闇のドッペル」

それ以外に5つの組織が確認されている。

このうち、7つの組織が過去3ヶ月の間に活動が行われたとしてチェックされている。

活動休止、もしくは潜伏中と思われる2つの組織を除く7つの組織のうち、この2週間のうちに壊滅した組織は4つにもなる。

レディアスの元には仲間からの情報が次々に入ってきた。

アリスは何も言わないが、これが中央特務軍特殊部隊の成果であることは疑いようがない。

今日も客に紛れて楡の杜の守護者の諜報員が梟の森へと来ていた。

報告は、現在最大規模といわれる反政府組織アトラスの聖天使との連絡が途絶えたというものだった。

これで残った反政府組織は「大地のエヴァンドール」「IYS」「レクイエム」「楡の杜の守護者」となった。

大地のエヴァンドールは穏健派であり、過激活動は全く行っていない。

街角での宣伝活動や講演が主な活動となるため、政府側がこれを鎮圧することはないだろう。

IYS・レクイエムは目下活動を行っていない。

となると、残った目標は楡の杜の守護者のみということになる。

レディアスは諜報員に今後指示あるまで動くなと言い含めて帰した。

他のメンバーにも決して動かないように指示を廻し、この日レディアスは床についた。






深夜・・・・・

暗い部屋の中でベッドから起き上がる一つの影があった。

音も気配もさせずに起き上がると、衣擦れの音さえさせずに着替えを済ませ窓を開ける。

外の窓枠につかまって窓を閉じ、そっと地面に降り立った。

そして、そのまま路地裏の闇の中へと消えて行った。






   【迎撃】






静かな夜が広がっていた。

最近は夜勤が続いているので、梟の森で食事をしてから出勤している。

ここ2週間は働き詰めだった。

反政府組織を片っ端から潰していったせいだ。

昨夜が一番大変だった。

アトラスの聖天使はAクラスの魔法士を何人も抱えていた。

さすがにSAクラスはいなかったが、大尉であるアリスまで現場に出るはめになった。

アリスはあまり現場に出るのは好きではない。

気にくわない上司と顔を合わせなければならないからだ。

普段は本部にいるので、滅多に顔を合わせることはないのだが、現場に出るとそうもいかない。

今日もアノ顔を眺めながら仕事をするかと思うと憂鬱な気分になっていく。

もう少しリディスをからかって遊んでおけばよかった。

等とよろしくない事を考えているうちに、今回の掃討作戦のために設営された作戦本部へと到着した。

まっすぐに司令室へと向かい、ノックを1つして中へと入った。


「エイルヴォル大尉、ただいま到着いたしました。」


部屋の中で書類を処理していた部隊長のリセットが顔を上げ、アリスの敬礼に返礼をする。

そしてそのまま再び書類へと意識を戻していった。

アリスは一つ息を吐くと、踵を返し部屋を後にしようとした。

そのアリスの背中にリセットから声がかかった。


「大尉、ちょっといいですか?」


掃討作戦が始まってから、リセットから声がかかるのは昨夜に続き2度目である。

眉間に皺が寄るのが分かったが、それを意志の力でほぐして振り返った。


「なんでしょうか、中佐。」


「昨夜の作戦で主だった反政府組織は全て壊滅させました。

 残り3つのうち2つは活動休止と見られ、もう1つも1ヶ月以上活動記録がありません。」


”はい”と相槌を打つ。


「これら3つの組織は他組織の壊滅に伴い、このまま消える可能性が高いから無視しても構わないと思います。」


「確かにそうですね。

 アトラスの聖天使さえ消えた事実から、動けばどうなるかは明白ですからね。」


「しかし、潰した組織の残党が手を組む可能性は高いと考えます。

 そこで、今日から暫くは見回りを強化することにしました。

 大尉もこの区域分けに従い見回りをするようにしてください。」


そう言って差し出された地図を受け取った。

アリスの担当区域は政府施設がひしめく都市の中枢部だった。

部隊の中でリセットに次ぐ実力を持つアリスとしては当然の配置だろう。


「了解しました。」


敬礼をして出口へと向かう。


「エイルヴォル大尉。」


リセットの呼びかけに、再び振り返るアリス。


「・・・・・一番警戒が必要な地区です。

 十分注意するように。」


「承知いたしております。」


もう一度敬礼をして、今度こそ本当に部屋を後にする。


「ふぅ・・・毎度のことながら頭が痛いぜ。」


独り呟いて外へ向い歩き出した。

その頃リセットは机にうつ伏せになっていた。


「なんであんな言い方しかできないかなぁ、私って・・・」


はぁ・・・とため息を一つつき、書類を再び手に取って処理を始めた。




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